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華麗なる一族に乾杯!

老人ホームでの楽しいエピソードを綴っています。


「かんぱ~い!」

たまにデイルームに響き渡る声。
声の主はサブロウさんである。

サブロウさんはちょっと高目(値段ではなく高さ)のリクライニングタイプの車椅子に座っていて、背もたれを起こし、食事の時にするエプロンを着けて広げると、王様の椅子に座ったファラオの様に見える。

その席から、何かのスイッチが入ったみたいにデイルームに集まった人々に挨拶をする。

「今日は皆さん、来て頂いてありがとう」

「どうか、皆さん、ゆっくりと食事をしてください」

たまに、「あけましておめでとうございます」も出てくる。

サブロウさんにとって、今此処はどんな場所になっているのだろう?

よく映画で昔のシーンを回想する場面があるが、あんな感じでセピア色で8ミリフィルムが回っているのではないか?なんて勝手に想像する。


私はその挨拶が始まると、勝手に「華麗なる一族」をイメージしてしまう。

「華麗なる一族」の内容は、山崎豊子の本を読んでいないし、キムタクの主演ドラマも観てはいないし、サブロウさんが大富豪かどうかも知らなが、ことタイトルが気に入っている。

サブロウさんが挨拶をし出すと、このデイルームが突然華やかなパーティー会場になってしまうからだ。

サブロウさんが
「かんぱ~い!」
と、言う。

スタッフがみんなで「かんぱ~い!」
と、言う。

ねえ、素敵でしょ?

このデイルームが一瞬にして、おめでたい席に変わってしまうんだから。

そして、一族というのがまた良いではないか。
此処に集うのはみんなサブロウさんの一族なのだ。

サブロウさんが招待した一族に違いない。

お招きに預り誠に感謝申し上げます。
サブロウさんに「かんぱ~い!」
一族に「かんぱ~い!」





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