第26章 初めての高額チャレンジ
第26章 初めての高額チャレンジ
スロットホールの空気は、いつもと変わらない喧騒に包まれていた。しかし、石田翔太の胸の内は、これまでとは違う緊張感に満ちていた。
目の前にあるのは、通常よりも遥かに高いレートの台――。これまでの自分なら、迷わず避けていただろう。しかし、今の翔太は違った。
「勝負の世界に踏み込むなら、いつかは越えなければならない壁だ。」
翔太はゆっくりと息を整え、ポケットから財布を取り出した。
高額レートの誘惑と恐怖
スロットホールには、様々なレートの台が設置されている。初心者向けの低レート台から、熟練者が集う高額台まで。
翔太はこれまで、慎重にプレイを続けながら少しずつ経験を積んできた。だが、ホールに通うたびに、どうしても目に入るのが高額レート台だった。
そこでプレイしているのは、ギャンブル慣れした男たちばかりだ。落ち着いた仕草でメダルを投入し、淡々とリールを回す。彼らの手元を見れば、一度の勝負で数万円が動いていることが分かる。
「一回転で俺の一日分の資金が飛ぶ……」
そう考えると、やはり足がすくんだ。高額レートの台は、確かに大勝利の可能性を秘めている。しかし、敗北すれば取り返しのつかないダメージを負うことになる。
「この世界に入る覚悟があるのか?」
自問自答を繰り返しながらも、翔太は決断の時を迎えようとしていた。
誠一の助言
「翔太、お前はまだその台で戦う準備ができているのか?」
背後から聞こえた声に、翔太は驚いた。振り向くと、そこには山口誠一が腕を組んで立っていた。
「誠一さん……」
「お前がこの台に座ること自体は止めない。ただし、一つだけ言っておく。高額レートの台は、勝つための知識や技術以上に、精神力が試される場所 だ。」
「精神力……?」
「そうだ。大きく賭けた後に負けた時、冷静でいられるか? 取り戻そうとして無茶な賭けをしない自信はあるか?」
誠一の目は鋭く、言葉には重みがあった。
「勝負の世界ではな、負けを受け入れられるやつだけが生き残る。負けた時に取り乱すやつは、結局のところギャンブルに飲み込まれるんだ。」
翔太はその言葉を噛み締めながら、改めて覚悟を決めた。
「自分はこの勝負に臨む準備ができているのか?」
再び自問した時、答えは自然と出ていた。
「やってみます。」
初めての高額ベット
翔太は、ついに高額レートの台に座った。隣のプレイヤーたちは、彼を一瞥するものの、すぐに自分の勝負へと戻る。
目の前にあるメダル投入口。普段の台の数倍の額を、一度のベットで消費する。
「深呼吸して、落ち着け……」
翔太は震える手を抑えながら、メダルを投入し、リールを回した。
カチッ、カチッ、カチッ……
回転するリールを見つめる。いつものスロットと変わらないはずなのに、心臓の鼓動は異常なほど速かった。
そして――
カシャン!
リールが止まり、結果が表示される。
「……負けた。」
一瞬、頭が真っ白になった。
負けた額は、これまでの低レート台とは比べものにならない。だが、誠一の言葉を思い出し、すぐに深呼吸をした。
「慌てるな……次の一手を考えろ。」
翔太は手元のメダルを見つめ、慎重に次のベットを決めた。
自分のリズムを取り戻す
数回のスピンを繰り返しながら、翔太は気付いた。
「焦るな……いつものリズムを思い出せ……。」
高額台というプレッシャーに呑まれていたが、基本は変わらない。今まで通り、状況を見極め、冷静に判断すればいい。
次のスピン――。
翔太はいつものように、台の挙動を見極めながら慎重にタイミングを測り、メダルを投入した。
そして――
カシャン! カシャン!
「……揃った!」
翔太は静かに拳を握った。
額は大きかったが、何よりも大事なのは「自分のペースを取り戻せた」という事実だった。
勝負の世界への第一歩
翔太はホールを出ると、大きく息を吐いた。
誠一がいつの間にか近づいてきて、彼をじっと見つめていた。
「どうだった?」
「怖かったです。でも、少しだけ、慣れた気がします。」
誠一は笑いながら頷いた。「いい経験になったな。」
「はい。でも、これが本当のスタートだとも思いました。」
「そうだ。高額レートの台は、ただのギャンブルじゃない。そこには、勝負に生きる者たちの戦いがある。」
翔太は拳を握りしめ、心の中で誓った。
「ここで生き残るために、もっと強くならなければならない。」
新たな挑戦の幕が上がった。翔太は、ギャンブルの世界の深みへと、一歩を踏み出したのだった。