黒の掟
キャプテン「ユニフォームは黒一色にするから」
私「はい???」
私は高校から卓球部に入りました。先輩や同級生は高校から卓球を始める私に親切心で、いろんなことを教えてくれました。卓球はメンタルスポーツであること、相手のメンタルを崩すには自分を強く見せること、そして黒は強く見える色であること。
今から30年前。「卓球部は根暗」という集団催眠に日本人がかかっていた頃。先輩や同級生はあろうことかダークの極みである黒をなにかと勧めてきました。
ラケット面に貼るラバーも黒、ラケットケースも黒、練習着も黒、そして髪色はもちろん黒です。田舎の高校生だった私は、街灯のほとんどない暗闇のあぜ道を部活終わりに歩いていたら、前から来たおっちゃんの自転車にひかれそうになったことがあります。「なんちゅう真っ黒なかっこうしとんねん。危ないやろ!」と怒るおっちゃん。私はひっくり返って、唯一白だった運動シューズまで泥で黒く汚して帰りました。
ここまで黒にこだわり、果たして本当に他校の選手に「あの人強そう……」と思われるのでしょうか。私は半信半疑で初めての公式戦に出場しました。卓球は試合が始まる前に対戦相手とラケットを交換する儀式があるのですが、対戦相手は私の真っ黒のラバーを見て顔をゆがませました。私は気にも留めずジャンケンをして試合スタート。相手からのサービスでしたが、いきなり2本連続サーブミス。「おやっ?」と思いながら、相手からの3本目のサーブを初心者丸出しのふんわりレシーブで返しました。さすがに打たれるだろうと思いましたが相手は空振り。棒立ちで見事3点をゲットすることができました。そこから相手も気を取り戻して逆襲。私は黒の武装もむなしくフルボッコにされて負けました。
試合終わり、暗い表情で会場を後にする私を対戦相手が追いかけて来ました。そして「ラバーの色、黒にしているのは何か意味があるの?」と訊かれました。私は初心者の中の初心者、ヘタクソの中のヘタクソ。「強く見える色だから~」とは恥ずかしくて言えず「先輩に黒にしろって言われたから」と答えました。相手は「珍しいから。何か意味があるのかなと思って……」と言って去って行きました。
ラケットの表面は赤色のラバーを貼る人がほとんど。希少な黒色のラバーのおかげで私は相手の出だしの集中力を奪うことに成功したようです。「黒色のおかげで3点とれた!」そこから私は憑りつかれたように卓球用品は黒にこだわるようになりました。黒のリストバンド、黒の靴下、そして黒の汗拭きタオル。根暗上等。陰キャ容認。顔のホクロは強さの証。勝つためなら血豆さえも味方に付ける所存。神様がいるのなら、二年半の短い部活生活では実力勝負は無理と察して、ブラックパワーでここぞという時に1点お願いしたいー!!!
30年後、PTAの卓球部で活動する私の姿は黒一色。もちろんラバーも黒色です。卓球教室へ通う子供のユニフォームも黒。「子供くらい華やかな色のウエアにしたら」と言われたら「いや、黒は強く見える色やから~」と中級者の中の中級者、小ましの中の小ましの私は白い歯を輝かせて答えるのでした。
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