第12章 山口の過去
第12章 山口の過去
スロットホールの片隅で、山口誠一は静かに煙草を吸いながらリールの音に耳を傾けていた。その表情にはいつもの冷静さに加え、どこか遠い記憶を彷彿とさせる哀愁が漂っている。その姿に気づいた翔太は、少し戸惑いながらも山口に声をかけた。
「山口さん、今日はなんだか雰囲気が違いますね。何かあったんですか?」
山口は静かに翔太を見つめ、かすかに微笑みながら言った。「いやな、ただ少し昔を思い出してただけだ。俺が初めてこの世界に足を踏み入れた頃のことをな。」
翔太はその言葉に興味を引かれた。「山口さんにも、こんな風に始めた時期があったんですね。どんな感じだったんですか?」
かつての若きギャンブラー
山口がスロットの世界に初めて足を踏み入れたのは、まだ彼が20代前半だった頃だという。
「あの頃は、ただのバカな若造だったよ。」山口は懐かしむように目を細めた。「仕事が終わるたびに仲間と居酒屋に行って、金が余ればパチスロに突っ込む。それが俺の日常だった。」
山口にとってスロットは、ただの遊びだったという。仕事のストレスを忘れるための道具であり、深く考えずにリールを回しては勝ったり負けたりしていた。だが、ある出来事が彼の人生を大きく変えることになる。
初めての大勝利
「ある日、俺はたまたま座った台でジャックポットを引いたんだ。それまで勝ったことなんて小銭程度だったのに、その日はとんでもない額が出た。」
山口の目が一瞬輝きを取り戻した。「あの瞬間は今でも覚えてる。リールが止まって、フラッシュが光り、周りの客が俺を注目してた。あれが、スロットの快感にハマるきっかけだったな。」
翔太はその話に引き込まれた。「それからスロットを本格的に始めたんですか?」
「いや、最初はただの運だった。でも、そこからが問題だ。俺はその運を信じすぎたんだ。」
最初の挫折
山口は煙草の火を消し、新しい煙草に火をつけた。「あの勝利が俺を狂わせた。次も勝てる、またジャックポットを引けるってな。俺は次第に金を注ぎ込むようになり、生活はボロボロになった。」
給料の大半をスロットに使い、借金を重ねていく日々。その結果、山口は家族や友人との関係を壊し、仕事も失うことになったという。
「スロットは、ただ楽しいだけのものじゃない。下手をすれば人を壊す。でも、俺はそのときそれが見えなかった。」
翔太はその言葉に重みを感じた。「どうやってそこから抜け出したんですか?」
恩師との出会い
山口が転機を迎えたのは、彼がある小さなホールで一人の老人に出会ったときだったという。
「その人は、俺のことを見てすぐに言ったんだ。『お前はスロットが何もわかっちゃいない。運で勝とうとしてるうちは、ただの餌だ』ってな。」
その老人は、山口にスロットの仕組みや戦略、そして「ギャンブルとの向き合い方」を教えてくれた人物だった。
「彼のおかげで、俺はただの賭け事としてスロットをやるのをやめた。本気で取り組む価値があるものだって気づいたんだ。」
現在の山口
「それ以来、俺はギャンブルをコントロールできるようになった。勝つために学び、負けても冷静でいられるようになった。そして、今度は俺が誰かに教える番だと思ってる。」
山口は静かに翔太を見つめた。「翔太、お前には才能がある。ただ、それを活かすには正しい知識と覚悟が必要だ。俺が教えられることは全て教えるから、しっかりついてこい。」
翔太はその言葉に深く頷き、山口への尊敬の念を新たにした。
翔太の心の変化
その夜、翔太は山口の過去の話を何度も思い返しながら眠りについた。スロットという世界が持つ魅力と危険。その両方を知ることで、自分が何を目指すべきかを考えるきっかけとなった。
「俺も、もっと学びたい。」翔太はそう心の中でつぶやきながら、新たな決意を胸に抱いたのだった。