外国人児童の居場所に関する一考察

外国人児童の家庭・学校・地域・市民団体が取り巻く環境


主題設定の理由

日本には、マイノリティとマジョリティが存在する。マイノリティの中には、社会の中で肩身の狭い思いをしながら生活している人もいるだろう。日本に住む外国人などは、国籍という背景から見たらマイノリティである。そこで、本記事では日本に住む外国人が心から安心して暮らせる居場所とは何かを検討する。

記事の背景

 日本では、少子高齢化が深刻な問題として取り上げられている。欧米諸国においても日本同様に少子高齢化が進んでいるが、その中でも日本は群を抜いている。0~14歳を年少人口、15~64歳を生産年齢人口、65歳以上を高齢者人口としたとき、総人口の割合別に年少人口・生産人口・高齢者人口という順で見ていくと12.2%,59.7%,28.1%である(2020)。高齢人口の割合が年少人口の割合よりも高いことから、労働力不足問題の深刻度は年々深まるだろう。この問題の解決策の一つとして、海外からの移住者を誘致するという選択がある。
 厚生労働省によると、2019年10月末時点の外国人労働者が前年同期比13.6%増の165万8804人だったと発表した。この数値は、7年連続で増加傾向にあり、19年度は07年以降の記録で最多を更新した(日本経済新聞 2020年1月31日)。そして、日本で働く外国人の増加にともない、全国の公立学校で、日本語の指導を必要とする子どもの数も急増している。文部科学省の昨年の調査では、全国に約5万1千人。この2年間で約7千人増えた(朝日新聞デジタル 2019年11月1日)。

記事の目的

 学校における日本語指導は、外国人児童にとって必要なことである。しかし、日本語に触れる機会が増えることによって徐々に母語が喪失してしまう恐れがある。親が日本語を使わない仕事をしていれば彼らは日本語を習得する必要がない。そのため、子供と親によるコミュニケーションは日本で暮らす時間が長くなればなるほど困難になってしまうケースがある。
 従って、本記事では、言語障壁によるコミュニケーションの問題に焦点を当て、外国人児童の居場所となる家庭、学校、地域、NPOのあり方ついての考察を行なった。

調査方法

本調査では、外国人児童の多い横浜地区の小学校と外国人が多く住むイチョウ団地、市民団体であるA B Cジャパンを対象とし、参与観察およびインドネシア人の母親を持つ女性1名にインタビュー調査を行うことを通して、外国人児童の居場所を広げていくための支援のあり方を考察する。

調査対象の概要・紹介

① 南吉田小学校
横浜の中央に位置する本校では、近年林立するマンションへ中国、フィリピン、韓国等の外国人住民が多く移り住むようになり、外国に繋がる児童が増加している。2018年度は外国に繋がる児童が418名であり、全体の約56%となっている。本校は「多文化共生による豊かな学びの実現」と「日本人保護者や地域と外国人保護者との関係づくり」を基本とした学校づくりを目指している。

② イチョウ団地
について神奈川県横浜市泉区と大和市との境目に存在する3600戸もある巨大な団地だ。中国、ベトナム、カンボジア、ラオス、ペルー、ブラジルなど20カ国以上にも及ぶ多国籍の住民が暮らしている。

③ A B Cジャパンについて
横浜市鶴見在住のブラジル人が立ち上げた組織であるABCジャパンは、近年周辺地域で増加しているフィリピン系や中国系など在日外国人一般に向けた生活・教育支援を展開している。

④ インドネシア人の母親を持つ女性
父親が日本人、母親がインドネシア人、兄弟姉妹なしの3人家族で構成されている。中学校入学以前の家庭内では、父親に対しては日本語、母親に対してはインドネシア語で会話をしていた。しかし、中学入学以降から現在までは、母親に対しても日本語で話し、母親はインドネシア語で話している。

外国人児童の家庭における課題

(1) 家庭の必要性
 子供の母語の喪失により、親は、教育への関わりが困難になることが原因ですれ違いが生じ、関係悪化するケースも散見される。そうした状況を生み出さないためにそれぞれ親が子供と日常的にコミニケーションを取ることが大切である。
 親は、子どもが基本的な生活習慣や社会のマナー・ルール等を身につけていく上で家庭の責任が大きいことを自覚するとともに、子どもとの絆を強めるふれあいを 重視し、愛情ときびしさを持って子どもとしっかりと向き合い、幼児期に必要な生活習慣や社 会のマナー・ルール等を子どもに身につけさせる責任がある。

(2) インタビューへの考察
 父親は日本人であるということもあってか、学校や進路において困ったことはあまりないと言っていた。進路面談など学校関係は全て父親にしてもらい、細かい学校の規則などは小さい頃から自分で管理し、親が必要な時だけ知らせるようにしていた。母親とは、深いコミュニケーションはとることができないため苦しい時もあったが、愛情は感じられるからさほど気にならなくなったという。しかし、親密になればなるほど言語によるコミュニケーションは重要であるため、家族間では、母語レベルの言語で話すことが家に居場所を作るということにつながる。


外国人児童への働きかけ

(1)学校からの働きかけ
外国人児童増加による学習の遅れなどが保護者や他校から心配が起きる。しかし、学校公開や授業公開を通して学校の様子を理解していただくことが重要であると感じ、積極的な情報発信を行っている。このように、学校だけではなく社会を巻き込んだ多文化共生は重要である。

(2)地域による働きかけ
イチョウ団地では、地域間交流イベントの開催や住民同士の声かけなどが行われている。団地全体で問題が顕著に出た時期を乗り越え、横のつながりを意識している。町全体として外国人を受け入れる体制が整ってないと厳しい。無法地帯とするのではなく積極的に日本人や外国人同士で交流をし、信頼関係の構築が必要である。

(3)N P Oによる働きかけ
A B Cジャパンは移民の子供の家庭や地域に暮らす人々を巻き込んだ多文化共生を促してきた。親より子供の方がホスト社会の言語や習慣を早く習得していく中で、親子間の関係が葛藤を抱え込むことがある。保護者の日本語習得や教育制度の理解が不十分な場合子供の教育に積極的に関わることが難しくなる。そのためA B Cジャパンでは保護者に対する生活・就労支援や日本語教室、資格取得講座、大学進学ガイダンスを開催してきた。さらに、移民の生活・教育にめぐる情報を学校と共有し、地域社会に発信することで日本社会側の移民に対する理解を目指した。このように保護者の教育への関わりが困難になることが原因で親子がすれ違うことを防ぎ、地域に暮らす人々にも働きかけることを試みている。

おわりに

 外国人児童がより安心できる居場所を作るためには、家庭での親とのコミュニケーションや学校の柔軟な働きかけ、地域住民による横の繋がり、NPO団体によるサポートを通して、より過ごしやすい社会を作っていく必要がある。


参考文献

・朝日新聞デジタル 2019年11月1日 2020年7月11日閲覧
(https://www.asahi.com/articles/ASMB774K2MB7PTIL02S.html?iref=pc_ss_date)
・日本経済新聞 2020年1月31日 2020年7月12日閲覧
(https://r.nikkei.com/article/DGXMZO55077730R30C20A1EA4000
・山脇啓造・服部信雄(2019)『新 多文化共生の学校づくり 横浜市の挑戦』赤石書店
・松尾知明(2013)『多文化教育をデザインする』勁草書房
・佐藤郡衛(2019)『多文化社会に生きる子供の教育――外国人の子ども、海外で学ぶ子どもの現状と課題(日本語)』 赤石書店
・認定NPO法人多文化共生センター東京(http://tabunka.or.jp/project/reaserch/)

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