見出し画像

【絵本レビュー】 本を読まない夫が娘とハマった『パンどろぼう』シリーズ。最新刊『パンどろぼうとりんごかめん』

このレビューは、「さとゆみゼミ アドバンス」の講座の課題で書いた文章をリライトしたものです。

今から数年前。出産予定日間近のある日のこと。私は本屋で気に入った絵本を1冊買って帰った。私の父が、絵本の読み聞かせをするのが好きだったので、私にとって絵本は身近なものだった。

家に帰ってきた夫に絵本を見せると「俺、家で絵本読んでもらったことないかも」と言う。それを聞いて思い出した。そういえば、夫はほとんど本を読まない。何か本を読む必要があるときに、「代わりに読んで内容を教えてほしい」と言われたことも何度かある。断ったら自分で読んでいたけれど、あんまり本は好きじゃないのだろうなと思った。

娘が産まれたあと、私の両親が家のことを手伝いにやってきた。絵本好きの父は、「初めての可愛い孫に読んであげたい!」気持ちがダダ漏れの様子で絵本を持ってきた。まだ生まれてすぐの娘の横に寝転がり、絵本を広げて読む父。すると娘は、じぃっと絵本を見つめて父の声を聴いていた。私と夫はなんだかとても驚いたのを覚えている。

両親が実家に帰ったあと、夫も積極的に絵本を読んであげるようになった。最初は、絵本を声に出して読む行為にやや慣れない様子だった。けれど、隣で娘が興味を持って聴いてくれることが嬉しいようでもあった。

娘が1歳半くらいになると、「かい!かい!(もう1回の意味)」とお気に入りの絵本を5回も6回も続けてリクエストするようになった。「え〜また〜?違う本にしようよ〜」などとブツブツ言いつつ、「あ、こっちの絵本はどう?」などと、娘と交渉する様子は微笑ましかった。

絵本の読み聞かせのいいところは、読み聞かせをする大人に本を読む習慣がなくても、絵本自体が好きじゃなくても、子どもと一緒にその時間を楽しめるところだなと思った。

そんな夫が、初めてハマった絵本がある。『バンどろぼう』シリーズだ。主人公は「パンどろぼう」。どろぼうが主人公なんて、と大人の常識をひっくり返す設定である。しかもパンをかぶってパンになりきってどろぼうに行くのだ。「そんなことある!?」という展開に笑わずにはいられない。さらに出てくるキャラクターが決して王道の可愛らしいイラストではないのに、表情豊かで愛らしく個性的で、何だかクセになる感じがある。

夫だけではなく、娘もそりゃもう大好きである。我が家は、お昼寝の前も夜就寝する前も、寝室で3冊読み聞かせることを習慣にしている。娘は寝る前に読んでもらいたい絵本を3冊自分で選び、絵本棚のあるリビングから寝室まで持っていく。最近、3冊選んだ後に「重いからママ持って〜」と言うことを覚えたので、「1冊くらい自分で持ちなよ」と話したら、一番軽そうな1冊を選んで持った。そして、残りの2冊を「はい、ママ持って」と当然のように渡されて、本当に重いのが嫌なのかと笑ってしまった。

でも、『パンどろぼうとりんごかめん』を買ってきた日は違った。お昼寝前、いつものように3冊選んだあと、『パンどろぼうとりんごかめん』を自分の胸に両手で抱え、「これは○○ちゃんが持つ。そっちママ持って」と言い、明らかに薄くて軽い2冊を私が持つように促した。重くてもお気に入りの本なら持つのね、とまた笑ってしまった。

1作目の『パンどろぼう』で、パンどろぼうはどろぼうから足を洗い、パン屋に転向するのだけれど、その自身の経験がその後の2作目『パンどろぼうvsにせパンどろぼう』や3作目『パンどろぼうとなぞのフランスパン』、そしてこの秋に出た6作目の『パンどろぼうとりんごかめん』に活きてくる。

今回の『パンどろぼうとりんごかめん』にも新たに悪行を働くキャラクターが登場するが、憎めないのは、さくっと反省して行動を改めるところだ。さらにその心を入れ替えたキャラクターをパンどろぼうは受け入れて、そして最後はみんなでパンを作って食べるのである。

娘はこの最後のシーンがお気に入りだ。「みんなニコニコしてるね!」と、絵のパンを掴んで一緒に食べるふりをしながら、娘もニコニコしていた。

寝室で娘が眠ったあと、私がリビングに戻ったタイミングで、出かけていた夫が帰ってきた。パンどろぼうの新刊を購入したことは伝えてあったのだけれど、夫が帰宅して発した一言目は「ただいま」をすっ飛ばして、「今までで何番目に面白かった?」だった。2人とも好きすぎてまた笑ってしまった。

たくさん絵本がある中で、どんな絵本がいいのか迷うこともあるけれど、大人も一緒にゲラゲラ笑いながら楽しく読める絵本もいいなあ、と。昼寝から起き、リビングにいる夫を見つけて、「読んでー!!」と絵本を持っていく娘と、それに応える夫の姿を見て思った。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集