はじめに
現時点では、緊急避妊薬は病院にかかって処方してもらわなければ入手することができません。緊急避妊薬は文字通り使用に緊急性があるため、薬局やドラッグストアなどで購入できると利便性が高まると思われます(メリットとデメリットの比較は今回は行いません)。緊急避妊薬のOTC化が進まないことについて、思い込みでいろいろと批判している人(自称医師なども)が多数見受けられるため、自分なりにわかっていることを整理します。資料で提示されたデータの裏どりは時間がなくできないことをご了承願います。
OTC化の検討そのものは長く行われているようですが、現在の検討は厚生労働省の「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」で行われています。このような評価会議があり、資料が公開されている、という事実を伝えるのがこの記事の主な目的です。資料を自分で確認するという方は、これより下は読まなくてもかまいません。
第17回
第17回の資料では、2017年当時の検討において、緊急避妊薬のOTC化を認めないという結論が出ていたことが再確認されます(会議資料統合ファイル、資料1-1)。
これに対して、「緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロジェクト」の見解があります(会議資料統合ファイル、資料1-2)。PDFファイルの43ページの「緊急避妊薬 知っておきたい8つのこと」は、2017年当時のOTC化の否決意見への反論になっています。
(私見)緊急避妊薬のOTC化の前に、緊急避妊薬を女性の意志のみで服用することの是非についてはこのような議論では何も見えてこないと考えています。例えば、本当に子どもを希望して男女が性行為をしても、男性に知らせることなく女性が緊急避妊薬を使用することもありえます。レイプ被害を最小限に抑えることを考慮すれば女性の意志が尊重されるべきといえますが、和姦において男性の意志がないがしろにされかねないことは頭の片隅に置いておいてもよいと考えます。リプロダクティブライツという概念は、男女によって同じものではないように思います。また、性教育やリテラシーが十分かどうかをどのように判断するのかは、教育が必要だと主張する人もその基準を説明できないのではないかと思います。
資料2-5では、日本産婦人科医会のアンケート調査が提示されます。緊急避妊薬のOTC化について、「無条件で賛成」が7.8%、「条件付き賛成」が46.9%、「反対」が42.0%でした(※第17回時点ではこのように報告されていますが、第19回の別添資料では、「賛成/条件付き賛成」が55.2%、「反対」が42.8%と、割合が修正されています)。素朴にみれば、産婦人科医でも賛成と反対が二分している(少なくとも全体として賛成しているとはいいがたい)ように思います。
第19回
第19回では海外における緊急避妊薬の状況が報告されます(資料2-1から2-2)。資料3では、第17回にもあった日本産婦人科医会の追加報告で、緊急避妊薬をOTC化したときの懸念が示されます。88.1%の産婦人科医が、OTC化により何らかの懸念があると回答しました。アンケートの結果の詳細は、第19回の別添資料を参照してください。
個人的には、アンケート結果23は興味深いです。
(私見)上記の懸念はしごくもっともなものです。しかし、たとえば緊急避妊薬のアクセスが容易になることでコンドームの使用率が低下したり、避妊に協力しない男性が増加するのかは明らかではありません。
第20回
資料3-1において、第19回の資料2-1にまとめられた海外実態調査に対する、検討会議の構成員のコメントがあります(あまりにも多いため引用しません)。
第22回
一般に意見を募るためのパブリックコメント案について検討されます(資料2-1)。
第24回
パブリックコメントに寄せられた意見が紹介されます。資料1では概要が示され、資料2では多少整理されています(内容はほとんど同じです)。パブリックコメントは誰でも意見を投稿できるため、ある意味で変な意見もありうることに留意してください。
資料1からいくつか抜粋してみます。
↑年齢制限を設けるとして、性交同意年齢とのズレがある場合はどのように説明されるのかは考える意味があると思います。
↑やや過剰に男性薬剤師を警戒しているように思います。どれほど研修を積んだとしてもクレームをゼロにすることはできないだろうと思います。
↑医療用医薬品だけではなく、要指導医薬品なども薬剤師の服薬指導が求められますが、それにどのような意味があるのかという根幹に関する意見だと思います。個人的には、なぜ緊急避妊薬を使用するのかということは確認すべきだと思います。和姦で避妊が失敗したということであれば特に問題はないでしょうが、仮にレイプがあったということであれば、緊急避妊薬だけではなく警察との連携が必要になるかもしれません。男性薬剤師に聞かれたくないなどの思いはあると思いますが、問題の大きさを考えると医師や薬剤師の第三者的な目線を省略するのはかえって女性のリプロダクティブライツを振りかざしすぎではないかと思います。
↑「女性が自らの意思で性や生殖に関する決定を行えるようにする」はリプロダクティブライツのことですが、あらゆる状況において男性の意志がまったく介在しないことまで含めた意見なのかなどは考慮すべきと思います。
第25回
薬局において試験的に緊急避妊薬を販売することについて検討されます(資料1)。第25回時点での検討会議の意見は、「検討会議結果(案)補足資料」にまとまっていると思われます。
第28回
資料7「緊急避妊薬販売に係る環境整備のための調査事業報告書について」で、試験的な緊急避妊薬の販売の状況が報告されます。報告書本体は厚生労働省のホームページで公開されています。
報告書の別添にある調査結果のまとめを引用します。
おわりに
第28回の医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議の資料6にあるように、勃起不全治療薬タダラフィルのOTC化の要望があったようで、それに関するパブリックコメントが募集されています(2024年12月25日まで)。
これがきっかけなのか、「勃起不全治療薬はOTC化するのに緊急避妊薬はOTC化しないのか!」「女性差別か?」などの意見がSNSで散見されました。自称医師などインテリっぽい人もそのようなことを投稿していたのですが、自分が緊急避妊薬のOTC化について知っているものと違うなあと感じたのが、この記事を書こうと思った動機でした。
検討会議の結論が出るまでこの記事の更新をつづける可能性はありますが、確約できません。記事の冒頭に検討会議のリンクを示しましたので、そちらから実際の情報にアクセスすることをおすすめします。