フードテックにGAFAが出現 日本が生き残るための3つの方法
⓪はじめに
皆さんは、「フードテック」という言葉を耳にされたことがあるでしょうか。
フードテックとは、食の課題を解決したり、新たな価値を創造することを目的に、食品の生産、流通、加工、販売などを改善するためのテクノロジー、またそれを活用したビジネスやサービスを広く指します。
中でも、植物性の代替肉など「代替タンパク質」はよくメディアでも取り上げられているので、馴染みのある方も多いかと思います。
そんな今注目のフードテックに関して、今夏、「フードテック革命」という書籍が出版されました。
世界でのフードテックの現状と、日本におけるフードテックの課題や可能性に関して色々示唆があり、私もフードテックシーンに身を置く者として、共感するところが多くありました。
そして、海外と日本のフードテック、特に代替肉の現状を伝えたく、こうして記事にすることにしました。
結論を先に述べておくと、フードテックにも「GAFA」のようなプレーヤーが誕生する可能性があり、日本も今すぐ動くべきだ、ということです。
食品関係の仕事に携わられている方はもちろん、他業種の方にも参考になるかと思いますので、最後までご覧頂けると嬉しい限りです。
◉手短に自己紹介
日本の大手食品メーカーで研究開発に携わり、現在はアメリカにある食品系スタートアップで代替タンパク質を開発しています。また、フードテック全般に関するアドバイザーも務めており、日米、大企業・スタートアップ、様々な形でフードテックに関わって働きた経験から、こうした記事を投稿しております。
① 日本のフードテックシーンは「iPhone前夜」
先述の書籍でも繰り返し触れられていますが、日本のフードテックシーンは、現在「iPhone前夜」の状況、と表現されています。
絵文字も、着メロも、HDカメラも、おサイフケータイも付いてないiPhoneは大したことがないと過小評価していた、あの時代です。
その後、革新的なUIと拡張性を持たせるApp Store等を武器にしたiPhoneは、我々の生活インフラの一部と化し、強烈なパラダイムシフトが起こりました。
その結果、日本のケータイ産業が衰退したのは、記憶にも新しいかと思います。
それと同じことがフードテックでも同じことが起きると、本書で語られており、アメリカでフードテック、特に植物性代替肉の勢いを目の当たりにしている私も同じように考えています。
②日本に迫る食の「GAFA」の凄さ
最近、日本のメディアでも露出が増えていますが、数あるフードテックのスタートアップの中でも、以下の2社は特に勢いがあります。
A. Beyond Meat
B. Impossible Foods
いずれのプレーヤーも、地球温暖化や環境破壊を食い止めることを主たるミッションとして、植物性の代替肉を開発しています。
実際に、彼らの代表製品は、既存の牛肉製品に比べ、水や土地の利用や温室効果ガス排出を90%以上もセーブできることが報告されています。
また、フェイクミート等と呼ばれる従来の代替肉と異なり、購入者のおよそ95%が肉食者で、ごく普通の消費者が彼らの代替肉を選んでいるという事実が凄さを物語っています。
つまり、より少ない資源、環境負荷で新たな「肉」を作ることができているのです。
A. Beyond Meat
昨年NASDAQに上場したアメリカのBeyond Meatは、日本でも知名度の高い代替肉メーカーかと思います。
米国を含む80以上の国において10万を超える小売店や外食店で取り扱われ、米・McDonald’sに製品を供給することを発表する等、非常に勢いがあります。
コストダウンも順調で、主力製品であるハンバーガー用のパテも、1枚2ドルを切り、既存の牛肉パテと同等レベルにまで下がってきました。
そして、アジア展開も進めており、これまで米国製品の輸出に留まっていた中国市場に関して、現地に建設した工場で来年から生産を開始する予定です。
つまり、輸出から現地生産へ移行することで、中国という巨大市場に、より安価で競争力の高い製品を供給できることになります。
B. Impossible Foods
そして、 同じくアメリカのImpossible Foodsも、非常に勢いがあります。
Burger KingやStarbucksを含め、2万店以上の飲食店に供給し、リテール製品も発売から1年立たないうちに1万近い小売店で取り扱われています。
先のBeyond Meatよりさらに肉食者をターゲットとした設計で、血生臭い牛肉の風味を再現するための技術に強みがあり、焼いた際の色の変化など、視覚的にも牛肉らしさを再現しています。
Beyond Meat同様、彼らも中国の巨大市場へ進出を計画中で、発売予定の豚肉代替品に含まれるキー成分に認可が降り次第、中国市場に参入する見込みです。
いずれの企業も、肉食者をターゲットに本気で食肉市場をディスラプトしようとしており、フードテック、特に食肉業界において「GAFA」のようなプラットフォーマーになる可能性が高いと感じています。
さらに、技術、人員、資金という強力な武器を手に、アジア、そして日本にも迫っています。
先のプレーヤーはまだ日本に上陸はしていませんが、過去に日本進出を試みたBeyond Meatは、日本で発売するために準備を進めている可能性が高いです。
③食の「GAFA」が引き起こすパラダイムシフト
さて、こうした有力スタートアップが日本に進出した場合、どういったことが起こるでしょうか。
まず、市場に出回る肉が徐々に代替肉に置き換わっていき、具体的には、2025年には約10%、2030年にはおよそ20%まで、植物性の代替肉が食肉市場のシェアを獲得すると予想されています。
そして、植物性の代替肉だけではなく、培養肉も開発が進んでおり、今から20年後には、代替肉と培養肉が食肉の3分の2近くも占める見込みです。
※培養肉も有望な代替タンパク質ですが、こちらはまた別の機会に紹介します。
これにより、我々の食生活はもちろん、農産業や食品産業、特に食肉業界において、強烈なパラダイムシフトが起こることが予想されます。
植物性の代替肉や培養肉に関する企業や業種が活性化する一方で、家畜を飼育、処理、加工、流通、販売する量と必要性が減るため、現在の食肉チェーンの大部分、つまり、畜産農家や処理業者、卸売業者、食肉メーカーが、場合によっては、精肉店や食肉を提供する飲食店なども、大きな影響を受けると考えられます。
そして、こうした動きやパラダイムシフトに乗れないと、プラットフォーマーの「GAFA」に対する現在の日本企業の関係性のように、日本の企業が、競争力のある代替肉メーカーの製造を請け負う、彼らに素材や技術を供給する、彼らの製品を販売・提供する側に回り、場合によっては、食肉業界のみならず、代替タンパク質に取り組む企業すら競争に負け、日本の企業が弱体化する可能性があります。
これは、食肉に限らず、乳製品など、他の動物性タンパク質の業界も同様です。
牛乳の需要が減る日本と同様、アメリカでは、2019年時点で市販ミルクの14%とシェアを伸ばす植物性の乳製品に押されたこともあり、大手酪農・乳業メーカーが次々と破産申請しています。
こうした動きの一方で、海外の製品は日本に入ってこないという意見もよく聞きます。
確かによく見かけるハンバーガーのような形だと、日本では流行らないかもしれませんが、この代替肉は、汎用性の高い「原料」「食材」であり、スーパーやレストランで取り扱われている、肉など既存の原料に代わるものです。
また、日本の肉の輸入量は世界トップクラスで、日本で流通する牛肉の6割以上、豚肉は5割以上、鶏肉ですら3割以上を輸入に依存しています。
つまり、日本は、既にタンパク質という食材を既に相当量輸入しており、同じ食材の代替肉も受け入れる土壌ができているとも言えます。
さらに、先のBeyond Meatのように国内生産となると、もはや輸入するかどうかという話ではなく、現地製造により、キャパシティやコストの点でもより競争力がある商品になります。
以上の点から、日本にもこうした有力プレーヤーが上陸し、受け入れられる可能性が高いと考えています。
日本としては、その時までに準備ができ、このパラダイムシフトに乗ることができるか、リードできているか、そこにかかっていると思います。
④日本のフードテックを盛り上げるためには
このように、フードテックの現状をお伝えしましたが、ではどうすれば良いか、という一番大事な点に関していくつか提言させて頂きます。
まず第一に「GAFA」のようなプラットフォーマーになる可能性の高いプレーヤーに部品や技術を供給する側に回りたくないなら、最終製品を作って競争するか、協業するしかないです。
その上で、日米、大企業・スタートアップと働き、アドバイザーも務めてきた経験から、私が考えるポイントは、大きく以下の3つです。
A. 思い込みや固定観念を改め、ファクトに向き合う
B. ビジョンとサステナビリティを重視した開発をする
C. スタートアップと協業してフードテックに取り組む
A. 思い込みや固定観念を改め、ファクトに向き合う
まず、私が相談を受ける際などに一番感じるのですが、フ ードテック、特に代替肉に対する誤解やバイアスが、まだまだ日本に根強くあります。
どういうことかと言うと「ヴィーガンやベジタリアン、外国人旅行客向け」「日本製・国産が一番」という偏見があることです。
先述の通り、米国では、植物性の代替肉を含むプラントベーストフードの購入者のおよそ9割が肉食者です。
アメリカで牛由来の乳製品のシェアが落ち、植物性の乳製品が伸長しているように、動物性タンパク質を摂取する一般的な消費者が代替タンパク質を選択するようになることは確実視されています。
日本の消費者も、豆乳を受け入れるなど、肉食でありながら植物性タンパク質を摂取しており、健康意識も総じて高いため、こうした製品もすぐに受け入れられると思います。
また「日本の商品開発力の方が上」「アメリカの食品はまずい」という意見もよく聞きます。
確かに日本の食品のおいしさは同意しますが、有力プレーヤーの品質や技術の凄さを体感する身として、こうした先入観や決めつけにかなりの危機感を抱いています。
既に一部の外資メーカーの製品が日本に輸入されていますが、 今日時点で、先に挙げたような競争力のある製品はまだ入ってきていません。
これは、味などの品質面ではなく、日本市場の優先度の低さと原材料に対する規制が主な理由です。
それを良い事に「日本が一番」と信じ込んでしまうと、「iPhone」のような優れた製品がやって来て気付いた頃には時遅し、という可能性には十分に注意する必要があります。
さらに、彼らが日本企業と組む等して現地生産を始めれば、それはもう国産であり、外国産だからと言い訳のできない状況になります。
従って、思い込みや固定観念を改め、事実と現実を直視することが、第一歩になるかと思います。
B. ビジョンとサステナビリティを重視した開発をする
これは、建前ではなく、ビジョンやサステナビリティを本気で考えた経営や製品開発をする必要があるということです。
先の書籍や各種インタビュー記事でも私見を述べておりますが、代替タンパク質などの分野で活躍する有力なフードテックプレーヤーは、環境問題や食料問題などに真摯に向き合い、人間や動物、地球、全てが健康に暮らすというビジョンの下、より持続可能で健康、安価な食品を提供するというミッションを本気で達成しようとしています。
一方、日本の食品メーカーも、CSR(企業の社会的責任)の観点からこうした問題に取り組んでいますが、商品の原材料や容器を環境負荷の低い素材に変更する等、既存の領域での事業開発や既製品の品質改良に留まります。
SDGsやESG、ソーシャルインパクト、CSV など、色々な言葉を耳にするようになりましたが、なぜそれが求められているのか、どういう世界を作りたいのかを本気で考えることができれば、それを実現するための事業や製品がどういったものなのか、自然と出てくるのではないでしょうか。
C. スタートアップと協業してフードテックに取り組む
そうしたビジョンを実現し、ミッションを達成する鍵になるのが、スタートアップです。
スタートアップは、トレンドを捉え、時には新たに形成し、大企業では難しい新領域でも全力投球し、求められる製品・サービスを一早く提供し、エクスポネンシャル(指数関数的)な成長をすることが特徴です。
近年、市場を変革しうるディスラプティブ(破壊的・革新的)な食品の多くはスタートアップから出ており、代替肉や培養肉などに取り組む企業のほとんどがスタートアップです。
そのため、こうした新たな価値を持つ製品やサービスを提供できるスタートアップが日本でも生まれることが一番の近道です。
しかし、競争力のあるスタートアップが生まれにくい日本では、やはり大企業が重要な役割を果たすと考えています。
大企業も、独立・スピンオフ型の社内ベンチャーの形で取り組むことも可能ですが、一番効果的なのは、出資や買収などの資金面はもちろん、プロフィットシェア等にして開発や試験、製造で協業するなど、スタートアップ発の事業や製品を一緒にスケールすることだと考えています。
よくスタートアップに技術があると思われており、確かにコア技術はありますが、大企業にこそスケールアップや品質改良、コスト削減等の技術やノウハウがあり、日本の大手食品メーカーの技術力は世界的にも非常に優れていると感じます。
つい先日、味の素さんと植物肉スタートアップのDAIZさんが、資本業務提携したことを発表し、製品開発や販売での協業が明らかになりました。
こうした資金面+技術・販促面での提携は、今後のロールモデルになると思います。
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以上、日本のフードテックの状況、食の「GAFA」の凄さと彼らが引き起こすパラダイムシフト、そして、フードテックを日本で盛り上げるための方法について述べました。
フードテックの現状を知って頂き、できる限り多くの方に行動を起こしてもらいたいという自分の想いが伝わり、日本でもフードテックがさらに盛り上がれば嬉しい限りです。
もしご質問があれば、Twitter等でご連絡下さい。
最後までご覧頂き、ありがとうございました!
◉要約
日本のフードテック、特に代替タンパク質分野において、競争力のある海外プレーヤーが迫る。これから起きるパラダイムシフトに乗り遅れると、日本の企業が、製造委託や素材・技術の供給側に回り、既存産業が弱体化するケースもある。固定観念を改めて事実を直視する、ビジョンとサステナビリティを重視する、スタートアップと協業することが、日本でフードテックを盛り上げるための鍵となる。
※各イラストは、「いらすとや」から引用させて頂きました。