#2【オンライン展覧会】澤田犉『安南唐津徳利』
『親しみ親しまれる作陶』
今回は私の昔話から。
私が大学に在学しているころ。
恩師の田中右紀教授に見せていただいた作品に目から鱗が落ちる面持ちがした。
その作品は、白に藍色、染め付けの磁器の鉢。たしか…見込みには『寿』という文字が配置され、側面の胴から高台にかけて呉須で引かれたラインがリズミカルに配置されていた。
のびのびとしたその意匠にも驚かされたが、興味深かったのは、器全体に細かい飛びカンナがなされていることだった。
本来、小石原など土物の産地でなされる飛びカンナ。それを磁土に施すことは珍しい。
その飛びカンナの彫紋に藍の絵の具が入り込み、複雑な色彩を放っていた。まるでブリリアントカットを施した宝石のようでもあった。
すぐにその作者に興味を持った。
名は『澤田 犉』さん。あの“大英博物館”で展覧会があった澤田痴陶人さんの息子さんだと言う。
私の記憶によれば澤田さんは、京都市立美大陶磁器科で富本憲吉、藤本能道に教わり、砥部で陶磁器デザインをしていた。
浜田庄司とも交流があり、趣味で作った水滴を送っていたりしていたそうである。
その後、痴陶人さんに伊万里に呼び戻されては、伊万里陶苑で陶磁器デザインをしたり、有田窯業大学校の発足時に教鞭をとったり。最後は、大分の大学で陶磁史を教えられていた。
私はその生き方にも魅了され、もっとたくさんの作品を見たいと思った。
祖父が持ってた膨大な雑誌の中に一つ、特集記事があった。
その作品を拝見し、やはり澤田さんの作品のルーツは有田や伊万里にはないもので、とても新鮮だと感じた。
中でも物語のワンシーンを切り取った様な、人と動物とが描かれた器には見た者を惹き付ける魅力があった。
地元の友人にそんな話をしていたところ、その友人のお店に澤田さん作と思しき作品があると言う。居ても立っても居られなくなって、作品を拝見した後、買い求めさせていただいた。
私はその作品を澤田さんの言葉から『安南唐津徳利』と仮称している。
『安南唐津』という呼称は、様々な産地を転々と作陶した澤田さんらしいと思う。
日用使いの徳利ながら、そのフォルムを人形のように見立て、オブジェと器の中域のような存在感を持っているところが大変に気に入っている。
描かれているのは女の子。
腕に鳥を抱え、足元には猫が寄り添っている。
女の子の表情、髪の毛の動きが呉須の濃淡で表現されている。
鳥や猫の意匠も肥前地区にはない、オリジナリティに溢れている
女の子が着ているワンピースはドット柄。
支持体の徳利には、前述した飛びカンナも施されている。繊維である服の細かい凹凸感を表現しているのだろうか。その造形に余念がない。
焼き物は何百年の時を経ても、何世代にも渡り大切にされる。造り手としては、そんな作品を残していきたい。
そのエッセンスがこの作品からはうかがえる。
澤田さんの生き方にも見えるが、雑誌のインタビューからも控えめな人柄が感じられた。柔和な笑顔が印象的だった。
その作品が一堂に会すことは今後、ないのだろうか。愛される作品を残し続けたその作陶が回顧顕彰される機会を私は、切に願っている。
辻 拓眞 略歴
1992年 佐賀県有田町に生まれる
2015年 佐賀大学 文化教育学部 美術・工芸課程 卒業、 有田国際陶磁展 初入選(以降4回入選)
2017年 佐賀大学 教育学研究科 教科教育専攻 美術教育 修了、佐賀県立有田窯業大学校/佐賀県窯業技術センター非常勤 就任
2019年 日本現代工芸美術展 初入選、現代工芸新人賞「築~KIZUKU~」
日展 初入選 (以降2回入選)
現在、父 聡彦のもとで作陶に励む
ー聡窯について
代々、日本磁器発祥の地である佐賀県有田町で作家として活躍している辻家。香蘭社の図案部で活躍していた先代・辻一堂が、1954年に前身である新興古伊万里研究所を設立し、12年後に「聡窯」と改名し、現在に至ります。
絵を得意とする聡窯では、日本や海外の風景・身近にある自然をモチーフを、先代から受け継ぐ線刻技法と呉須(青色の絵具)で描き、日々作陶に励んでおります。
【聡窯・辻 Sohyoh Tsuji】
〒844-0002
佐賀県西松浦郡有田町中樽1-5-14
営業時間:9:00~17:00(土日祝日/定休日)
Tel:0955-42-2653 Mail:artgallery@sohyoh.com
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