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残酷な世界の住人

「あなたに問いましょう。」
「この世界は広いですか?それとも、狭いですか?」
「どちらでしょう」

「広いと思います。」

「広いと思うなら何故?」
「何故、あなたはそんな表情をしているのですか?」

「そんな表情ってどんな?」

「すごく落ち込んでいるように見えますよ。」
「目に生気はないし、目線も口角も下がってる。」
「体は縮こまり、声も小さい。」
「まるで、、、」

「まるで何ですか?」

「まるで生きた屍です。」

「ボロカスに言いますね。」
「ボロカスに言われてるのに何も感じない。」
「何を言われても心に傷つかない。」
「まるで自覚していたみたいだ。」
「生きた屍か、間違いない」
「この世界は広いと感じているし、認識している。それは、この世界の話。」
「俺の世界は狭い。いつも気付けば、家や職場、飲み屋にいる。見覚えのある景色と変わらない生活、そして漠然とした未来への不安が巡っている。」
「俺の世界とこの世界の間には、透明な壁がある。見えない触れない壁があって、向こう側の世界は眺めれるだけなんだ。向こう側を知っているからこそ、死にながら生きているんだ」

「絶望しているのですね。」
「本当にその壁から向こうに行けないのですか?」
「見えない触れない透明な壁は、どうしようもないのですか?」
「世界は広いと知っているのに、、、」

「その壁から向こうに行く方法はある。俺は見ていた。壁の向こうに行った人達を。そして、そのほとんどの人が朽ちていった瞬間を。だから、怖いんだ。ただ怖いんだ。」

「そうなのですね。」
「怖いのは人間の本能です。」
「人間は生きる為に安全な所に居たいのです。当たり前の事です。でも、広い世界に行きたいという好奇心も持ち合わせています。」
「世の中は残酷ですよね。広い世界を知らなければ好奇心が生まれる事なく、狭い世界で絶望を知らずに生きていたかもしれない。」
「そして、広い世界があり好奇心があるからこそ、より多くの幸せを得れるのかもしれない。」

「あんたがそれを言うんだな。」
「人間を作って、世界を創造したあんたが。」
「あんたはどっちに進んで欲しいんだ?製作者のあんたは?」

「どちらでも。」
「私にそんな思いは在りません。どちらにでも進みなさい。」

「なんだと?」
「無責任だな。」

「ふふふ」
「なるほど」
「正解が欲しいのですね。」
「悲しいことに、正解などありません。どちらに進んで欲しいとも思っていません。勝手に作っておきながら無責任だとは思いますが。」
「ただ、正解というものがあるのなら、選んだ方を正解にすればいいのではないのですか?あなたは自信がないのですよ。壁だとか、正解だとか、製作者だとか、それら全ては言い訳です。あなたが決めて進むだけです。」

「、、、」

「そこまではあなたも分かっているのでしょう。それでも選択することが難しいから正解を探していた、そんな所でしょう。」

「残酷な世界だな。」

「大丈夫。ほんの少しの勇気を持つだけです。」
「自分で決めた正解のない道を歩み続ける勇気を」

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