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かみさまがくれた休日を過ごす島で過ごす人 vol.7

「かみさまがくれた休日を過ごす島で過ごす人 vol.7」
短編小説『かみさまがくれた休日シリーズ』の世界を舞台にした短い短い島人たちの不思議な物語。

「島と私」

(登場人物)
・私・・・本島からやってきた看護師

私は島に来たばかりの看護師。大学を出て看護師になり、3年間一生懸命働いた。でも、自分がどんなに頑張っても亡くなる人は減ることはなかった。どんなにまじめに頑張っても、自分に救える命は僅かであった。

せめて目の前の人だけでも助けたいと思っていたが、救えるのはもちろん目の前の人だけで、しかも、その目の前の中の一握りの人しか救うことができなかった。

ある時パッタリとその情熱の火は消えてしまった。なんのために自分がその病院にいるのかわからなくなってしまった。ひと月くらいはなんとかそのまま仕事をこなすことができたが、ひと月を過ぎたあとは今までのように仕事をすることはできなくなった。

周りからも少し休んだら? と言われて、少し休むことにした。でも、数ヶ月休んだところで何も変わらなかった。

ある時、大学の恩師から、少しの間、島の診療所で働いてみたらどうか? という提案があった。そんな大した仕事もないし、何かあった場合はすぐに本島に運ばれるので、何か人の命のやりとりをする場所でない。一度そういうところへ行ってみないか? と。

特に興味はなかったが、今のままでは今の病院にいることもできないので、その恩師の言う通りに島に行くことにした。

フェリーターミナルには小さな小屋のようなチケットの窓口とトイレがあるだけで何もない。観光案内所もない。そんな島である。

何もないな、と思ったが、それ以上のことは考えなかった。住まいは診療所と併設されている。診療所と言ってもただの一軒家だ。部屋を改装して利用している。

だから、普通に生活できる環境が整っているのである。私はそこで暮らすことになった。

最初は役場の人たちに言われるままに、色々なところへ顔を出して回った。と言っても、それほど大きな島ではないので、ほとんど全員の家を回ったのではないだろうか。島の診療所ではこんなことをしなければならないのか、と思ったが、この島特有のものらしい。

役場の人たちも役場で何かを待っているというよりは、いつも自分から誰かの家に行って、そこで用事を済ませているようである。島ならではではあるが、お年寄りにとってはとてもありがたいサービスではないかと思った。

毎日毎日役場の人たちと一軒一軒家を回ると、それだけで帰りの荷物がものすごいことになる。
どの家でも自分たちが作った野菜、時には家畜の肉、取れた魚などをくれるものだから、帰るころには、車の後部座席にはたくさんの食べ物が座っている。

そんなにたくさんは食べれないというが、受け取らなければ失礼と思って最後には受け取ってしまう。
そして、診療所に戻ると、そこには誰か来ていて、「あ、勝手に台所を借りているから」とおばあさんが勝手に料理をしている。

「きっと食材をもらってもどう料理していいかわからないだろうから」と言って、毎日のように誰かが勝手に料理を作ってはおいていく。

私は毎日その料理を食べるだけで精一杯であった。そんなにたくさん料理があっても食べきれない。

そう思っていると今度は、おじいさんたちが、「きっと食べきれんくらい料理があるじゃろ。ばあさん方はいつも作りすぎるからのう。酒を持ってきたぞ。一杯やろう」と言って、勝手にリビングや庭で飲み始める。

そんな生活が何日間か続くのであった。最初はほおっておいて欲しいと思っていたけど、だんだんとその機会が少なくなると今度は寂しくなってくる。

そう思うと自然と誰かがやってくる。自分の心境がどこかの掲示板に張り出されているのではないか、と思うくらいピッタリとやってくるのである。

あるとき私は聞いた「どうしてそんなに親切にしてくれるのですか?」

「え? 当たり前じゃない」

答えになっていないな、と私は思ったが、でも島の人にとってはこれが普通みたいだ。だから、親切だとか、お節介だとか、そんなことは考えていないのだろう。

あるとき私は聞いた「どうしていつもちょうどいいタイミングで人が現れるんですかね?」

「どうしてかしらね? きっとみんなつながっているのよ。そのうち、きっとあなたにもわかるわよ」ふふふ、と言って30代くらいの女性は素敵な笑顔で笑う。

あるとき私は聞いた「ちょっと最近調子悪かったりしませんか?」

「ああ、ちょっと最近体がだるくて、風邪でも引いたかのう?」
「いえ、食べ過ぎ、飲み過ぎのせいだと思います」
「そうかのう? いつも通りなんじゃけどな」
「いつも通りが多すぎるんです」

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