第16章 誠一の質問
第16章 誠一の質問
スロットホールの一角、喧騒から少し離れた場所で、翔太は山口誠一と向き合っていた。誠一の目には普段の穏やかな表情はなく、厳しい眼差しが翔太を貫いている。その雰囲気に翔太は自然と背筋を伸ばし、緊張が全身を走った。
「翔太、お前、最近のプレイについて何か言いたいことはないか？」誠一の低い声には怒りというよりも、失望と心配が混じっていた。
翔太は戸惑いながらも誠一の言葉の意図を考えた。「…最近、勝てるようになってきたと思っていましたけど、それがまずかったんですか？」
成功の影にある危うさ
「確かに、お前は成長してる。それは間違いない。でもな…その成長が早すぎるんだよ。」誠一はタバコに火をつけ、一息ついてから続けた。「俺が気にしているのは、お前がその勝ち方に慣れすぎて、調子に乗り始めてることだ。」
翔太は驚いた顔をして誠一を見つめた。「調子に乗る…ですか？」
誠一は深く頷いた。「そうだ。最近のお前のプレイは、自信がありすぎる。自信はいいが、それが慢心に変われば、あっという間に足元をすくわれる。」
誠一の過去からの警告
「昔の俺がそうだったんだ。」誠一は懐かしそうに遠くを見るような目つきで語り始めた。「最初は慎重にプレイしてた。オッズを分析し、台を見極め、しっかり勝てるようになってきた。だけど、あるとき気づいたんだ――俺は自分が『無敵だ』って思い込んでいた。」
誠一は、かつての失敗について話した。その頃の彼は勝ち続けることに喜びを感じ、いつしか自分の技術と直感に絶対の信頼を置いてしまった。だが、ある日の大敗が彼を地獄に突き落としたのだ。
「一夜で全てを失った。貯金も、信用も、そして自分自身の誇りもな。」誠一の声には苦々しい後悔が滲んでいた。「そのとき初めて気づいたんだ。勝利を過信すると、スロットは容赦なく牙を剥くってな。」
翔太への問いかけ
「翔太、お前に聞きたい。お前は今、自分がどこに向かっていると思う？」誠一は真剣な目で問いかけた。「この先に待っているのは、さらなる成長か、それとも破滅か。答えを出すのはお前自身だ。」
翔太はしばらく沈黙した。誠一の言葉は重く、そして的を射ていた。確かに、最近の自分は勝ち続けていることに酔いしれていたかもしれない。
「…僕は、まだその答えがわからないです。でも、勝つための努力を怠ったつもりはありません。」翔太は正直に答えた。
「その答えでいいんだ。」誠一は微笑んだ。「ただし、努力を続けるのは最低条件だ。その上で、自分を見失わないようにすることが重要だ。」
信頼と絆
誠一は最後にこう告げた。「俺はお前を信じてる。でも、俺の失敗から学べることがあるなら、しっかり学んでくれ。俺みたいにはなるな。」
翔太は頷きながら、心の中で誠一への感謝の気持ちを新たにした。「山口さんの言葉は重いけど、本当に大切なことを教えてくれている。」
スロットホールを出る頃には、翔太の心には新たな決意が芽生えていた。勝利に溺れることなく、自分自身を見失わないプレイヤーでありたい――それが、翔太が目指す新たな目標だった。
誠一は翔太の背中を見送りながら、静かに呟いた。「いい顔になったな、翔太。これで一歩前進だ。」