〜ひとくち映画レビュー〜 動物界
最近あんまり本数見れてない上での感想ですが…
ここ数年で見た映画で1番良かった映画です。
人の身体が徐々に動物と化していくパンデミックが発生した世界が舞台であるこの作品。
舞台となるフランスでは動物化した"新生物"は隔離する対策が取られていた。
人種差別、移民、ルッキズム、感染症など様々なテーマが内包された本作は、"アニマライズ・スリラー"と称されており、僕自身もホラーやスリラーを見る感覚でこの作品を選んだ。
ところがどうだろう。エンドロールが流れるころ、僕は涙していた。
映画館で泣いたのは久しぶりのことだった。未体験の感動がこの映画にはあった。
主人公となるのはある家族である。フランソワの妻ラナは動物化が発症しており隔離された状況にあった。ある日、ラナを含めた"新生物"の移送中に移送トラックが事故に遭い、"新生物"たちが森に放たれた。フランソワは息子エミールとラナの行方を探すが、そんな折にエミールの身体にも変化が起こり始める。
動物化した人々の姿は凄まじい見た目となり、その質感には不気味さが感じられる。たしかにビジュアルだけ見ればホラーにも思える。しかし、そのビジュアルが物語を語る上で非常に重要なファクターとなる。本編でのセリフにもある通り、可愛らしい見た目に変化するのであれば、"新生物"への差別や偏見は起こらなかっただろう。物語の中の人たちが"新生物"への不快や不安を感じるために必要なビジュアルであり、物語に説得力を持たせるのに作り込まれたものである。
そして、映像美やビジュアルだけでなくその脚本やキャラクターづくりも素晴らしい。排除される立場にある"新生物"と人間の関係性。それを語るためにキャラクター同士の様々な関係が丁寧に描かれる。
特にエミールとフランソワの父と子の関係はこの物語の主軸となるのだが、僕自身が子を持つ親だからこそ父フランソワの葛藤と苦悩は深く共感してしまう。父であるフランソワは何よりも家族を愛しているからこそ悩み続ける。その姿を見ていて心が締め付けられる。ラストシーンでの父の決断は本当に泣けてしまった。
そのビジュアルからはおぞましいホラー映画を想像するかもしれないが、そうではない。ヒューマンドラマとして非常によくできており、多くの人にオススメしたい作品となった。