第11章 わかりやすい教え
第11章 わかりやすい教え
スロットの世界に足を踏み入れてから数週間が経った。翔太はその魅力と難しさを日々実感しながらも、初心者としての立場を忘れず、貪欲に学ぶことを心がけていた。勝つときもあれば負けるときもある。しかし、翔太にとって最も重要なのは、「経験を蓄積すること」と「失敗から学ぶ姿勢」だった。
スロットホールの空気にも少しずつ慣れ、台を選ぶときの基準も自分なりに考えられるようになってきた。それでも、勝ち続けることは難しい。翔太は、さらなる成長のためにはもっと深くスロットの仕組みを理解する必要があると感じていた。
山口誠一の特別講座
「翔太、今夜は特別なことを教えてやる。」
スロットホールの片隅で、山口誠一がそう言いながら席に座った。その手にはおなじみの煙草が挟まれており、白い煙がゆっくりと天井に向かって漂っていく。
翔太は少し緊張した面持ちで山口を見つめた。「何を教えてくれるんですか?」
「まず、お前がスロットを回すときに考えていることを聞かせてみろ。」山口は鋭い目つきで翔太を見た。その目には、ただの遊びではないプロの本気が宿っているようだった。
翔太は少し考え込み、「リールが揃うように祈りながら回してます。それと、台が当たりそうな気がするタイミングを見計らって……」と答えた。
その答えを聞くと、山口は少し笑みを浮かべた。「まあ、それが普通だな。でも、ただ祈っているだけじゃこの世界では生き残れない。スロットにはちゃんとした仕組みがあって、そこには『読める部分』と『読めない部分』がある。それを理解しなきゃ、いつまで経っても運任せだ。」
スロット台の秘密
「お前が今座ってるその台、何か気づくことはあるか?」山口は翔太の隣の台を指差しながら言った。
翔太は台をじっくり見つめた。「えっと……同じシリーズの台が何台か並んでますね。それと、左側の台の方が出ている感じがします。」
「いい視点だ。だが、それだけじゃ足りない。この台のリールの動きをもっと観察してみろ。」山口はそう言って、自ら台に座り、素早くリールを回し始めた。
リールが回転し、特有の音が響く。その中で、山口の目はリールの動きを逃さず捉えていた。止まる瞬間、絵柄のズレ、その微妙なタイミングに何かを見出しているようだった。
「この台の左リール、微妙にズレが多いのがわかるか?それがわかったら、次にどのタイミングで押せばいいかも感覚的にわかってくる。」山口はリールを止めながら説明した。
翔太はその言葉に驚きながらも、必死に山口の動きを目で追った。「そんな細かい部分まで気にしているんですか!僕はただ目押しが当たればいいと思ってました……」
「それが違うんだ。目押しの精度ももちろん大事だが、台の挙動やクセを知ることがもっと重要だ。この台を攻略するカギはそこにある。」
計画的なプレイの重要性
「台のクセを知ることも大事だが、計画を立てるのも忘れるな。」山口はリールを止めると翔太を見つめて続けた。「勝てる日もあれば、勝てない日もある。だが、それを自分でコントロールできるようにするのがプロだ。」
翔太はその言葉に耳を傾けながら、自分がこれまで場当たり的に台を選んでいたことを思い出した。「具体的にはどうすればいいんですか?」
「まず、自分が一日に使うメダルの上限を決めることだ。それが守れないと、負けたときに取り返そうとして余計に失う羽目になる。そして、台の挙動をしっかり観察する。無駄な回しを減らし、チャンスのタイミングだけを狙うんだ。」
翔太の新たな挑戦
その夜、翔太は山口の教えを胸に刻みながら、自分なりに台を選び、プレイを始めた。これまでと違い、ただリールを回すだけではなく、山口から教わった「台を読む」ことを意識しながらの挑戦だった。
リールの音、絵柄の揃い方、メダルの投入感。それら一つ一つを丁寧に感じ取りながら、翔太は自分なりのスタイルを作り上げていこうとしていた。「焦らず冷静に。台の挙動を見極める。」
結果として、その夜の翔太は大きな勝利を手にすることはなかったが、確かな手応えを感じていた。負けることもなく、少しのプラスを出すことができた。それ以上に、スロットの奥深さを学び、プレイする楽しさを改めて感じることができた。
学び続ける決意
「次はもっと冷静にやれる気がする。」ホールを後にする翔太の表情には、これまでとは違う自信が浮かんでいた。
夜空を見上げながら、翔太は静かに思った。「スロットはただのギャンブルじゃない。ここには学びがある。俺はもっと知りたい、この世界の奥深さを。」
翔太の心には、次なる挑戦と成長への決意が新たに芽生えていた。