飲食業未経験からどうやってミシュランの星を獲得する料理店を経営できたのか
こんにちは。
倉敷の美観地区で『株式会社行雲』という会社をしている犬養といいます。
美観地区を中心に、古民家のカフェ、岡山のものしか扱わないライフスタイルショップ、手しごとのものに触れる宿などをしています。
この会社の経営者としていま6年目なのですが、それまではサラリーマンをしており、自分で飲食店やショップを運営したことは全くありませんでした。
そんな自分が経営する行雲という会社で、ちょうど一年前、日本料理店『Bricole(ブリコール)』が岡山版ミシュランガイドの一つ星を獲得することができました。
それ以来、「おめでとう」という声と共に「一体どうやって?」と訊かれることも多々。
そこでこのnoteでは、もともと飲食店の経営など未経験だった自分の会社でなぜミシュランの星を獲得できたのか、そのプロセスと自分のやり方を書こうかと思います。
飲食店経営の具体的な話というよりは「経営者としての自分のスタンス、考え方」という側面の強い話かとは思います。
(具体的な話をしても、それが星の獲得にどこまで寄与しているかどうかはブラックボックスでわからないですしね)
結論を先に言うと、余計な口を出さずに任せているからだと思います
このnote、けっこう長くなるので、最初に結論を書いておきます。
ミシュランを獲得できるまでのお店になったのは、おそらく経営者である自分が余計な口を出さず、お店のほとんどを店長の裁量に任せているからだと思います。
僕も全てを丸ごと投げているわけではありませんが、僕がやったのは準備と環境を整えるところまでが主です。
資金を調達する、物件を探して交渉する、店名を決める、ロゴ、内装、写真などのクリエイティブのチームを作る、あたりまでです。
今回のテーマである「ミシュランの星獲得」に対して、それらが及ぼした影響は全くゼロではないかもしれませんが、主要因とは全く違う、ほんの些末なことでしかありません。
ミシュランについても、あくまでこの料理人の腕や世界観が素晴らしいから獲得できたわけで、完全に料理人の方の評価と手柄だと思っています。
『Bricole』という日本料理店の形態
まずはじめに、弊社の『Bricole』という日本料理店の形態からご紹介します。
スタッフは料理人である店長と、そのサポートや配膳担当の二名体制。
この料理人が、主に昆布をつかった植物性の出汁にとても強く、大きな特徴としては出汁の旨味と瀬戸内の地のものという二点が挙げられます。
席数は最大で17。
6名と4名の半個室が二つと、残りはカウンターです。
とても狭いお店というほどではありませんが、規模としては全く大きくはないお店です。
仕事の基本は「それをする人を理解する」こと
この『Bricole』を弊社で始めた経緯の話。
最初は、人からの紹介でこの料理人の方と知り合ったことからでした。
その時点で「ゆくゆくは自分のお店をしたい。そのための場所、会社を探している」という話はすでにしてもらっていました。
そこから雇って仲間になってもらうまでに、その方の家で実際にやりたい料理を試食させてもらったり、一緒に他の料理店に行って話したり、という過程がありました。
それが「その人を知る、理解する」という過程になるわけですが、実際にお会いしたり話したりしたのは、合計で3〜4回。
その結果、僕の理解を一言でいえば「ああ、この方は料理を通じて表現をしたいんだな」でした。
実際の会話の中でも「表現」という言葉はよく出てきていました。
この「表現」というのは、一つの大きなキーワードかもしれません。
ミシュランにしても、時代に即したメッセージ性やデザインという要素はもちろんありますが、その根底にあるのは「表現をしているお店(それも一定以上のレベルで)」という点なので、そこはちょうど合致した、とも言えます。
「ミシュランを目指す」のは後付け
「ミシュランを獲得するまでの考え方」的なテーマでこのnoteを書いていますが、それはささやかながら「この考え方が誰かの役に立てたら幸い」と思って書いてます。
僕自身はもともとミシュランを獲得することを人生の目標としていたわけではないですし、(ミシュランに限らず)世の中の権威性みたいなものにはあまり興味のない人間な気がします。
ただ、上で書いたように、今回立ち上げようとしている料理店、そして料理人の志向が「表現」なのだと分かってからは、分かりやすく「ミシュランを目指そう!」という言葉をゴール地点の目標として使っていました。
これはぶっちゃけ他のスタッフのモチベタイズ的な部分を考えてのことです。
当時のスタッフ同士のLINEグループの名前は「ミシュランの礎」と僕がつけました。
懐かしい。笑
僕は事業やお店を始めるとき、最初にコンセプトと同時にロゴを作ってそれを羅針盤とすることが常なんですが、今回の場合はこの「ミシュラン」という言葉もゴールイメージを指す言葉として使っていました。
でもあくまでそれは「一緒に仕事を始める人の特徴を掴む」ことありきで、ミシュランはその後付け、という順番です。
繰り返しになりますが、僕自身は「ミシュラン」という言葉があってもなくても士気が上下することはないんですが(経営者はただやるだけですしね笑)、でもビジネス上は星を獲得して助かった部分も多々ありますし、他の社内のスタッフが喜んでくれていたことはただ素直に嬉しいな、と思ってます。
そして、任せる
さてここまでも少し脱線気味になりながらすでに長くなってきていますが、大事なのは「その事業をする人の特徴を掴む」ということです。
今回で言えば、この料理人の方は料理を通じた表現をしたいと考えている、ということ。
で、「表現」って「デザイン」と違ってロジックで語れるものではないので、それであればこちらができることって「その表現を信じて任せること」だと思うんですよね。
ちなみに「デザイン」思考の場合は、課題解決のためのロジカルな話も多くなるので、「表現」よりは言葉によるコミュニケーションや歩み寄りの要素が強くなると思います。
でも「表現」となると、第三者がそこに手や口を出した瞬間、決して良くはならず、チープなものになるのが常ですよね。
おそらくこの「任せる」ということをやり切れるかどうかが、大きな違いになるのかもしれない、とは周りを見ていて思います。
例えばこの『Bricole』の料理人のキャリアを見ていても、本当に任された経験がなかったのではないかと思うのです。
『Bricole』を一緒に立ち上げる前の3〜4年間は別の数社にいらっしゃったんですが、おそらくその時点で料理自体の腕や世界観は今と同レベルには達していたんですよね。
なので僕から見ると、弊社に来なくても、それら前の会社の中でお店を完全に任される立場と環境を与えられていたら、そこでもミシュランの星は獲得できてたんじゃないかな、と思うのです。
でも実際にはそう至ってないわけですよね。
それがなぜかというのがおそらくポイントで、おそらく他社さんと違って弊社でできていたことは「腕を信じて、立場と環境を与えること」そしてその後は「口を出さずに任せる」ということなのかなと思います。
なぜ人は任せることができないのか
ではなぜその「任せる」ということが難しいのか、についても少し私見を書いておきます。
そこのヒントがないと、これを読んでも解決に繋がるものがないような気がするので。
人に任せ切れない理由、たぶん以下の二点あたりに集約されるんじゃないかなと思います。
・「答え」や「正解ルート」が分かったつもりになっている
・失敗するのが怖い
一点目は、なかなか難しい話ですよね。
「成功した」「うまくいった」という体験が多い人ほど、その答えや正解パターンを信じ、頼りたくなる気持ちが強くなるのは分かります。
僕の場合、たぶん小さい頃から「偉そうな大人になりたくねえ」という気持ちがずっとあるんですよね。
その「偉そうな大人」とはどういう人かを分解すると、その大きな要素が「自分が正しいと思ってる」という部分につながる気がします。
だから、自分が「答え」と思ったものには常に疑いの目を向ける習慣を意識しているのかもしれません。
二つ目の「失敗するのが怖い」も、気持ちは分かるんですよね。
特にビジネスや経営の面からすると、失敗はもちろんしたくないでしょう。
ただこれも僕は基本的に「失敗してもいいやん、学びになるし」と思っているところがあり、社内でもスタッフが失敗してもいいように(=そこで学びを得る機会がもてるように)失敗したときのバッファみたいなものを常に設けているようにしてます。
その最も大事なバッファは、経営面でいうとおカネや事業計画の部分かもしれません。
そこはもう、「失敗してもいい」という思想をどこまで経営・事業計画レベルに落とし込むかどうかというスタンスや志向の話になってしまいますが。
でもおそらく、上記の二点から解き放たれると、人に任せることをストレスなくできるようになるのではないかと思います。
誰にでも任せていいわけではないけれど
とは言っても、誰でもいいから信じて任せればいい、ってわけではもちろんありません。
そういう意味では、僕もだいぶセレクトはしています。
この数年間、弊社や僕のところにもちらほらと「お店をやりたい」という方はいらっしゃいます。
そうした方にけっこうお会いしてきましたが、実際に弊社の中で一緒にお店・事業を立ち上げたのは、この『Bricole』の料理人と、あとは『はれもけも』というお店の加藤くんだけです。
その二人の特徴は、「長所がしっかりあること」と「本当にやろうとしていること」です。
そこは見極めないといけないところかもしれません。
そこを見極める精度が低かったとして、会社として痛手を受けることは、結局は経営者としての責任なので。
自分、一応、飲食店を回るのは大好きです
それで言うと、自分の場合は飲食店の経営はしたことがありませんでしたが、20代で社会人になった頃から飲食店に行くこと自体は大好きです。
行ってみて、そのお店について感じたことを書き留めた文章は、メモ書き程度のものも含めると軽く1,000軒は超えてるんですよね。
それは飲食店に限らず、映画や音楽でも、自分の考えや捉え方を言葉にして整理・アウトプットするのが好きな人間でして。
味覚に関してもプロの料理人のようなレベルには全く達しませんが、一般的なレベルよりは考え慣れているところはあるかもしれません。
そういう意味では、飲食店の中で最も大事な「味」や「料理の腕」はそれなりに見極められているのかもしれません(ここは正直、本当の一流ではない自覚はあります)。
「長所をどう出せるか」から組織と事業を考える
人間、誰しも長所と短所があります。
得意、不得意、と言ってもかまいません。
それは僕も全くそうですし、例えばこの『Bricole』の店長も、本当にどんな人間でも、です。
それを大前提とした上で、僕はなるべく「長所を発揮できる環境」を作りたいと思っています。
そうしてその個人レベルでの特徴が、お店や事業の特徴になっていく、っていう順番で考えるタイプです。
(日本の場合、短所を補おうという順番から評価や組織づくりをすることがけっこう多いと感じてます)
「世の中、みんなが個性を発揮できたら素敵だよね」という思想を実現するには、自分にとっては会社という組織体を使うのが最もやりやすい、と思ってやっているんですよね。
(まあもちろん会社だと制約やルールもありますけれども)
でも身も蓋もない話としては、もちろん「ビジネス上で通用する長所があれば」ではあります。
この『Bricole』の料理人レベルだと、めちゃくちゃ高いレベルでの長所と言えるわけですが、まだそれが十分でない若手などはもちろんそれを育てる(もしくは開花するまで待つ)必要はありますよね。
約5,000文字も書いてしまった
最初はライトに書き始めたつもりが、つい長々と書いてしまいました。
好きな分野の話だったもので。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
あなたの何かのヒントになっていると嬉しいです。
もしこのnoteを読んでいて、「自分の店として表現をしたい環境がほしい」と思っている方がいたら、よかったらご連絡ください。笑
Twitterもやってます。