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#1【オンライン展覧会】縣有『白塔』

『有田に個人作家の礎を築いたオブジェ作陶』

こんにちは。
有田で陶芸家をやっております、辻拓眞と申します。

今回は、#オンライン展覧会 というハッシュタグを見つけたので、大学にいた頃の研究の中から、『戦後・肥前地区の陶芸作品』をご紹介したいと思います。


縣有『白塔』(1991) 個人蔵

まず、作品をご覧になっていかがでしょうか?


私が最も影響を受けたと言っても過言ではないこの作品!「こんなの見たことない!」と皆さん思っていただけるかと思います。

それもそのはずで、そもそも粘りけの少ない磁土を用いて、このような造形をするのは困難なのです。


板造りで造形されたオブジェ

この作品を、印象付けているのはなんと言っても板造りという造形手法。

平たく伸ばした土を、張り合わせて作るこの手法は世界的に見ても珍しいものではありません。


では、この作品が異質に映るのはなぜでしょうか?

あえて板の継ぎ目を残している

普通の板造りの手法は、板の継ぎ目を慣らし、継いだ箇所が分からなくすることで、見た目も美しく、より強く結着させることをしています。説明が難しいですね…

皆さんはパンやピザ生地を作ったことがありますか?生地をこねた後、生地が乾燥して割れないようにするため極力、シワがないようにします。その工程と似ていますね。

特に陶土と違って磁土の場合、その工程をするしないで焼いた時のひび割れのリスクが格段に変わります。

この、あえて継ぎ目を残した造形がこの作品の異端さを増しているのです。

では作者はこの手法で何を表現したかったのでしょうか?


ぎりぎりの緊張感が生み出す神々しさ

この作品がそれでも造形として成立しているのは、『建築学』を応用してるからだと私は考察してます。

もう一度作品をご覧になると、ログハウスの丸太のように板が互い違いに組まれているのが分かりますか?

作品の下段、中段と磁土の板が互い違いに組まれている


このひと手間で構造の堅牢さが格段に変わります。焼き物は焼成する際に、多少融解しています。その時造形に、上から重力がかかるように負担がかかるわけですが。互い違いに組むことで多少なりとも力が分散しているのです。

しかしこれは気休めと言っていいほどで、板造りを用いていることに歪みやすいことは変わりありません。

作者の工夫と素材と火のエネルギーが、作品を成立させるぎりぎりの均衡を保っていること。ここに人と自然が織りなす神々しさを感じています。


作者はお世辞にも有名な陶芸家だとは言えません。それは、有田という伝統的な焼き物産地で異端なオブジェ作陶をしていたことによるものだと思います。

しかし、この作品を見た若手作陶家は後に中央の展覧会に出品するようになり、有田の地に有名な陶芸家を排出することになります。

(縣先生のことは、青木龍山先生や井上萬二先生がその影響力をご自身の著書に書かれるほど。入念な取材をした結果、その精神性までもが当時の作家に影響を与えていたことが分かりました。)

この前衛的な陶芸思考。今でこそ再考すべき作品だと私は思うのです。

辻 拓眞 略歴

1992年 佐賀県有田町に生まれる
2015年 佐賀大学 文化教育学部 美術・工芸課程 卒業、 有田国際陶磁展 初入選(以降4回入選)
2017年 佐賀大学 教育学研究科 教科教育専攻 美術教育 修了、佐賀県立有田窯業大学校/佐賀県窯業技術センター非常勤 就任
2019年 日本現代工芸美術展 初入選、現代工芸新人賞「築~KIZUKU~」

現在、父 聡彦のもとで作陶に励む
ー聡窯について

代々、日本磁器発祥の地である佐賀県有田町で作家として活躍している辻家。香蘭社の図案部で活躍していた先代・辻一堂が、1954年に前身である新興古伊万里研究所を設立し、12年後に「聡窯」と改名し、現在に至ります。

絵を得意とする聡窯では、日本や海外の風景・身近にある自然をモチーフを、先代から受け継ぐ線刻技法と呉須(青色の絵具)で描き、日々作陶に励んでおります。

【聡窯・辻 Sohyoh Tsuji】
〒844-0002
佐賀県西松浦郡有田町中樽1-5-14
営業時間:9:00~17:00(土日祝日/定休日)
Tel:0955-42-2653 Mail:artgallery@sohyoh.com



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