第31章 認められる瞬間
第31章 認められる瞬間
翔太は、これまでの経験と努力を積み重ね、確実に成長していた。かつてはただの初心者だったが、今ではホールの空気を読み、台の挙動を分析し、勝負の流れを自分のものにしつつあった。
だが、まだ「本物」ではない。
勝つことはできる。しかし、スロットの世界ではそれだけでは不十分だった。
真のプロとは、常に安定して勝ち続ける者。
そして、周囲に一目置かれる存在になること。
翔太は、ようやくその入り口に立とうとしていた。
誠一の評価
ある日、翔太がホールの一角で黙々と立ち回っていると、誠一が隣に立った。
「お前、最近いい勝負してるみたいだな。」
「……まあ、なんとか。」
「前はがむしゃらに台に座ってたが、今はよく見ている。どのタイミングで動けばいいかを考えているな。」
翔太は少し嬉しくなった。自分の成長を、誠一が認めてくれた気がしたからだ。
しかし、誠一は腕を組みながら言葉を続けた。
「だが、まだ甘い。」
「甘い？」
「今のお前は、『勝てる台を探すこと』に意識が向きすぎている。本当に強い奴は、台ではなく、人間を読む。」
「人間……？」
「そうだ。ホールには、色んなプレイヤーがいる。初心者、プロ、常連、ハイエナ……それぞれの思考を理解し、相手の動きを利用することができれば、勝率はさらに上がる。」
翔太は誠一の言葉を噛みしめた。
「台を読むだけではなく、人を読む……か。」
新たな課題が見えた瞬間だった。
他のプレイヤーに認められるということ
ホールで勝ち続けると、自然と目立つようになる。
最近、翔太はホールの常連たちから、少しずつ視線を向けられることが増えた。
「あの若造、また勝ってるな。」
「最近、立ち回りが上手くなったんじゃないか？」
そんな小声が聞こえてくる。
以前は、翔太はただの「運のいい若造」にしか見られていなかった。
しかし、今は違う。彼の立ち回りには理論があり、確実に結果を出していた。
とはいえ、ホールにはまだまだ上がいる。
特に、プロと呼ばれる者たちは翔太の存在にまだ興味を示していなかった。
「アイツらに認められるには、もっと結果を出さなきゃいけない……。」
翔太はさらに自分を鍛えようと決意した。
試される実力
ある日、翔太はいつものホールで村上の姿を見つけた。
村上は、スロット歴10年以上のベテランで、このホールの常連の中でもトップクラスの実力者だった。
彼の立ち回りは無駄がなく、台選びの精度も非常に高い。翔太が勝てるようになった今でも、まだ彼のような動きはできなかった。
「村上さん……。」
翔太は意を決して、彼に声をかけた。
「……なんだ？」
「俺と勝負しませんか？」
村上は翔太を見て、ニヤリと笑った。
「ほう。ずいぶん自信がついたようだな。」
「俺がどこまで通用するか、確かめたいんです。」
翔太の目は真剣だった。
村上はしばらく考えた後、腕を組んで言った。
「いいだろう。ただし、一つ条件がある。」
「条件？」
「このホールで、一週間の間にどれだけプラスを出せるか。勝負は総合成績で決める。」
「一週間……。」
それは、ただの一発勝負ではなく、安定した勝率を示さなければならないということだった。
「負ける気はありません。」
翔太は、自分の実力を証明するために、この勝負に挑むことを決めた。
認められるために
村上との勝負は、翔太にとって最大の試練となる。
「一日勝つだけなら、運でもできる。でも、一週間勝ち続けるのは、本物の実力がないと無理だ。」
誠一の言葉が頭をよぎる。
「俺は、本物になれるのか……？」
翔太は、この一週間を通じて、自分が「本当にプロとして通用するのか」試されることになる。
もし勝てれば、村上をはじめ、このホールのプロたちに認められるだろう。
しかし、負ければ――
「やるしかない。」
翔太の心は、すでに勝負の世界に入り込んでいた。
この戦いに勝つことで、翔太はようやく「本当の勝負師」への第一歩を踏み出すことになるのだった。