【表現評論】谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』輪読会記録
はじめに
とあるオンラインコミュニティで『涼宮ハルヒの憂鬱』を読む会を開催しました。この記事はその記録です。おまけとして、会の終了後にJoat Lab./いしじまえいわ『精読・涼宮ハルヒの憂鬱』を読んだ感想を記載します。
開催期間
2024年8月から2024年10月まで
メンバー
原作既読:Takuma Kogawa、西住
原作未読(アニメ版も未視聴):蜆一朗、けろたん
合計4名
注釈や補足
会を企画したときは精読会としていましたが、実際は精読や解釈に重きをおいていません。そのため、この記事を読む方には、すでに数多く存在するであろう精読・考察・解釈とは方向性が異なるということをまず理解していただくようお願いいたします。
ページ数は私が所有しているスニーカー文庫版『憂鬱』第12版に基づきます。どの文庫か(角川文庫など)や版によってページ数にズレがある可能性が否定できないため、参照する際は前後も確認してください。
記事の構成は
メンバーによる要約
メンバー内で話したときに出てきた話題
の順としています(気がついた範囲で、誤字脱字はこの記事を作成するにあたり修正しました)。話題に対して何らかの結論を出そうとはしなかったため、文字通りどのような話題が出たかを記録するにとどめていることに留意してください。
メンバーの西住さん個人によるレビューがnoteで公開されています。リンクを以下に示します。
以下が本編です。
メンバー集めの告知
[目標]
20年前に発売され、もはや古典ともライトノベルの金字塔ともいえる『涼宮ハルヒの憂鬱』を通読することで、ライトノベルとはどのようなものなのか、アニメにない表現などについて考える。
[方法]
谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』(シリーズ第1巻)を読む。1章読むごとにミーティングを開催し、面白いと思った部分やキャラクターの心情などについて自由に意見交換する。意見交換のとっかかりになるように章のまとめ(というよりはストーリー上重要と思われる部分の箇条書き)を用意しておく。これはすべてこがわが用意するか、人が集まれば分担するかもしれない。基本的には原作ライトノベルをもとにすることとし、アニメ版は対象外とする。
[図書について]
『涼宮ハルヒの憂鬱』には様々なバージョンがある。最も有名なのはスニーカー文庫版である。その後、角川つばさ文庫や角川文庫でも出版されている。私はスニーカー文庫の紙の本しか持っていないが、内容は同じであると思われる。古典に触れるという意味でも、手に入るならスニーカー文庫がいいと思うが、各自の都合により電子版を選択してもかまわない。
また、副読本として、同人誌『精読・涼宮ハルヒの憂鬱』を挙げる。全国の大学に「SOS団〇〇大支部」があるが、その東京大学支部のメンバーが作成したものである。読むことは必須ではないし、読むことでかえって自然な感想が出てこなくなるかもしれないが、おまかせする。
ともにこの活動をやりたいという方はなにかしら意思表示をしてください。
プロローグ+第1章
担当:Takuma Kogawa
プロローグ+第1章の要約
アニメ版でも有名な「サンタクロースをいつまで信じていたかなんてことはたわいもない世間話にもならないくらいのどうでもいいような話だが……」から始まる。
スニーカー文庫紙媒体のp.7最後に「そんなことを頭の片隅でぼんやり考えながら俺はたいした感慨もなく高校生になり――、」ページをめくったp.8で「涼宮ハルヒと出会った。」の一行でプロローグが終わるのが完璧。たまたまかもしれないが、ハルヒと出会ったことが本の性質を利用して強調されている。電子版ではできない演出。
『ハルヒ』は基本的には主人公キョンの一人称視点で物語が進行するため、地の文もキョンの心の中の語りになっている。言い回しがやや冗長なのが、宇宙人等にあこがれを抱いていた高校一年生らしくてよい。
例の自己紹介。「東中学出身、涼宮ハルヒ」「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」(『憂鬱』p.11)正直、ここまで読めば『憂鬱』の雰囲気がつかめるだろう。苦手な人はここで脱落してよい。
ハルヒが毎日髪型を変えたり部活を転々としたりといった奇妙な行動に慣れてきたキョンは、ハルヒに「曜日で髪型を変えるのは宇宙人対策か?」と尋ねてしまう(『憂鬱』p.28)。ここでハルヒとキョンの運命が交わってしまう。
キョンがハルヒとまともに会話できていることに驚いたクラスメイトから問い詰められるキョン(『憂鬱』p.37~)。「昔からキョンは変な女が好きだからねぇ」というクラスメイト国木田の発言は、原作を追いかけるとその意味や面白さがわかるのだが、『憂鬱』だけではそれは明かされない。
キョンと何気ない会話をしていたハルヒは突然妙なことを思い付く。「気がついた!」(『憂鬱』p.44)面白い部活がないなら自分で作ればいいじゃない。マリーアントワネットもびっくりだ(マリーアントワネットは例のケーキ発言はしていない)。
プロローグ+第1章の話題
書き出しはかなり有名。海猫沢めろん『左巻キ式ラストリゾート』の書き出しは別ベクトルでインパクトがある。
プロローグを最初読んだときは「句読点が少なくて読みにくいな」と思ったが、これは「オタク特有の早口(息継ぎが少ない)」と解釈できなくもない気がした。
高校でキョンっぽい話し方をする同級生がいた。
なぜハルヒは髪を切ったのか?キョンに指摘されただけで切るだろうか?→人間に知られるようなメッセージは意味がないと判断したのだろうか。照れ隠しで切ったとかではないと思う。
特にプロローグは句読点が少ない。
ハルヒもキョンも常識人なんだよなあ(後の方で古泉が説明してくれる)。どちらも不思議なことに興味はありつつも、現実に足をつけている。
頭でひねっていた最低限のセリフを何とか噛まずに言い終え、やるべきことをやったという解放感に包まれながら俺は着席した。替わりに後ろの奴が立ち上がり——ああ、俺は生涯このことを忘れないだろうな——後々語り草となる言葉をのたまった。
「東中学出身、涼宮ハルヒ」(『憂鬱』p.11)←キョンがリアルタイムで説明していると思いきや、突然すべてを経験した者のような言葉がはさまる(生涯忘れないだろうな、後々語り草、とか)。髪型を毎日変えるのを「片鱗」というのも、リアルタイムではそんなことはわからないはず。現在の話をしたり過去の話をしているようになったり、というのは小説ではよくあるテクニックなんだろうけど、読みにくい、わかりにくいとはまったく思わない。
↑西住の解説:メタ視点で白けさせないのは筆力が高い証拠じゃないですかね。初心者が適当にやったら絶対おもんな、ってなる。自分で書いてる時は絶対に使わない視点。
↑けろたんのコメント:時制が混ざっていたり、やたらと長い重文・複文がつづくと普通は読みにくいと思うんですが、スルッと読めてしまうのはなんなんでしょう。ただダラダラ喋っているように見えて、情報の提示順序とかがかなりコントロールされているため?他の要因としては、長い文とはいえずっとキョンの主観的描写なので、客観的な描写との切り替えにコストが掛からないというのもあるかなと思いました。
第2章
担当:けろたん
第2章の要約
面白い部活動がないのなら自分で作ってしまえばいいと気づいたハルヒ。校内探索で目星をつけていた文芸部を乗っ取り、校舎別館に部室を確保。ハルヒに脅されたキョンも入部を承諾。「これから放課後、この部屋に集合ね。絶対来なさいよ。来ないと死刑だから」(『憂鬱』p.54)長門もいつのまにか部員としてカウントされている。
翌日放課後、ハルヒはさらなる部員集めに向かう。部室にてキョンが長門と気まずい雰囲気になっていたころに、「ロリ顔で巨乳な」朝比奈みくるを連れたハルヒが現れる(しばらく女性同士のじゃれ合い)。ハルヒ、3人の前で「世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団」、略してSOS団の設立を宣言(『憂鬱』p.65)。朝比奈、「この時間平面上の必然」により入部を受け入れる(朝比奈は長門のことも知っていたようだ)(『憂鬱』p.67)。
校内にハルヒとキョンが怪しげなことをやっているという噂が立ち始めたころ、SOS団は朝比奈を生贄にした美人局(?)を実行。コンピュータ研究部からパソコンを強奪する。キョンはハルヒの命令に応え、奪ったパソコンでSOS団のウェブサイトを作成。ハルヒはウェブサイトへの客寄せのため、朝比奈とともにバニーガール衣装でビラをばらまく。事態を察知した教師に止められ、宣伝効果もなし(ビラ巻き前後の着替えタイムでここでもじゃれ合いの描写)。次の日、朝比奈は学校を休む。
以前から転校生属性持ちを狙っていたハルヒ。本当に転校生が現れる!
検討ポイント:
キョンの語りで一文が短くなった。→会話が増えたから?
ハルヒの表情表現が多い。部活を主催してイキイキし始めたみたい。長門の無表情、朝比奈のはわわ顔との三つ巴。
セクシー描写について(けろたんはこれぐらいではなんとも思わなくなってしまっていた。人としてそれでいいのか)。
朝比奈が休んだ本当の理由はなんだろう(ただの人ではないようだが、この世界のことをなんでも知っているわけではなさそう)?
けろたんのコメント:2章はハルヒの笑顔描写が多いと思いました。学校で浮いていたのが、クラブを始動させていきいきし始めたということだと思っています。
些細な検討ポイント:
「土星のマイナー惑星が落ちたとかどうしたとかいうタイトルのハードカバー」(『憂鬱』p.70)考察班が特定していそう。「睡眠薬みたいな名前のカタカナがゴシック体で踊って」いる(『憂鬱』p.56)本は、アニメを参照すればダン・シモンズの『ハイペリオン』だと思われる。
デジタル描写いろいろ:ハルヒの年代のウェブサイトってどんなものか、フリーCGIのアクセスカウンタ、この時代のネット通販がどんなものか、光学マウスはどれぐらいのハイテクか?
「卒業後のことを具体的に考えているわけではないが漠然と大学には行きたいので、あまり内申に響くようなことは慎みたいのだが、」キョンは推薦入試勢なのか、それとも大学入試のシステムを理解していないのか。←入学直後の高校一年生ならそんなものじゃないか?
第2章の話題
2003年頃だとネットはそこまで一般的ではなかったかも。魔法のiらんどとか?ニコニコ動画とかもまだなかったし。
キョンはやれやれ系、巻き込まれ系。
一目ぼれとは。『憂鬱』p.61などでみくるを描写しているが、キョンからみると、みくるは愛でる対象ではあれど、恋愛対象ではないと思われる。
『憂鬱』において「主要人物」とは誰を指すか。キョンとハルヒだけ?SOS団の五人?主要人物がそろうのにどれだけのページをさいているか。第3章で古泉が登場するが、『憂鬱』全体の1/3を使ってようやくSOS団がそろう。
第3章
担当:蜆一朗
第3章の要約
古泉一樹というスポーツ少年っぽい転校生がやってきた。
朝比奈さんは長門さんが気になるらしい。
SOS団の活動内容は「宇宙人や未来人や超能力者を探し出して一緒に遊ぶ」(『憂鬱』p.105)こと。
長門さんがキョン君に話しかける。公園で待っているらしい。
公園で合流すると家に連れていかれる。
朝比奈さんは「この銀河を統括する情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース」(『憂鬱』p.119)らしい。涼宮ハルヒを観察して得られた情報を情報統合思念体に報告するのが仕事。
観察を始めて3年、ハルヒの周りに初めて現れたイレギュラー因子がキョン君らしい。
情報統合思念体の説明は何回読んでも頭に入らない。
異常な情報フレア(情報爆発)の中心にいたのがハルヒらしい。本来は限られた情報しか扱えない地球人類のうちのたった一人のはずなのに。
情報統合思念体は言語を持たないので、長門さんを介して人間とコンタクトしているらしい。
ハルヒは自分の都合のいいように周囲の環境情報を操作する力があるらしい。
キョン君はハルヒに選ばれた存在らしい。
注目ポイント1:人物を形容する例え
生まれて初めて犬を見た子猫のような目(『憂鬱』p.103)
錐のような視線(『憂鬱』p.103)
ハイビスカスのような笑顔(『憂鬱』p.106)
首振り人形のような反応(『憂鬱』p.107)
糸に引かれた操り人形(『憂鬱』p.112)
忍者のように歩き闇のように遠ざかる(『憂鬱』p.112)
カラクリ人形のような動き(『憂鬱』p.114)
動物園でキリンを見るような目(『憂鬱』p.115)
でもキョンにとっては長門は笑えばかなり可愛いと思うらしい。
注目ポイント2:朝比奈さんをエロい目で見るハルヒとキョン君の性癖
第3章の話題
蜆一朗のコメント:情報統合思念体とか言い出したあたりは養老孟司『唯脳論』を読んでるときと同じ気持ちになりました。
キョンはみくるが好きなのか?たぶん、「かわいらしい」にとどまっており、恋愛の面で好きということではない。
ページ数として全体の1/3くらい過ぎてから転換点を迎えるのは小説のセオリーどおり。
長門の元ネタは、アーサー・C・クラーク『幼年期のおわり』のカレルレンと思われる。
ハルヒ「有希ちゃん、眼鏡貸して」(『憂鬱』p. 131)のちゃんづけは意図的か?アニメだと「有希、眼鏡貸して」になっている。原作が誤植の可能性がある。
ハルヒは、自分の暴走を止める役としてキョンを必要としているのでは?←ハルヒの中にも常識人の部分はあるが、万が一のためにそれをキョンに外注しているのだろうか。←この見解は第7章でハルヒとキョンが閉鎖空間から戻るかどうかを話すシーンにも応用可能と思われる。
長門が3LDKに住んでいる意味。この時点では不明。→笹の葉ラプソディなどで、他の部屋は使われる。
三年前にハルヒを中心に情報フレアが起きたのであれば、ハルヒ以外にも似たような人(情報フレアを起こすことができる人)がいるのでは?←情報統合思念体の観測閾値を超えない範囲の情報フレアはあったかもしれない。(『憂鬱』には出てこないけど)佐々木は別に情報フレアを起こしていないしなあ。
一章の段階だとハルヒが誰かと行動しようという空気がない。三章まででSOS団を設立してみんなで行動しようとしているが、キョンの一言でここまで変わるのか?SOS団の設立目的が「宇宙人や未来人や超能力者を探し出して一緒に遊ぶ」(『憂鬱』p.105)なのはいいが、宇宙人(以下略)以外の、ふつうの地球人枠の人間がほしかったのか?
ハルヒの加害的コミュニケーション。ハルヒに限らず、一般にコミュニケーションはすべて加害である。キョンやみくるに色々と命令するという意味の「加害」が目立つが、これ以外にもいろいろと振り回しているから、ハルヒのコミュニケーションはほかの人のと比較しても加害的であるといえる。
西住:情報統合思念体の対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイスを宇宙人と呼ぶのは正しいのだろうか。
↑こがわ:原作だと「ようするに長門有希は人類以外の、地球外生命体ってことになる。早い話、宇宙人だ」(『憂鬱』p.126)とキョンが考える。アニメだと「この銀河によって〜それが私。通俗的な用語を使用すると、宇宙人に該当する存在」(2話エンディング直前)と長門が自己紹介する。
↑西住:全銀河的存在は地球も自己に含んでるはずので宇宙人と呼ぶことに微妙な違和感がある。
↑こがわ:情報統合思念体が存在する領域は、宇宙空間から惑星を取り除いた部分だと解釈しています。
第4章
担当:西住
第4章の要約
①「カジュアルな格好で両手に腰を当てているハルヒは、教室で仏頂面している時の百倍は取っつきやすい雰囲気だった」(『憂鬱』p.139)
→学校がよほどつまらないのか、この日が楽しみだったのか。
②服装の描写が多い
→ハルヒはロンTにデニムスカート。活動的。
→みくるは白いノースリーブワンピース。男が好きそう。
→古泉はスーツ。イケメン枠。
→長門は制服。いつも同じ。
③くじ引きのペア
→1回目はキョンみくるとその他
→2回目はキョン長門とその他
→2回ともキョンはハルヒと組んでいない。ハルヒに願望を実現する能力があり、その能力が発揮されたとして、
A. キョンと組む気は全くなかった
→不服そうな顔を見せているので多分違う
B. キョンがSOS団に馴染めるような組み合わせにした
→なくはなさそう
C. 願望を叶える能力がキョンには適用されない
→なくはなさそう
④デートじゃないのよ。真面目にやるのよ。いい?…マジ、デートじゃないのよ、遊んでたら後で殺すわよ。
→みくると仲良くするのが気に食わないのか。
Bの理由だったとすれば、自己矛盾している。
⑤不思議なものを発見しろという命令
→みくるという未来人を発見しているので命令は遂行している。
⑥誰とも付き合ったことがないみくる
→男の願望を体現したような存在
→何かしら使命を持ってきているはずの未来人があまりに無能で一種の愛玩動物のような存在であるのは一体なぜか。ハニトラか何かか。
⑦みくるの自己開示
→未来からきた未来人。喋ってはいけないことは洗脳されているので喋れない。
→時間平面が云々は理解不能。特に気にしなくていい。
→3年前に大きな時間振動が検出され、それより前に遡れなくなった。ハルヒが原因だけど理由は説明できない。
→キョンに自己開示した理由は、キョンがハルヒに選ばれた存在だから。選ばれたとしたらいつなのか。
→本当の年齢は教えない。15〜18ではない?
⑧長門とペアになって図書館に
→特に意味のある描写はなさそう。長門が本の虫であることはわかる。
⑨昔読んでいた本
→本は昔よく読んだ。小学校の低学年の頃、母親が図書館で子供向けのジュブナイルを借りてきて俺にあてがった本を片端から読んでいた。ジャンルもまちまちだったが、それでも読む本は全て面白かったように記憶している。何読んだか忘れたけど。いつからかな。本を読まなくなったのは。読んでも面白くなくなったのは。(『憂鬱』pp.156-157)
→もう取り返せないあの頃のワクワク感。作品のテーマ。
⑩全体的に
→キョンが他の女と仲良くしているとハルヒが不機嫌になっているのがわかる。
第4章の話題
くじ引き:ハルヒの願望が表れていると考えるべきなのか?
未来人、ちいかわ説。みくるは未来人の中ではまともな方なのではないか。未来は栄養状態がよく発育がいいと想定すれば、キョンよりもみくるが年下でもおかしくない。AIが発達すると知的処理はAIが行うようになるから、人間性や性格がより重要になるだろう。その意味で、みくるの時代では(知性よりも)人間性や性格が重視され、みくるが現代に送り込まれたのではないか。
キョンは「ただの人間」だから、くじ引きでハルヒと別の組になったという説。でもキョンはハルヒに選ばれた存在なんだったら「ただの人間」枠に入っていると考えるのは不自然ではないか。第1章で「昔あんたと会ったことある?」と言ったことを考慮すると、「ただの人間」枠の中でもキョンとそれ以外の人間とで何らかのちがいがあると考えられる。
ハルヒのイライラの原因はなんなのか。キョン×みくると、キョン×長門とで、ハルヒが抱く印象は異なるだろう。
キョンの「本は昔よく読んだ~」は、「喪失」というテーマを示すものなのか。
蜆一朗:ハレ晴レユカイを聴いて、3人とも本を読みながら想像していた声と全然違うなと思いました。
↑西住:声に関する描写はなかった気がする。
↑こがわ:まともな描写は、例の自己紹介直前の「涼やかな声」くらいしかない。
↑西住:どう考えても涼やかな声ではない。
第5章
担当:けろたん
第5章の要約
梅雨時。ハルヒがギリギリに登校するのは珍しいらしい。仏頂面なのは、週末のSOS団探索の不発を引きずっているのか。放課後部室棟に向かうキョン。古泉が素性を打ち明けてくる。なんと古泉は超能力者だった!超能力者は地球上に10人ぐらいいて、皆「機関」に属しているらしい。涼宮ハルヒを監視するためにつくられた組織で、古泉もその一員。機関は世界が3年前に始まったと考えているらしい(しばらく「5分前仮説」的な議論)。「我々が現実と呼ぶ世界を創造したり改変したりすること」ができる神的存在としてハルヒを恐れている。古泉の解釈では、宇宙人、未来人、異世界人が集まったのは、ハルヒの「自在に世界を操る」能力によるもの。古泉の超能力は現時点では不明。キョン、部室に戻って朝比奈の着替えを目撃!朝比奈がいれたお茶を飲む。
翌日。キョンからハルヒに、高校生としてふつうに過ごせ、という旨の説教。キョン、手紙をもらい頃合いを見計らって教室へ行く。朝倉は長門の同族だった!(長門のほうが「上司」らしい)ハルヒの観察に飽きた朝倉涼子に暗殺されかけるが、長門に助けられる。返り討ちにされた朝倉は、長門の情報操作によって転校したことになっていた。。。
まとめ:「機関」も情報統合思念体もエージェントがいろいろいて、様子見派とタカ派がいる。情報統合思念体タカ派の朝倉に命を狙われたことで、物語が動き始める。(ちょうど全体の2/3ぐらい)
ポイント:
最初の段落は自分が書くなら読点を挟みたくなる。
古泉「怖い思いもずいぶんしましたね」は何なのか。(『憂鬱』p.165)
ハルヒ「そりゃ健康な若い女なんだし体をもてあましたりもするわ」(『憂鬱』p.175)
朝倉「わたしは有機生命体の死の概念がよく理解できないけど」(『憂鬱』p.184)ハルヒと仲良くしてね、的なことを頼まれていた気がするが、あれもエージェントとしての工作だったのかも。
朝倉「ちょっと分子の結合情報をいじってやればすぐに改変できる」宇宙人組がいまのところ一番強そう。
「一つ一つのプログラムが甘い」けろたんも言ってみたいセリフ。
情報統合思念体概念いろいろ:「情報結合」「情報制御空間」「崩壊因子」「攻性情報」「空間の正常化」
長門:出血するほどの攻撃を受けても再構築できるならキョンが死んでも復活させることができるのでは。
SQLの文法がおかしいという話は既出。(『憂鬱』p.191)
第5章の話題
『憂鬱』全体をとおして、キョンはハルヒのことを「涼宮」とよんだり「ハルヒ」とよんだり、まちまち。
第6章
担当:蜆一朗
第6章の要約
①未来から来たみくるとの会話
少女キャラがほほ笑む便箋の中に几帳面な字で「部室で待ってます」と書いた手紙が下駄箱に(『憂鬱』p.204)。直観と煩悩によって、イタズラではなくみくるのものだと確信。
昼休みが始まったとたん部室に直行。いつもと雰囲気が違ってちょっと大人びたみくるが部室にいる。未来から来たみくるらしい。
証拠として胸のホクロを見せてくる(『憂鬱』p.207)。いつかそういうチャンスがキョンに巡ってくるらしい。やったな。
いつか困ったことがあったら白雪姫のストーリーを思い出すといいらしい(『憂鬱』p.210)。
未来のみくるが言うには「あまり仲良くしないでほしい」らしい(『憂鬱』p.212)。「久しぶり」と言われたことからもわかるように、しばらくは会えないようだ。
長門が言うには、未来から来た同一人物は「異時間同位体」というらしい。時間移動は言葉では理解できないがそんなに難しいことではないらしい。
②ハルヒ
朝倉が急に転校したのには何かワケがあると直感し、引っ越し前の家に突撃するとハルヒが言い出す(『憂鬱』p.217)。
ハルヒと下校し、かつて朝倉が住んでいたという(長門が住んでいる)マンションの505号室に向かう。住人が出てきて自動ドアが開くのを待って中に侵入。
ハルヒは朝倉がただのありふれた県立高校へ越境入学してきたのを怪しく思っているらしい(『憂鬱』p.220)。
管理人室に向かい、意外にもハルヒが常識的に管理人と相談。朝倉が住み始めたのも三年前かららしい。管理人はスケベじじい。でもそれでいいと思う。
長門がコンビニ袋と学生かばんを下げて帰ってくる。キョンの一言が効いたのか眼鏡をはずしている。すれ違いざまに「気を付けて」(『憂鬱』p.224)。
ハルヒによる「自分がどれだけちっぽけな存在なのか自覚したことがあるのか」論。文庫本2ページ弱にわたる滔々としたまくしたて。言いたいことはなんとなくわかる。
③古泉 VS 青巨人
古泉は気楽にタクシーに乗れるぐらい金持ち。振る舞いとか余裕具合もそんな感じ。
「人間原理」:宇宙があるべき姿をしているのは、人間が観測することによって初めてそうであることを知ったから
人間が物理法則や物理定数を発見し、宇宙を観測できて初めて宇宙そのものの存在が知られた
なぜ宇宙はこうも人類の生存に適した形で想像されたのか?
世界はハルヒによって作られハルヒの思い通りに推移しているらしい
宇宙人・未来人・超能力者が存在してほしいという希望と「そんなものがいるはずがない」という常識がハルヒの中でせめぎ合っているため、かろうじてハルヒは長門・みくる・古泉の存在に気付かないでいるが、キョンがSOS団を立ち上げるよう吹き込んだため、三者が集まることになった。
古泉に手を引かれて3秒目をつぶると、世界は灰色になっていた。物理的な手段では侵入できない次元断層の隙間に連れていかれた。
ハルヒの精神状態が悪化すると次元断層が現れ、ハルヒがイライラすると30階建てのビルよりも高い青の巨人が暴れだす。現実世界で表に出せないストレスを閉鎖空間の中で昇華しているらしい。巨人は物理では説明できない動きをする。
小さい球状の赤い光が巨人を取り囲み攻撃を仕掛ける。古泉からも赤い光が沁みだして、巨人を分解しにかかる。巨人をやっつけたら古泉も元に戻り、閉鎖空間に亀裂が入って騒音とともに元の姿を取り戻した。
古泉が超能力を発揮できるのは「閉鎖空間が生まれ神人(青巨人)が暴れたとき」に限る。
神人を放っておくと閉鎖空間は拡大していき、いずれ現実世界を飲み込んで入れ替わってしまう。
このあたりの事情については感覚的にわかってしまうもので、理屈で納得しているわけではないらしい。とりあえずハルヒの動向には注意しろとのこと。
④ 本編とは関係ないツッコミ
「みくる」という名前が「未来人」から来ているのだとすれば面白い。
自分は眼鏡とか幼馴染に特別な感情を持たない。
「あんたそれでもSOS団の一員なの!」というセリフはなんかいい。いい。(『憂鬱』p.217)
「這々の体」…散々な目に遭い、慌てて逃げだすさま。(『憂鬱』p.217)
確かにハルヒには常識っぽさを見いだせることが結構ある。
第6章の話題
みくるが未来人であることを体で理解したのはここが最初か。未来人が実際に何をやっているのか不明。大人みくるに会うこと、胸のホクロを見ること、すべて規定事項なのでは?
ハルヒシリーズは「なんでもエヴァ教」のえじきになりそうな作品。
「それだけではないのですが」(『憂鬱』p.236)他の理由はなに?すべてを説明する長門、理解も説明も不十分なみくる、におわせの古泉。キャラ立ちはこれでいい。
ハルヒの一人語り。野球場で自分の考えがつぶされるという現実の体験から現在のハルヒができているという重要なシーン。生まれながらに狂った人間というわけではないということを示す。
古泉が「ゲタを預けてもいい」と思うのはなぜか→機関は結局のところハルヒに直接コンタクト(干渉)できない。発生したイライラ(問題)を解消はする(神人と戦う)が、根本にせまれていないような気がする。
人間原理が提唱されたとされる文献のリンクを示す。
第7章+エピローグ
担当:Takuma Kogawa
第7章+エピローグの要約
自称、宇宙人に作られた人造人間こと長門。自称、時をかける少女ことみくる。自称、少年エスパー戦隊こと古泉。ではなぜキョンが選ばれたのか?長門によれば「あなたが選ばれたのは必ず理由がある」(『憂鬱』p.124)らしいが、キョンにはその理由はわからない。
みくるのコスプレを考えるハルヒ。キョンがみくるの妄想をするのを見て「マヌケ面」と罵倒してくる(『憂鬱』p.256)。ありがとうございます!
部室でパソコンを起動し、MIKURUフォルダに保存されているみくるの写真を眺める。左胸に星型のほくろがあることを確認していると、みくるに気づかれる。そこにハルヒが現れ、たいそうな不機嫌オーラを浴びせられる。どういう心境の変化なのか。オセロでもやりながら平凡なSOS団的活動(不思議を探すではなく、だらだらすること)をみんなが楽しんだが、ハルヒはもちろんそれをよしとしていない。
自宅で小説を読みながら眠ってしまうと、なぜかハルヒに起こされる。なんで自分が学校にいて、ハルヒが横にいるのだろう。どうやら閉鎖空間の内部のようだ。校内を歩いてみると、外に出ることはできず、通信も遮断されていることがわかった。
部室で待機していると、赤い光の玉の形をした古泉がやってきた。「とうとう涼宮さんは現実世界に愛想を尽かして新しい世界を創造することに決めたようです」(『憂鬱』p.274)。「あなたは涼宮さんに選ばれたんですよ。こちらの世界から唯一、涼宮さんが共にいたいと思ったのがあなたです」(『憂鬱』p.275)。「朝比奈みくるからは謝っておいて欲しいと言われました。『ごめんなさい、わたしのせいです』と。長門有希は、『パソコンの電源を入れるように』」(『憂鬱』p.276)。パソコンを介して長門と連絡すると、どうやらハルヒとキョンにはもとの世界に戻ってきてほしいらしい。『憂鬱』p.283以降、キョンは元の世界に戻るようにハルヒを説得しようとする。ハルヒはこの世界でキョンと二人で新たに歩もうとしている。
「長門は言った、「進化の可能性」と。朝比奈さんによると「時間の歪み」で、古泉に至っては「神」扱いだ。では俺にとってはどうなのか。涼宮ハルヒの存在を、俺はどう認識しているのか?」(『憂鬱』p.286)。一般人のキョンにとって、ハルヒはハルヒであり、進化の可能性などではない。「俺、実はポニーテール萌えなんだ」(『憂鬱』p.287)。キョンはとっさの行動でハルヒの意志を無視して元の世界に戻る選択をする(具体的な行動はここでは記述しない)。
キョンが登校するとハルヒはすでに着席していた。なぜか知らないがポニーテールである。「似合ってるぞ」(『憂鬱』p.293)。
不思議探索パトロールの第二回が開催される。偶然だろうか、みくる・長門・古泉の三名は欠席であり、ハルヒとキョンの二名でパトロールに向かう。第一回にならえば、喫茶店で方針検討をするはずだ。そこでまずは、宇宙人と未来人と超能力者について話してやろうかと思っている(『憂鬱』p.300)。
第7章+エピローグの話題
なぜキョンが選ばれたのか→自分(ハルヒ)と同類がほしかったのでは。「昔あんたに会ったことある?」「あんたは、つまんない世界にうんざりしてたんじゃないの?」(『憂鬱』p.284)
キョンテレパシー説:キョンが地の文で考えてることが(口に出さずとも)ハルヒに伝わっているのではないか?異世界人説に近い(たとえば『憂鬱』p.270の、……いっそ腕にすがりついてくれよ。……「バカ」のあたり)。
ハルヒはなぜ不機嫌になったのか。直接的にはキョンとみくるがいちゃついていたこと。第6章のハルヒの独白を考慮すれば、ハルヒの素(あるいは地)は現実的、どこにでもいる女子であるから、いらいらしたときはその地が出て、キョンにつらくあたってしまったのではないか。
未来人と情報統合思念体は閉鎖空間の存在を知っているのか(古泉・長門・みくるが、キョンとハルヒが閉鎖空間にいることの情報共有を行っていないと仮定したときの話)。未来人は知ってそう。情報統合思念体は宇宙を統括しているのであれば、その部分集合である閉鎖空間も認識できるかも。
キョンがハルヒにキスをするシーンの挿絵の意味。なぜハルヒが目を見開いている絵をいれたのか。(本文では「ゆえに、ハルヒがどんな顔をしているのかは知らない。驚きに目を見開いているのか、俺に合わせて目を閉じているのか、今にもぶん殴られようと手を振りかざしているのか、俺には知るすべはない」(『憂鬱』p.288)となっている)。
↑けろたん説:ハルヒはずっとキョンを挑発していても手を出されなかったのに(たとえばいきなり着替え始めるとか)、今回はいきなりキスをされて驚いたから。
↑西住説:実はハルヒも少しは元の世界に戻りたがっていたのではないか。
キョンはハルヒの中の常識人的な部分を外注されている存在であると考える。基本的にはキョンは文句を言いながらもハルヒに従うが、まれにキョンが強く主張したときはハルヒはキョンに従うこともあるだろう(キョンがそこまで言うならその方がいいかもしれないという信頼がハルヒの中にあると個人的に思う。『溜息』以降でハルヒがキョンに従うような描写はなかったっけ?)。
おまけ
輪読会を終えてから、Joat Lab./いしじまえいわ『精読・涼宮ハルヒの憂鬱』を読んだ。2024年5月の文学フリマで精読シリーズ全巻を買ってはいたのだが、そのときから今回のような輪読会をすることをぼんやりと考えており、『精読』の内容に引っ張られないように読まずにいた。
実際に『精読』を読んでみると、一般にイメージされる「考察」はこういうものを指すのだろうと思った。今回の輪読会は原作未読・アニメ未視聴のメンバー(ハレ晴レユカイのダンスを少し知っている程度)がいたから、考察のしようがないというのもあるし、私自身が考察をしたいという気持ちがないというのもあって、今回はふつうに『憂鬱』を読んで感想を言い合い、ライトノベルの金字塔に触れる体験をしようということを目標にした。つまり、今回の輪読会は、『憂鬱』をはじめとするハルヒシリーズの理解を深めるのが目的ではなかった。その点で、輪読会ではまったくカバーしていない内容が『精読』で触れられているのは興味深かった。
『精読』に限らず、SNSでハルヒ好きな方(たとえば『精読』にイラストを寄稿するような方)の投稿を読んでいて気になるところがある。それは、ハルヒとキョンの間の恋愛感情に関する解釈である。おそらく主流の解釈は、ハルヒとキョンはお互いが恋愛の意味で好きである、というものである。この解釈は一定程度理解できるものの、個人的にはこの解釈はかなりつまらないものであり、採用したくないものである。いわゆるラブコメ主体の作品であれば、上記の解釈は自然に生まれるだろうが、ハルヒという作品はそもそも恋愛要素はスパイスのようなものであり、その軸で評価することは最初からポイントを外しているように思える(三浦俊彦『エンドレスエイトの驚愕』のまえがきで『ハルヒ』が「ライトノベルの金字塔と言えるSF学園ラブコメディ」と評されているのはまったく納得できなかった。第4章の不思議探索パトロールでのハルヒのふるまいだけを取り出せばギリギリわからんでもない)。第7章でキョンがハルヒにキスをするシーンにおいては、ハルヒとキョンはお互いに「なんらかの意味で特別な存在である」という気持ちは持っていると思うが、恋愛要素という意味ではせいぜい両名が意識的にも無意識的にも感知できないレベルの恋愛感情の萌芽、ないしはふつうの高校生が異性に向ける目線くらいでしかないのではないかと私は考えている(この点は様々な意見があることは承知している)。
『精読』の「はじめに」で想定される解釈の例として挙げられているように、『ハルヒ』をボーイミーツガールものだとかセカイ系だとか捉えるのは、第7章を主眼におけばそういう解釈になるだろうが、『憂鬱』やシリーズ全体を通して考えたときにその解釈が妥当であるとは思わない。典型的なセカイ系の世界観では、「ヒロインか世界か」という二択があるが、少なくとも『憂鬱』においてはその二択は生じていないと思う。第7章でいえば、キョンのとりうる選択は大まかには
ハルヒとともに閉鎖空間で新しい世界を作る
ハルヒとともに元の世界に戻る
であり、ハルヒを捨ててキョンだけが元の世界に戻るという選択肢は、キョンにははじめからなかったものと読解している。どちらを選択してもハルヒ(ヒロイン)はキョンの手の中にある。
また、『ハルヒ』に限定されない内容として、以下も気になった。
何らかの作品を通じて感じた・読み取ったことを作者からのメッセージだと個人的に考えるのはいいと思うが、「これがこの作品のメッセージだ」という主張は私にはできない。これはもう良い悪いの話ではないのだが、私自身は「この作品に触れて、私はこう考えました、これが重要だと思いました」ということを重視しているが、これは考察や精読のやり方として一般的でないだろうとは思う。私にとって作品の考察や精読というものは、主観的な行いであり、出てくる結果も主観的なものである。しかし世にいう考察は客観的なものとみなされているために「顕著なメッセージの一つが……というものでした」という言い方になるのだろうと思った。これは私といしじま(あるいは多くの人)との考えるフレームが異なる可能性があるというだけで、いしじまを否定するものでないことは念のため明記しておく。今後も文学フリマなどでの出店があれば『精読』シリーズは購入するつもりである。