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小学校教員の養成に思う

 最近は、論文もネットで公開される事が一般的になり、過去の論文も遡って見る事が出来る環境が整ってきたので、この機会に2000年以降の教員養成関連の幾つかの論文に目を通しました。そこで近年の教員養成の状況について、気が付いた事について述べたいと思います。

規制撤廃後の教員養成の変化

 私自身は、戦後の開放制による教員免許制度を関心の中心に置いて考えていたので、2005年の教員養成課程の総定員規制の撤廃自体は好意的に考えていました。

 関西の方で有名私学が参入しているとか、母校の早稲田でも小学校教員の養成が始まったなどの、断片的な情報は聞いていましたが、近年の論文を読む事で、主に私学を中心にした小学校教員の養成への新規参入によって、初等教育の教員養成の現場に大きな変化が生じていた事に気が付きました。

 変化の原因の多くは、短期大学で幼稚園教諭や保育士を養成していた学校法人が、4年制大学への昇格に合わせ、小学校の課程新設をするケースが増加した事にあります。また。既存の大学でも、初等教育学科などの教員養成課程を新設するケースが見られるなどの現象も、原因の一つに挙げられます。

 この事で、20年前には小学校教員の免許取得者に占める私学の割合が、短大を含めても4割に満たなかったのに対して、近年は6割近くが私学の大学出身者になっていて、国立の教員養成大学・学部の取得者の占める割合が徐々に低下して来ています。

 今まで閉鎖的であった小学校教員の養成が、広く私学に開かれ始めた事は好ましい事ではあります。

 一方で、私学がその自律性で国立より「良き教員」を養成する事が出来ていればいいのですが、逆に国立の養成大学・学部を真似するに過ぎないレベルであれば、養成される教員は、国立大学優位の時代と同様に、視野が狭いなどの諸々の問題を孕んでいるのではないかと推察されます。

教員の前に学生としての資質

 国立大学優位の時代から、教員養成の現場で度々問題になっている資質の問題ですが、多くは教員としての資質の議論ばかりで、それ以前の学生としての資質自体は、当然のものとして扱われていたと思います。

 しかし、高等教育への進学者が同世代の7割近くを占める現在の状況では、一般的に求められる学生の資質も過去のものとは変化しています。過去の学生に求められていた教員の資質の段階でも、問題のある学生は少なからずいましたが、その時代の制度に積み木式で強化された現在の免許制度では、問題を更にこじらせているのではないかと恐れています。学生としての資質の定まっていないままの学生が、教員として養成されている恐れです。

教員にしかなれない学生?

 学生としての資質を育む為に必要な教育よりも先行する教員の養成教育が、国立の教員養成系大学を中心に行われていた、私の経験としての事実。近年の養成課程の増加による、教員免許の履修科目の適格性を認定する文科省の審査の厳格化という、論文より得た知識。教員免許法の法的な建て付けという3点から推測すると、私学といえども独自の養成形態を取るのは難しく、結果的に国立大学と同じ様な教員養成課程になっているのが事実だと思います。

 更に、私学は市場原理で国立以上に教員合格率などの数値に敏感にならざるを得ないので、尚更早期の教員養成目的化が進み、教員にしかなれない、視野の狭い学生を生み出してしまっているのではないかと心配しています。

私学が教員養成をリード出来るのか?

 今後小学校の現場でもマジョリティーとなっていくはずの私学出身の教員ですが、文科省による審査の方針や教員免許法について、根本的な改正を私学から声を上げていかないと、マイノリティ化する国立大学出身者の発言力に、常にリードされたままになっていく可能性があります。

 私学には私学の建学の精神があるはずです。そこに向かうべく研究や教育がなされるのが本来の姿だと思います。教員養成も大学毎に変化があって当然でしょう。

 表面的な定員管理規制の撤廃だけでなく、教員免許法の根本的な改正、特に初等教育と中等教育の免許の融合で、負担の多い初等教育の分野での全科担当の規制を和らげて、中学校・高校の教員養成に似た、学生としての基本の教育と教員養成が両立出来る範囲での履修で、小学校の教員免許が取得出来る様に改める事などを考えていく必要があるかと思います。来年度から小学校高学年での教科担任制が導入される事も、教員免許の多様化への追い風になるでしょう。

 例えば、影響力のある早稲田の教育学部が、今までの中等教育教員養成の実績を生かして、系属の早稲田実業の小学校で、小学校での専科や複合科の実践を進めれば、小学校の免許の全科主義に対する問題提起につながり、専科や複合科などの、多様な免許の形態の導入を促進する可能性もあります。

 その様なムーブメントを私学で起こす事が、私学が教員養成をリードするきっかけになっていくのではないでしょうか。先ず隗より始めよです。


 

 


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たこま
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