見出し画像

自己紹介と今後の更新について

初めまして、ニューヨークの建築設計事務所で建築デザイナーとして働いている鮫島卓臣と申します。

これまで約4年ほど、建築関連の記事を気が向いたら散発的に色々書いてきましたが、これからはもう少し定期的に記事を更新していきたいなと思い、一度これまで書いてきたものを整理することにしました。それに伴い、マガジンをいくつか作成して、これから書いていくものももう少し体系立てて更新していこうと思っています。

建築について思ったことや感じたこと、建物を見て考えたことなどは『建築持論』、ルネサンス以降の建築家・作品にフォーカスしてその特徴やコンセプト、デザインを分析したものは『形態分析シリーズ』としてまとめています。

そして今回、マガジンを含めてほとんどの記事を有料化しました(マガジン1000円、単発記事300円ほど)。有料部分は全て自分の考察や観察、意見となっています。

さて、これから記事を書いていく上で、一度自分がどういうバックグラウンドを持っていて、どういう活動をしているのかをまとめたほうが、記事やマガジンに対して興味を持ってもらえると思い、以下に簡単な自己紹介とこれまでの活動をまとめてみました。


0.自己紹介

導入でも述べた通り、2022年からニューヨークのSHoP Architectsという建築設計事務所で建築デザイナー/設計士として働いています。バークレイズ・センターや世界一細いタワーとして話題になった111 West 57th Streetなどの建物を設計した事務所です。

セントラルパークから見る111 West 57th Street。その細さがマンハッタンのスカイラインの中でもひと際目を引く。
ブルックリンのバークレイズ・センター。渡邊雄太選手も所属していたブルックリン・ネッツの本拠地でもある。

ニューヨークを拠点にしているだけあって、規模の大きい想像を越えていくようなプロジェクトが多く、毎日刺激的な日々を送っています。記事の内容は全て個人の意見や考察なので、所属を代表するものではありません。

ニューヨークで就職する前は慶應義塾大学のシステムデザイン工学科というところで建築を含めたエンジニアリングや都市工学を勉強し、その後イェール大学建築大学院の3年コースに2019年から留学しました。

学部では当初体育会で陸上をやることしかほぼ考えていなかったので、何を専攻して何を専門にしたいのかよくわからないまま、気づいたら建築の世界に入っていました。なんとなくとった設計演習という最初の授業で、建築の分野としての幅の広さ、そしてそれを一つの形として実現できる、抽象と具象という関係性の面白さに一気にのめり込んでいった記憶があります。

初めて作品として呼べるものを作ったのは、学部の卒業制作だと思います。この時はまだ自分の興味や好きなもの(生物学や虫、環境工学)に専門を絞るべきか、あるいは建築をこのまま続けるべきか、あるいは卒業してそのまま就職するべきか、何をしたいのか全くわからない状態でした。この悶々とした悩みを、「好きなもの」と「建築」の関係性をとことん考えてみることで、一つの作品として作り上げることができたのは今でも大きな財産となっています。

卒業制作の『蟲の塔』。好きなものと建築の関係性を突き詰めて考えることができた

この時に学問としての建築に対するはっきりとした信頼が自分の中で確立されて、それと同時にもっと広い建築の世界を知りたいと思うようになり、留学を強く意識するようになりました。

一年の準備期間を経て、従来の建築の枠組みに捉われない自由で先進的な言説や議論が魅力的だったアメリカの建築大学院にいくつかアプライし、幸運にもハーバードGSDやコロンビアGSAPP、UCバークレーといった学校から合格を頂くことができました。どれも素晴らしく魅力的な学校でしたが、最終的に現地にも見学に行き、雰囲気や校風、そして何よりもそこで出会った人々に惚れ込んだイェール大学建築大学院に進学することにしました。

イェールで学んだことや議論したこと、考えたことは確実に今の自分の建築観の土台になっていますが、特に自分にとって重要だったのは建築家ピーター・アイゼンマンとの出会い、そしてティーチングアシスタントとして一年間授業を一緒に指導した経験だと思います。建築とは単に好きなことや面白いこと、美しいものを表現したり実現する手段ではなく、明確な歴史とディスコースを持つ、古代から連綿と受け継がれてきた学問だということを、この時に学びました。そして西洋と非西洋の建築観の違いというものに気づき、意識しだしたのもこの時です。『形態分析シリーズ』は、この時にピーターと議論したものをもう一度自分なりに解釈して書いたものです。

ゆくゆくはミケランジェロやパラディオ、コルビュジエやルイス・カーンなど、バロックから近現代建築まで取り上げて書きたいと考えています。いつか書籍化もできたらいいなと思っています。ご興味のある出版社の方などいらっしゃいましたら、ぜひご連絡ください。

留学当初は先進的で自由な言説と教育に魅力を感じてアメリカに留学しましたが、卒業してみると、純粋に建物を設計し創るという建築の実践に力を入れた事務所で働いて経験を積んでみたいと思うようになりました。そんな経緯もあり、アメリカ、特にニューヨークで実績のある今の事務所で働き始め、現在に至っています。


このnoteは実は留学を始めた当初、英語による日常会話と滝のような課題の中で、学んだことが日本語で言語化できないのではないかという不安があり、それを解消するために書き始めました。あまりにも更新頻度が低く、本来の目的を達成できたかは甚だ疑問ですが、代わりに書くことを通して建築について考えることそのものが極めて建築的な創作行為だと気づくことができました。これは近々公開する別記事でもう少し深堀りしたいと思いますが、今後も日々建築とその周辺領域について考えていることを文章に落とし込み、論考、創作、持論として記事にしていければよいなと思っています。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

1.これまでの活動

幸運なことに、これまで様々な方々にお声がけいただき、執筆したものを様々なメディアにいくつか寄稿させていただきました。以下にそれらを直近のものから順にまとめてみます。※2024年11月15日更新

建築をあたらしくする言葉

市川紘司、連勇太朗[編]、『建築をあたらしくする言葉』、2024年10月、TOTO出版

33名の著者の内の一人として、『労働』の章を執筆させていただきました。設計士という職業を労働という観点から相対化し、その特徴や問題点について、日本と海外双方の事例を考察しながら議論しています。

建築情報学会白書2023-2024レビュー

2023年度の建築情報学会白書のレビュワーとして座談会に参加した際の議事録が掲載されています。2021年より建築情報学会の活動にも継続的に参加しており、昨年と今年は建築情報学会WEEKのラウンドテーブルセッションをオーガナイザーとして企画し、Youtube上で生配信しました。※配信は現在閲覧不可

Beyond critical regionalism: Application of formal analysis on architectural projects in Japan

ジャーナルウェブサイト
Research Gate
PDF

セルビア建築ジャーナル(Serbian Architectural Journal)のVolume 14、ARCHITECTURAL IDENTITIES: JAPAN特集に学術論文を寄稿しました。ケネス・フランプトンの「批判的地域主義」以降、海外において日本の建築作品がその物質性という一側面を中心に理解され、矮小化されている傾向(地域性の物質化)を指摘し、それら建築作品に内在するコンセプトや空間性といった抽象的な概念を知覚・検討可能にするオルタナティブな手法として、形態分析の応用を提案しています。
批判的地域主義に対する批判の理論的土台としては近年のブラックスタディーズを参照し、日本の建築作品における”地域性の物質化”という傾向は、磯崎新の「建築における日本的なるもの」以降の現代建築家の言説や動向を取り上げて議論しています。最後の章では京都市京セラ美術館(2019)と無鄰菴(1896)の空間における類似性とそれを実現する二つの異なった建築的操作について形態分析を用いて検討し、その応用例としています。

新たな公共性の萌芽──Sprouting of new publics

新建築オンラインに、ニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催された企画展“Architecture Now: New York, New Publics” のレポートを寄稿させていただきました。

ゼロ年代の“森のようなもの”──都市に対する感性から考える

建築討論ウェブマガジンでの特集”グローバル・アーキテクチュアとしての日本現代建築──いくつかの切断面”に論考を寄稿させていただきました。ゼロ年代に多くの日本人建築家が共有していた一連の建築的興味を「森のようなもの」と仮定し、その同時代性を同じように自然にメタファーを求めた「バイオミミクリー」や「生物のような流動性を持った建築」といった世界的な潮流と比較し、再コンテクスト化する試みです。

連載:前衛としての社会、後衛としての建築──現代アメリカに見る建築の解体の行方

現代アメリカに見る建築の解体の行方ロードマップ

建築討論ウェブマガジンで一年間連載を担当させていただきました。現代アメリカ建築の潮流に焦点を当てて、その実践や論壇で議論されていることを、炭素、人新世、デジタルテクノロジー、ポストコロニアル、マイノリティ/ジェンダー、労働とビジネスモデルの計6つのテーマに分けて寄稿いたしました。それぞれのテーマが互いにオーバーラップしていくことで、現代版「建築の解体」とも呼べるような現在のアメリカ建築の潮流が、ひとつの体系として自然に描き出されることを目指しました。

建築家の終わり、あるいは誕生

新建築オンラインに、アメリカの建築家アンドリュー・コバックスが日本で行ったレクチャーのレビューを寄稿させていただきました。

建築と攪乱

建築雑誌2021年12月号の、”海外で働く、海外で学ぶ”セクションに論考を寄稿させていただきました。ここで書いたことは後に建築討論で担当することになる連載テーマの基になっています。


いいなと思ったら応援しよう!