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ビールと七夕
「た子の足跡日記」ー有料老人ホームにてー
色々なお題が出てnoteはありがたい。
「#ここで飲むしあわせ」で、思い出した人がいるので時季外れの題名で書いてみたいと思う。
有料老人ホームなので自室を持ち、ある程度自由に生活出来る。
ミツオさんは本当に自由に生活されていた。
居室には好きなビデオ、本や雑誌、おやつが完備されている。
ちょっとしたキッチンがあり、小腹が空いたらカップラーメンくらいは食べられる。
シャワー室まで付いていて好きな時間にシャワーを浴びることも出来た。
私らとなんら変わりない生活だ。
体操の時間にはきっちり出て来て、職員がもたもたしていると、自ら体操のCDを掛けて、みんなの手本となって前に出て体操をしてくれた。
外出レク(外に出掛けるレクリエーション)でも、引率者になって、職員より先に有料公園の受け付けで人数の説明をしてくれた。
掃除のおばちゃんとも仲良くなって、掃除も快くやってもらっていたし、
一週間に一度のシーツ交換日にも、時間になると職員に気を利かせて何処かへ散歩に行ったり、買い物に行ったりしていた。
そして、毎晩夕食には135㎖のビール缶をちびりちびり飲んで楽しんでいた。
そんなミツオさんが何故、この有料老人ホームに入所出来たかというと、
ミツオさんは「せむし」なのだ。
背中にこぶを付けた奇形である。
子供の頃からなのか、大人になってからなのか、詳しい事は私は知らない。
これまでの人生でどんな苦労があったのかも聞いたこともないし、ミツオさんも話そうとしないけれど、ただ、老人ホームで余生を送れるという事実が、ミツオさんの苦労を証明しているように思う。
此処には「せむし」を馬鹿にする人はいない。
ミツオさんが自由にのびのび生活すればするほど、これまで出来なかった事を思い切り楽しんでいるような気がして切なくなる。
願い事をする七夕の短冊。
ミツオさんの書いた言葉は
『ここでの生活が楽しい』
だった。
今は空の星となったミツオさん。
「#ここで飲むしあわせ」
夕食時に晩酌している幸せそうな姿のミツオさんが鮮やかに蘇って来た。