【映画掘り下げ】パッチ・アダムスはたぶん、笑顔で世界を変えた人の映画です。
笑顔によって、世界が変わる。
心からそう思わせてくれる映画でした。
掘り下げ話をリクエスト頂き
ありがとうございます。
本作で一番印象に残っているのは
ロビン・ウィリアムスが演じる
主人公のパッチが満面に浮かべる、
「笑顔」でした。
実在の人物、
ハンター・”パッチ”・アダムスの人生を元に
1998年に作られた本作。
ご本人はいまだ健在で、
映画の終盤で繰り広げられる「大仕事」は
現在も継続中です。
彼の「笑顔」が今もなお
世界を変え続けている。
この記事では、
主人公を演じたロビン・ウィリアムスにしか
表せない「笑顔」が
映画においてどういう力を宿していたのか
順を追ってお伝えできればと思います。
本作を見ていない方も
楽しめて学べるよう努力してみましたので
映画を味わうように散歩気分でどうぞ。
「笑顔」も色彩もない世界から
冒頭、一番初めに現れた彼の表情は
憂鬱に沈んでいました。
色彩のない世界を走るバスの中。
彼のモノローグから映画は幕を開けます。
「人生とは、家に帰り着くことだ・・・」
職場から家に帰ってきた彼は
鏡に向かいながら
「吹雪の中をさまよっているようだった」
と。
笑顔が印象的すぎて、
こんな深刻な顔は
本当にロビン・ウィリアムスか?
と疑いそうになるほど。
鏡の裏には大量の精神薬が
常備されているようで
どうやら心に闇を抱えているよう。
「笑顔」と遥か遠いところから
物語は始まるのです。
きっかけと「笑顔」
彼は精神病院に入る。
最初のグループセッション。
不愛想で冷めた表情の医者と
退屈そうな患者たち。
そこでアダムスは、
緊張病で右手を上げたままの
ビリーをネタにして、大爆笑を起こす。
「天国はどこにあるんだい?」
「ヒトラーの挨拶は?」と。
一緒にセッションを受けていた
同居人のルディは
「今の、ものすごく楽しかった」。
アダムスは
ここで、初めて
満面の笑みを浮かべるのです。
何かを感じ取ったのか
その夜、一人の老人の元へ赴く。
元実業家で
人間の限界を追い求め過ぎて
精神を患ったアーサーの部屋へ。
アダムスは尋ねる。
「あの4本指の答えはなに?」
アーサーは人の前に4本指を突き出して
何本に見える?4本?イカれてるぞ!
と言い立てる老人だった。
老人が答えをしぶる間、
アダムスは紙コップに穴が空いて
コーヒーが漏れているところを見つけ、
穴をパッチ(絆創膏)でふさぐ。
それを見た老人はアダムスの手を取って
質問の答えを話し始める。
何本に見える?
・・・4本だ。
「違う、私を見ろ。問題を見つめるんじゃない。
目の前にあるものじゃなく、私を見るんだ」
私に焦点を合わせろ。
・・・8本?
・・・でもどうして僕に答えを?
とアダムス。
「絆創膏を貼ってくれた。
あだ名を付けてやろう。”パッチ”だ」
何かのきっかけを得たように
柔らかい「笑顔」を浮かべて
”パッチ”・アダムスはその時、生まれた。
リスにバズーカで「笑顔」
パッチはそのあと部屋に戻り
ベッドに入るが、同居人ルディの
体を揺す音がうるさくて寝られない。
「いつまでやってる?寝られないよ」
「でもトイレに行かないと」
「行けよ。トイレはすぐそこだ」
「でもリスが怖くて行けないんだ」
ルディは存在しないリスに怯え続ける
統合失調、強迫症を患っている。
「リスなんか怖くないだろ。
ほら、一緒に行ってやるから」
「でも、そこにいるんだ。怖い」
動けないルディに対して
笑顔で何かを思いつくパッチ。
手で作った銃を
何もいない空間に向けて
「バン!」
あそこにも!
バン!
今度は天井だ!
バン!
パッチは銃を連射銃に持ち替えて
「ダダダダダダダ!」
ルディは笑顔で
リス退治を応援する。
要塞だ!要塞を作れ!
ベッドを横倒しにして
二人並んでリスを偵察する。
ルディ
「まだ油断できない」
パッチ
「そうか、いいものがあるぞ。これだ」
両手でバズーカを抱える仕草をして、
「バーーーン!!」
「よし!突っ込めえええ!」
二人でトイレに突進して
ルディはやっと、用を足すことができた。
・・・
見えないリスと死闘を繰り広げたあと
ルディをトイレに見送ったパッチは
この上なく満ち足りた「笑顔」を
浮かべることになった。
「ルディの心に触れた気がしたんだ」
あくる朝、担当医に語るパッチ。
嫌味を言ってくる医者にも構わず、
退院を決意する。
「人を助ける仕事をしたいんだ。」
「笑顔」が生まれた理由
アダムスは同じ患者からあだ名をもらい
”パッチ”になって病院を後にした。
冒頭でご覧いただいた
暗くて深刻な顔の男はもういなくなったのです。
本作ではこの後に続く物語で
ずっと「笑顔」が強調されて進んでいく。
ここでいったん立ち止まって
パッチが生んだ「笑顔」について
掘り下げて考えてみます。
精神病院の場面では、大きく3つの
「笑顔」が見受けられました。
右手が下げられないビリー。
4本指の謎を誰かれ構わず問いかけるアーサー。
見えないリスに怯えるルディ。
全ての「笑い」に共通するのは
相手の「個性」に乗っかったということ。
下げられない右手をネタにして冗談を言う。
4本指の謎を真剣に問う。
見えないリスを一緒に退治する。
パッチは、精神障害と呼ばれる症状を
頭のおかしな行動として見るのではなく
ひとりの人間の個性として扱って、
楽しく「笑い」に変えた。
3人の患者は病院という鬱屈した環境の中で
「個性」は冷たく引き剥がされていて
ほとんど人間としては
見られていなかったのではないか。
そこへパッチが自分の「病状」を
「個性」として真剣に向き合ってくれた。
パッチはただ面白いことをやったのではなく
忘れられていた、人間としての個性を
思い出させることによって、
「笑顔」が生まれたのだと思うのです。
個性に乗っかって
もう少し、「笑顔」を掘り下げてみます。
笑いを起こしたことによって
患者の病状が良くなったかどうかは
描かれていません。
でも明らかに、笑う前よりも
生きる希望を、生気を
取り戻したように見える。
それはパッチ自身にも言えます。
患者を笑わせたあとは
もれなくパッチも「笑顔」になって
自分自身も癒されたと言っています。
そして生きる道しるべを得たのです。
この後の物語は、ここで経験した
「相手を癒し、自分も癒される」という
笑いが持つ素晴らしい力を原動力にして
世界を変えていくというお話なのです。
本来、患者を治療するためにいる
医者は、ここではどんな表情だったか?
パッチが入院して最初の診断。
目も合わせず資料だけを見ている。
右手が下げられないドリーで
大爆笑が湧いたときも
不機嫌そうな顔でパッチを叱り
職員を呼んでセッションを中断させる。
ルディと一緒に
見えないリスと戦ってるとき
騒ぎを聞きつけた職員は
扉の小窓から覗くと
無表情で不機嫌そうに去っていく。
パッチがこの後「笑顔」で世界を
変えていくにあたって
戦っていくべき相手を
「笑顔」とは真反対の表情によって
わかりやすく描いているのです。
・・・
本作の一番肝心な要素だと思う
「笑顔」について掘り下げてお伝えしてきました。
ここまで、映画では16分しか経っていませんが
パッチがこのあと進めていく人生の
根本の道しるべが、ほとんど示されたと言っても
言い過ぎではないと思います。
精神病院を退院したあと
大学に入り直して医者になっていくのですが
一貫して、どんなときも
「笑顔」を忘れずに生きていく。
必ず、相手の個性に乗っかって。
この後に続く物語は
パッチが医療界に対して
どのように「笑顔」をもたらしていったか?
というお話として見れば
綺麗に一本の筋が通ってきます。
以下、やや駆け足で
その様子を見ていきましょう。
患者に「笑顔」
パッチは勝手に病院に忍び込み
重病を患っている子供の患者を見つける。
浣腸用のバルブを鼻につけて
おどけたピエロになって
子供達を笑わせる。
ナースたちが対応に困っている
頑固で偏屈な患者に対しては
「死」についての定義を
あえて難しい言葉や、詩的な言い回しによって
意義づけしていく。
患者もそれに乗って
楽しげに定義を出していくと
根負けしたように笑う。
サファリパークで
動物を銃で撃ちまくりたいという
夢をもった老人には、
夜に忍び込んで
風船で模した動物を
ゴム鉄砲で撃ってもらう。
夢が叶って本当に嬉しいよ、と。
・・・
こんな具合に
患者を次々と笑顔にしていく様子をみていると
見ている私たちまであたたかい気持ちに
なってくる。
パッチの魔法がこちらまで届いてくるように。
学生に「笑顔」
パッチの目指す医者の姿は
多くの学生にとっては
受け入れがたいものでした。
物語の重要な役回りで
パッチが恋をする相手、カリンも。
最初は明るく話しかけても
「勉強の邪魔だから話しかけないで」
と振られる。
実習中にも骸骨の模型を使って
笑わせようとするが
笑顔を見せるのは
入学時に友達になったトゥルーマンだけ。
すごく面白いギャグなのに。
ちなみに彼はパッチの考え方に好意的で
このあとの大仕事にもおおいに協力する。
パッチと一緒によく笑う相棒になる。
勉強に集中したいカリンに対しては
試験の結果が張り出されたあとを狙う。
パッチは学年で上位の98点をとった。
79点だったカリンに対して
「成績で判断しなくていい」と声をかけて
得意の話術でおどけた格好をさせて
初めて笑わせることができる。
とどめのサプライズもあった。
勉強会をすると嘘をついて
カリンを部屋に呼び出すと、
そこは風船だらけの誕生日会。
溢れかえった風船が廊下に流れ出て
その場にいた多くの学生を笑顔にする
というのが象徴的。
これでほとんどの学生を味方につけたのです。
その様子を見送って
カリンにもキスをしてもらったパッチ。
いつもの満面の笑みが
印象的でした。
医者と「笑顔」
冒頭の精神病院のシーンで
ご覧いただいた通り、
笑顔と最も遠い存在は医者でした。
ウォルコット学部長は
逆光で現れることが多い。
ついに一度も笑いませんでした。
「我々は人間ではなく医者になるのだ」と
学生に話していて、
患者を病名と呼ぶことに疑いを持たない。
パッチの破天荒なふるまいに対して
2度も退学を言い渡す。
物語上、対極に位置している存在です。
でも全部の医者がそうかというと
笑顔を見せる医者もいました。
産婦人科の学者を招いて
研究セミナーが開かれるとき、
パッチが学生代表で迎える立場になると
入場口に大仕掛を施し
「よこうそ子宮頸部へ」
と壮大なギャグで迎え入れたのです。
学部長は怒り心頭でしたが
笑わずにはいられない医者もいました。
病院について実習の期間になると
その医者は
「君には感謝してるよ。
君を見てると初心を思い出す。
世界を変えてやると燃えていた時期を。」と。
パッチが考える医療の方針は
何かが間違っているわけではなく
現状では実現が難しかったのだ。
医者にも味方はいた。
このあとパッチは病院の設立という
大仕事を仕掛けていくのだが
「医療界」という最大の壁が立ちはだかる。
お元気で病院
ご覧頂いた通り、
パッチはどんな相手であっても
必ず人間としての個性に乗っかって
「笑顔」を生んでいった。
とくに助けを必要としている患者に対しては
友達のように接して、心の健康と幸福感を
なにより大事にして医療に取り掛かった。
しかしパッチがそう願えば願うほど
現状の医療制度では
実現が難しく、反発も多い。
医者を権威として扱う
業界全体の空気だったり
患者を単なる病名として見るシステムや
保険制度による高すぎる患者負担。
今のままでは
自分が志す笑顔の医者にはなれないと
パッチは思い悩んでいた。
・・・
きっかけは学生食堂のテーブルの上にあった。
ナプキンのケースと
いくつかのおもちゃを見て思いつく。
「カリンに言わなきゃ!」
深夜に呼び出されたカリンが見たものは
新しい病院のアイデアでした。
自然の中にある
鼻がついた無料病院だ。
パッチはあふれるアイデアを
カリンに早口でまくしたてる。
今までにない新しいもの。
秘密の通路やゲームの部屋があったり
ユーモアを使って患者の苦しみを和らげる。
肩書きや上下関係はなし。
生きる喜びを追求するコュミニティを作るんだ。
愛こそが究極のテーマだ!
「実現できるわけないわ」とカリン。
パッチは精神病院にいた頃の患者友達、
あの4本指の謎を教えてくれたアーサーに
話を持ち込み、土地と建物を手に入れる。
ボロ小屋だった空き家を
みんなの力で、もれなく笑顔で
新しい病院に作り変えた。
名前は「お元気で病院」。
ちなみに、実在のパッチ・アダムスが
実際に建てた「お元気で病院」がこちら。
あのナプキンのケースで作ったアイデアと
すごくよく似ています。
・・・
順調に見えたパッチの夢は
同業であるはずの医者によって
妨害されることになるのです。
パッチを目の敵にしてきた
医学部長によって
「当校にふさしくない」
「医師免許を持っていないのに
病院を建てて医療行為をしている」
との理由で退学を言い渡される。
パッチは同級生に助けを求め
医学委員会に不服の申し立てをして
集会に出席することになる。
患者が医者を笑顔にする
ここでの議題は
パッチ・アダムスが医師免許を持たずに
診療所(お元気で病院)で
治療行為をしたかどうか。
していたなら、違法行為にあたるので
パッチは退学処分されて、医者になれなくなる。
「治療行為をしていたのかね?」
パッチは
「うちへ来る患者を治療しました。
同時に、うちへ来る人は全員医者です。
患者は他の患者を助けています。
食事を作ってあげたり、お風呂に入れてあげたり。
真剣に話しを聞いてあげる。
その意味では医者です。」
ここで「医者」の定義について
疑問を問いかける。
権威があって先生らしい者だけが医者ですか?
パッチは続けます。
「病人を訪ねて、治療する友達という定義で
十分ではありませんか?
患者来たら、世話をして暖かく迎えてあげる。
それが治療なら、私は治療しました。」
医学委員長は
「自分の行動がもたらす結果を考えてみたまえ。
患者が死んだらどうする?」
パッチ
「死は生きた結果です。
死は人間の敵じゃありません。
死より重い、無関心という病と
戦いましょう。」
後ろを振り返り、
傍聴している医学部生に向かって
続けます。
医者はもっと患者と触れ合うべきです。
死の予防だけが目的ではない。
患者の人生の質を高めること。
君たちを医者にするのは教授じゃない。
患者だけが医者にしてくれる。
・・・
「ですから僕は心から医者になりたいんです!」
委員会が審議に入ろうとしたとき
部屋にぞろぞろと
パッチが笑わせていた重病の子供達と
その保護者が立ち会いにやってきた。
ポケットから取り出し
その笑顔にとり着けたのは
あの真っ赤なピエロのつけ鼻。
会場は穏やかな笑顔でつつまれて
審議の結果を待つことに。
・・・
委員会が戻って来て席についた。
「君は公衆の面前で伝統医学に培われた
医療システムを非難した。」
しかしだ。
「患者の人生を向上させたいという
君の意欲には、なんの反論もない。
患者への愛情は尊敬に値する。」
「したがって我々に君の情熱を阻む必要はない。
卒業を許可しよう。」
患者の笑顔と
それを生んだパッチの笑顔が
世界を変えた瞬間でした。
多くの拍手と笑顔に見送られながら
卒業式では
「正装」を身につけて
笑顔で学校を後にした。
まとめ
ここまでお読み頂き
ありがとうございました。
映画を見ながら、
パッチがここまで自分の信念を強く持って
真っ直ぐに突き進んだ原動力は
なんなんだろう?と考えたとき
どこを見ても「笑顔」があったんですよね。
もうそれは良い意味で、
ほんとクドいくらいに。
そういう意味でもパッチ役は
様々な色合いで笑顔を表現できる
ロビン・ウィリアムスでしか
成し得なかったのだと思えてきます。
残念ながら、
彼の笑顔はもう映画でしか見ることが
できなくなってしまいました。
2014年に他界されています。
でも彼によってあまねく広められた
新しい医療の形は現実の世界で
いきいきと進行しているのです。
パッチ本人は今もまだ健在で
ウェストバージニア州を中心にして
世界中で笑顔を生み続けているのです。
お元気で病院の公式サイト↓
ロビン・ウィリアムスが表現した笑顔によって
1000人以上の医者(公開当時)が
パッチに力を貸して、
多くの患者を幸せに導いています。
この場を借りてご冥福をお祈り申し上げます。
・・・
今回の掘り下げ話は
ロコさんよりリクエストを頂戴して
書かせて頂きました。
ここで個人的な感想を添えると、
「人と違ってていいんだ」と
心から思えてきたということです。
人との違いが個性であって
世界を変える原動力にもなり得るのだと
本作から教えてもらった気がしてます。
おかげさまで
リクエストがきっかけになって
書けば書くほど清々しい気持ちになれました。
またすごく長くなってしまい、
お待たせしてしまいました。
(すいません)
この場を借りて感謝申し上げます。
ありがとうございました。