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久しぶりに紙で買った漫画/漫画:本なら売るほど(児島青)
昔から漫画を読むのが大好きだったけど、最近はもっぱら電子派だった。
だって、どんどん読んで冊数がかさんでしまう。
どんどん読むから置く場所が足りなくなる。
そんな私が久しぶりに紙で購入した漫画が、『本なら売るほど(児島青)』だ。
ここは、本と人とがもう一度出会い直す場所。
ひっつめ髪の気だるげな青年が営む古本屋「十月堂」。
店主の人柄と素敵な品ぞろえに惹かれて、今日もいろんなお客が訪れる。
本好きの常連さん、背伸びしたい年頃の女子高生、
不要な本を捨てに来る男、夫の蔵書を売りに来た未亡人。
ふと手にした一冊の本が、思わぬ縁をつないでいく――。
本を愛し、本に人生を変えられたすべての人へ贈る、珠玉のヒューマンドラマ!
漫画をだらだら物色して立ち読みした1話目でグッと心を掴まれた。
1話目のタイトルは、「本を葬送る」
古本屋「十月堂」の店主である主人公が、ある一軒家での古本の買い取りを終えて、その夜に見た夢の描き方がとても美しかった。と同時に、とてつもない儚さを感じた。
一言もセリフが書かれていないのに、想いが、叫びが聞こえてくるような、とても美しい見開きページだった。
どの本を読んで、
どの本を手元に残して、
どんな本たちを集めていくか、
その軌跡は人生そのものであり、そうやって集められた本たちはその人自身の人生を表している。
だから、その沢山の本を処分することは、その人自身を葬ることと同じなのだなと、そう思った。
主人公のとても好きなセリフがある。
読書って
心地よくて有益なだけじゃつまんねえと思うんだよね
クソみてーな気分になったり腹立ったり傷ついたり
そういうのも味わってほしくてみせやってんの
この物語は、十月堂を中心としつつオムニバス形式で進んでいく。
何人も亡くなる大事件や大地震、大津波みたいな天変地異が起きるわけではない、私たちの日常で起きているだろう、でも大事な日々の出来事に焦点が当たっている。
心温まるストーリーもあれば、少し胸糞悪くなるようなストーリーもある。
でも、その一つ一つのストーリーの心情描写が丁寧でじっくり気持ちに浸りながら物語に入れ込むことができる。リアリティを持って世界に没頭することができる。
それは、作者である児島さん自身が、このセリフと同じような気持ちを持って物語を描いてくれているからじゃないかなと思った。
綺麗な話だけじゃなく、心温まる話だけじゃなく、ちょっと意地悪だったり、胸糞悪くなるような話、でも、「ああ、あるよねそういうこと」って思えるような話。
そういう物語を、リアリティがありながら魅力的に映る物語を、作者である児島さんが描きたいと思っているんじゃないかなと。
ぱらぱらとページをめくる手が止められなくなる。
もっと、十月堂の世界を堪能させてほしい、そんな風に思える漫画だった。