
第20章 壁を越える瞬間
第20章 壁を越える瞬間
スロット台に向き合う翔太は、深いため息をつきながらリールを見つめていた。このところ、どうにも調子が上がらない。台を選ぶ目も鈍り、勝率も下がりっぱなしだ。勝てば必ず味わえたあの高揚感はどこかへ消え、代わりに疲労と焦りが胸を占めていた。
迷いの中での足踏み
「山口さんの言った通りだな……慢心してたんだろうか。」
ホールの隅で缶コーヒーを片手に独りごちる翔太。これまでの勝ち続ける日々がまるで遠い過去のように感じられる。自分のやり方が間違っているのではないか、そもそもスロットで勝ち続けることなど本当に可能なのか――そんな疑念が頭をよぎるたびに、心は重く沈んでいった。
誠一の助言と新たな視点
「翔太、どうした。そんな顔をしてたら、ますます運が逃げるぞ。」
突然声をかけてきたのは山口誠一だった。ホールを見回る途中で翔太の様子に気付き、声を掛けたらしい。その表情にはいつもの余裕があるが、どこか気遣いの色も見えた。
「いや、最近調子が悪くて……やることなすこと全部裏目に出てる気がします。」翔太は正直に答えた。
誠一は笑いながら肩を叩いた。「それが壁ってやつだ。誰もが通る道だぞ。だがな、その壁をどう越えるかが勝負の分かれ道だ。」
「どうやって越えるんですか?」
「視点を変えるんだよ。」誠一は静かに言葉を続けた。「お前は今、勝つことばかり考えてるだろう。でも、スロットは相手も台も生き物みたいなもんだ。お前が変われば、相手の反応も変わる。台を攻略する方法は一つじゃない。」
新しい方法への挑戦
誠一の言葉に背中を押された翔太は、その日の夜、再びスロット台に向かった。いつもなら直感に頼りがちな翔太だったが、この日は冷静にデータを分析することに徹した。台の挙動、他のプレイヤーの動き、そしてホール全体の雰囲気――それらを一つひとつ観察し、記録し、頭の中で組み立てていく。
最初は勝てなかった。データを使うことに慣れていないせいか、思うように結果が出なかったのだ。しかし、翔太は諦めなかった。「ここで逃げたら、壁を越えられない」と自分に言い聞かせ、毎日コツコツと新たな視点で挑戦を続けた。
壁を越えた瞬間
数日後、ついにその瞬間が訪れた。翔太はこれまでと同じ台に向き合い、リールを回していた。その日も慎重にデータを分析しながらプレイしていたが、ふとした瞬間に手応えを感じた。「これはいける!」
その予感は的中し、画面に次々と揃うリールが光り輝く。「BIG WIN」の文字が現れた瞬間、翔太は思わず拳を握り締めた。
「やっと越えた……!」
新たな自信と未来への一歩
壁を越えた翔太は、勝つこと以上に重要なものを学んだ。それは「変化を恐れないこと」だった。技術だけでなく、心構えや視点も柔軟に変えていくことが、スロットだけでなく人生にも通じる大切な教訓だと気付いた。
ホールを後にする翔太の表情には、自信とともに新たな決意が宿っていた。「俺はまだまだ成長できる。この壁を越えた先には、もっと広い世界があるはずだ。」
そんな翔太の背中を見送りながら、誠一は微笑みを浮かべて静かに呟いた。「やっと一人前の顔になってきたな、翔太。」