実際にある学校の理念を比較してみる(大日向小学校・中学校、麹町中学校、大空小学校編)
以前の記事「オルタナティブ・スクールを構想する際の3つの問い」で、「なぜそのスクールが存在するのか?」という理念の重要性に触れましたが、今回は実際に存在する3つの学校について、理念の中身を見ていきたいと思っています。
3校の中には一般的に「オルタナティブ・スクール」には分類されない学校も含まれますが、明確な理念を持ってゼロからスタートした新設校もあれば伝統校として変化を遂げてきた学校もあり、また世界的にも有名な教育法をベースにした学校もあれば独自の考え方をもって進んできた学校もあるという意味では多様な3校ともいえると思います。
(1)大日向小学校・中学校の理念
長野県南佐久郡にある大日向小学校・中学校は、イエナプラン教育を体現する学校として、2019年4月からスタートした学校です。
「建学の精神」として、「誰もが、豊かに、そして幸せに生きることのできる世界をつくる。」を掲げています。そして、より具体的に、下記3つのことが大切なこととして挙げられています。
イエナプラン教育の特徴的活動については、大日向小学校・中学校のウェブサイトに分かりやすく記載されています。いずれの活動も理念との強いつながりが想起され、理念が現場でしっかりと具現化されている姿が想像されます。
尚、日本におけるオルタナティブ・スクールの多くは一条校(学習指導要領に基づき、学校教育法の第1条に掲げられている教育施設)ではないのですが、大日向小学校・中学校はイエナプラン教育に基づきながらも、一条校であるという点も特徴的な点です。
(2)麹町中学校の理念
東京都千代田区にある麹町中学校。2014年4月から2020年3月まで同校の校長を務めた工藤勇一氏の教育改革でも有名です。目指す生徒像として、「国際人として考え行動できる能力を身につける」を掲げ、OECDが示す3つの能力と、8つの具体的スキル向上を目的としています。
麹町中学校では例えば、固定担任制、定期テスト、宿題などが廃止されています。こうした、一般的な学校の常識とは異なる具体的な取り組みに注目が集まりますが、大切なことは「手段」ではなく「目的」。全ては、上記に記載した3つの能力と8つのスキル、目指す生徒像につながっています。
詳しくは、麹町中学校での工藤氏の取り組みを描いた書籍『「目的思考」で学びが変わる—千代田区立麹町中学校長・工藤勇一の挑戦』などを参照してみてください。
(3)大空小学校の理念
大阪市住吉区に2006年に開校し、木村泰子氏が初代校長を務めています。「すべての子供の学習権を保障する学校をつくる」を理念とし、4つの力を大切なものとして目指しています。
大空小学校ではまた、「自分がされていやなことは人にしない 言わない」というたった一つの約束があり、約束を破ると”やり直しの部屋”へとやってきます。でも、そこでお説教をされるのではありません。木村氏によれば、「説教とか指導をすることが目的になってしまっている大人には子どもは決して自分のしてしまった失敗や間違いを正直には言いません」、そして大人の役割は「正直に言う、自分で間違いを振り返る、改善方法を自分で示す、守ることを約束する」の過程を見届けることだと話されていました。そうすると、約束を破った子どもはいつしかドヤ顔になったり、自信に満ちていくようになるそうです。
大空小学校については「みんなの学校」という映画にもなっていますので、ご関心あればチェックしてみください。
3つの学校を見て感じたこと
ご紹介した3校いずれにも感じたことは、強いリーダーシップが発揮され、理念が実践に息づいているという点です。また、各学校の理念には、抽象度の高い一文と合わせて、学校として目指す子どもの姿や大切にする力・スキルがより具体的なレベルで設定されていました。結果的に、関係者の中で共通認識が築きやすかったり、実際に学校/先生/生徒がその理念に近づいていっているのかというフィードバックが得られやすい印象も持ちました。
実際に調べてみると、大空小学校では子どもやサポーターに毎年アンケートを実施、理念に対する現状の声を公開していました。子どもに学ぶこと、そして保護者や地域に開かれ、皆で学校をつくっていこうとしている大空小学校ならではですね。
今回の記事もいかがでしたでしょうか。理念は多くの学校がウェブページ等で公開していますし、それがカリキュラムや学校運営にどのように生きているのかを合わせて調べたり、可能なら学校訪問などもできると良いかもしれませんね!