カルチャーを越境するクリエイティブ ── ALAUDARK Branding Filmのクリエイティブ・プロセス
近年、エクストリームスポーツのなかでも人気が高まっている「Dirt Jump」。土(Dirt)でつくったセクションをジャンプスタントに特化したMTB(Mountain Bike)やBMX(Bicycle Motocross)で走る競技であるDirt Jumpは、北米やヨーロッパを中心にワールドワイドに人気を博しています。
ALAUDARKはそんなDirt Jumpのパーツの製造を手がけるグローバルブランドです。Takramはそのブランディングフィルムの制作を担当しています。
「多くのユーザーリサーチをするなかで、自分たちの主要な顧客が10代後半から20代の若者であることがわかりました。そうした若年層にブランドを訴求する方法を探していたんです」と、ALAUDARKの創業者であるデイヴィッドは語ります。
加えて、世界中にプロダクトを販売しているALAUDARKのユーザーはバックグラウンドも多様です。「若くグローバルなオーディエンスがいることを踏まえ、テキストよりも理解しやすく、かついろいろなことを表現しやすい動画という形式による情報発信が適していると考えました」と、デイヴィッドはTakramに動画制作を依頼した背景を説明します。
制作を担ったTakram上海スタジオの趙 子駿(チョウ シシュン)は、動画を通じてALAUDARKというブランドがもつチャレンジ精神を表現しようと考えました。
「単純な部品を安価に大量生産することが多いDirt Jumpメーカーのなかでは珍しく、ALAUDARKは自転車の構造の研究やカスタマイズにも力を入れ、唯一無二のブランドをつくりあげてきました。その挑戦する心をブランディングでも大切にしたいと思ったんです」
デイヴィッドと趙が描くグローバルなコミュニケーションを実現するために、Takram東京スタジオのメンバーでビジュアルデザイナーとして3DCGを専門領域とする小林諒と小松怜奈をプロジェクトメンバーに加え、国境を越えたチームづくりをめざしました。
ビジュアルでコンセプトをプロトタイピング
一口に動画といっても、その表現方法はさまざま。製品の製造過程を紹介する場合もあれば、メッセージを何かしらの物語にのせて伝えるケースもあります。今回、ALAUDARKとTakramはあえてストーリーラインをもたせず、動きだけで興味を惹きつける方法をとりました。
「実はストーリーラインのあるものとないもの、2パターンを制作しました。その結果、観る人の文化圏や国ごとのトレンドに左右されづらい後者を採用することになりました」と趙は話します。
SNSでの発信を想定し、動画は約40秒という短さ。車輪ひとつ取っても「何か楽しいブランドだな」と感じてもらえるようなモーションを、ALAUDARKが手がけるパーツごとに考えたと趙は説明します。そうしたモーションを何パターンも制作したあとで、Takramチームはそれを統合するコンセプトを加えました。
「パーツを人間に見立て、動きでその生命力を表現しようと考えたんです」。コンセプトは「Playful Parts」。趙たちはそれをさらに細分化し、3つの軸をつくりました。
ひとつめの「PLAY the Life」は、仲間と競い、助け合いながら「Dirt Jump」という競技を心から楽しむ姿をを表現したモーション。ふたつめの「SYNC Hearts」は、アスリートの心の繋がりや、感情の高ぶりを表現するインタラクションや連動性のあるモーションです。3つめの「FLY High」では、Dirt Jumpのエキサイティングな側面を、メタルや石、土のマテリアル、ダイナミックなフレーミング、そしてテンポのいい編集(カット割り)や音楽で表現しました。
先にビジュアルをプロトタイプしてからコンセプトに落としこむという今回の方法は、従来のクリエイティブのプロセスを逆行するものです。ブランディングにおいては、まず言葉でコンセプトを固め、そこからビジュアルをつくるという方法が一般的。
しかし、さまざまな文化圏のオーディエンスに向けた今回のプロジェクトでは、あえてビジュアルを先行させることで、直感的で言葉にとらわれない表現を目指しました。また、非言語的なコミュニケーションを駆動させるうえで重要となる音楽でも、英国を拠点とするサウンドデザイナーをチームに招き、小林や小松と同様に“国境を越えたチーム”として制作していきました。
プロセスを通じてのインナーブランディング
「実はイノベーションファームと一緒に何かをつくるのは初めての経験でした」と、デイヴィッドはTakramとのプロジェクトを振り返って語ります。
「Takramのチームは、どうすれば国際的なオーディエンスに届く発信ができるのか、広い視野を与えてくれました。チームと話せば話すほど、この動画を通じて何を訴求したいのかが明確になっていきましたし、そうした会話がブランドの強みを再認識することにもつながりました」
趙にとっても、従来のクリエイティブとは異なるプロセスでつくる今回のプロジェクトは冒険だったといいます。「動画の公開後にすぐコメントがついたのを見て、嬉しくなりました」
デイヴィッドは動画へのリアクションだけでなく、その制作プロセス自体にも意味があったと振り返ります。
「一緒に動画を制作した6カ月間で、ALAUDARKというブランドを通じて築き上げたい価値は何かを考え抜きました。動画は一度公開してしまえば終わりですが、その思考プロセスこそが本当の意味で会社の財産になっています」