見出し画像

大木式土器の変貌(1)【縄文土器の精華~縄文時代中期の土器】より

縄文時代に、東北地方南部を中心に分布した大木式土器は、縄文時代前期から中期までの長い期間をカバーする土器型式です。関東地方では諸磯式、十三菩提式、五領ヶ台式、阿玉台式/勝坂式、加曽利E式と時期ごとに分かれた多くの土器型式に対応するのが、東北南部ではまとめて大木式です。

大木式は大木1式から大木10式まで、細分を含めると13段階に分かれています。時代によって変化する様々な土器が含まれるのですが、名前がみんな「大木」なので、特徴がなかなか覚えられないという個人的な悩みがありました。

先日、福島県福島市のじょーもぴあ宮畑で開催された企画展「土器で見るふくしまの歴史2 縄文土器の精華~縄文時代中期の土器~」(8/25に終了)を見学しました。縄文時代中期前葉の大木7a式土器から中期後葉の大木10式土器までを取り上げた展示です。土器も見事でしたが、特にパネルの解説が秀逸で、各段階の特徴がとても分かりやすく整理されていました。段階ごとの土器の移り変わりも、痒い所に手が届くような説明ぶりに感服しましたので、その要約をご紹介したいと思います。

縄文時代中期前葉の土器

大木7a式土器

筒形の胴部の上半が膨らむ器形や、口縁部に文様が集中する点はこの時期の土器の特徴です。口縁部の区画は幅の広い隆帯で施されます。 短い沈線を使った刻みを多用し、山形文や円文なども用いられます。 文様は口縁部の狭い範囲に集中し、口縁部にアクセントとして「の」の字の隆帯等の飾りがつくこともあります。

大木7a式土器(愛宕原遺跡)区画+短沈線

大木6式(前の段階)の特徴
①胴部の上半が大きく膨らみ、口縁部と胴部上半が「く」の字にくびれる。
②口縁部と胴部の上半に共通する文様が2段で施される。
文様は沈線が主体で、斜めや山形の沈線のほかに円文や渦巻文が見られる。

大木7a式の特徴
①胴部の上半に膨らみを持つ。〔継続〕
②胴部の上半の文様が無くなり、文様が口縁部に集中する。〔変化〕
③口縁部に粘土紐などで文様が付加される。〔新規〕
④胴部は縄文が縦回転で施され、縦方向を意識して施文している。〔新規〕

じょーもぴあ宮畑には大木6式土器の展示がなかったので、比較のため、福島県立博物館企画展「縄文DX」で見た猪苗代町 法正尻遺跡の大木6式土器を示します。胴部の上半にも沈線の文様が確認できます。

大木6式土器(法正尻遺跡)

大木7b式土器

この時期の土器は胴部の上半がゆったりと膨らむ深鉢が主流となります。文様が施されるのは口縁部直下から胴部上半に限定され、文様自体も単純な図形の繰り返しが中心ですが、縁が大きく波打つ(波状口縁)深鉢も見られます。
胴部にはY字状の隆帯による区画が出現し、大木7b式の後半では口縁部の装飾が発達し立体的になり、これらの文様構成が大木8a式の文様に繋がります。

大木7b式土器(月崎A遺跡)連弧文+渦巻文
文様は粘土の紐を貼り付けた隆帯などやや立体的になる。
文様は連弧状の区画が中心で、区画の中に渦巻が付くものもある。
大木7b式土器(月崎A遺跡)Y字文+隆帯 波状口縁
縄目を施す方向を縦に統一したりY字状の隆帯を貼り付けるなど
胴部に対して「縦方向」を強く意識するようになる。
大木7b式土器(月崎A遺跡) Y字文+「の」字状把手 
立体的な装飾が付き、口縁から外側に突き出すようになる。
口縁部と胴部の区画が明確になり、文様も分けて施文する
という意識が芽生える。 Y字状の隆帯が密になり、
縦の区画を意識するようになる。

大木7b式の特徴
①胴部の上半に膨らみを持ち口縁部と胴部上半が「く」の字にくびれる特徴はそのまま残るが胴部の下半との境目はなくなる。縄の回転方向は縦方向。〔継続〕
②大木7a式では口縁部に付けられていた文様が胴部上半の膨らみの部分に下がってくる。〔変化〕
③新たな文様として連弧文・渦巻文が登場する。〔新規〕
④胴部に粘土紐でY字型の文様を貼り付けることで、胴部を縦に区画するようになる。〔新規〕

大木7b-8a式土器(月崎A遺跡)Y字文+S字状把手
口縁部の上端に立体的で複雑な装飾が付く。
口縁部と胴部が明確に区画されている。
胴部には横方向の区画が見られる。
以上の点でこの土器はより新しい時期のものと考えられる。
(左下は火焔型土器の鶏冠状突起。この土器の
把手と同じくS字状隆帯が構造の基本。)

縄文時代中期中葉の土器

大木8a式土器

口縁部に付された装飾は渦巻を中心に複雑化し立体的な中空の把手になります。また、大木7b式で見られた胴部を縦に区画する手法は横の区画を加えることで胴部の文様も複雑化します。大木8a式の段階は文様が土器全体に施されると同時に複雑さが増し、縄文時代を通してもっとも美麗で豪華な土器がつくられる、造形美の極まった時期と言えます。

大木8a式土器(西ノ前遺跡)中空把手+方形区画+渦巻文
大木8a式土器(西ノ前遺跡)口縁部渦巻文+方形区画+渦巻文
大木8a式土器(西ノ前遺跡)中空把手+クランク文+渦巻文

口縁部と胴部は沈線や隆帯によって区画され、それぞれに異なる文様が描かれる。口縁部にはS字や曲線を立体的に組み合わせた複雑な突起がつけられる。胴部の文様は区画線やクランク文と渦巻文の組み合わせになり、胴部全体に広がる。
大木7b式ではY字の隆帯で描かれていた胴部の区画文は大木7b式の終わり頃には∩字に変化し、さらに大木8a式では四角形の区画文の中に∩字が組み込まれるものが見られる。

大木8a式の特徴
①大木7b式から顕著になる渦巻文は大木8a式に引き継がれ、文様の中心的な位置を占めるようになる。〔継続〕
②大木7b式では胴部の上半に限定されていた文様が、胴部全体に広がる。また、胴部には横の区画が追加されることで、縦長の短冊形であった区画が方形になる。〔変化〕
③口縁部には中空になる装飾がつけられるものが出現し、渦巻を組み合わせた立体的で中空の把手がつけられるものも見られるようになる。〔新規〕

大木8b式土器

文様の主体は複雑な把手を持つ口縁部から胴部に移行し、立体的な把手は付けられますが、口縁部の文様は簡素になります。胴部文様の中心は大形の渦巻で、横並びに連結し土器を一周するようになりますが、渦巻文に沿う形で楕円形の区画文も出現します。また、大木8b式の終わりには胴部全体に広がる文様が唐草文風の文様に変化するものが現れます。大木8b式の段階は大木8a式段階の渦巻を中心とする複雑な構成を残しながら、土器全体に展開する文様が連結していきます。

大木8b式土器(月崎A遺跡)
大木8b式土器(月崎A遺跡)渦巻文+区画文+橋状中空把手
大木8b式土器(西ノ前遺跡)

口縁部と胴部の区画部分には無文の部分が作られる一方で、8b式の後半には口縁部から胴部全体にかけて連続する文様が用いられる土器が出現する。
口縁部には立体的な中空の突起が付くが、突起の部分以外は小さな渦巻と楕円形の区画文の単純な組み合わせになる。
胴部の文様は渦巻が入り組み、その間に区画文が配置される。またこの時期、渦巻が連結し唐草文状の文様に変化するものも出現する。

大木8b式の特徴
①渦巻文が文様の主体となり、大小の渦巻が土器全体に配置される。〔継続〕
②大小の渦巻が連結することで、土器の胴部を一周する唐草文様が出現する。〔変化〕
③口縁部にあった立体的な装飾は姿を消し、等間隔で渦巻が配置されるだけのシンプルな文様に変化する。〔変化〕
④口縁部と胴部の区画が消失し、口縁部から胴部まで一続きの唐草文様が施される土器が出現する。〔新規〕
⑤それまで文様の背景であった縄文地の部分が唐草文などで細かく区画され、区画自体が楕円形や不定形の文様として意識されるようになる。〔新規〕

縄文時代中期後葉の土器

大木9式土器

早い段階では大木8b式の渦巻や唐草文風の文様が継承されますが、文様の多くが隆帯から沈線による表現に変わります。同時に、沈線による区画文が発展し、文様の中心は渦巻から区画文に変化していきます。
大木8b式の区画文が大形の渦巻に沿って不規則に配置されていたのに対し、大木9式の区画文は楕円形が等間隔に並ぶ反復文様となり、区画文は縦長の楕円形からやがて縦に引き伸ばされたC字やJ字形に変化します。

大木8b-9式土器(獅子内遺跡)渦巻文(唐草文)+区画文
大木9式前半段階では文様構成は大木8b段階から引き継がれた
渦巻文と区画文からなる文様が見られるが、渦巻部分は
非常に高さのあるひれ状の隆帯によって表現される。
大木9式土器(宮畑遺跡)渦巻文+区画文+波状文(隆帯)
唐草文は波状文と渦巻文に分離し、胴部上半に配置された渦巻
と区画文の間を縫うように波状文が配置される。胴部下半に垂下
する直線の区画が配置されることから大木9式に位置づけられる。
大木9式土器(月崎A遺跡)渦巻文+区画文(沈線)
文様の主体は胴部の上半に集中し、上半には渦巻文の名残
が見られるものの、下半は区画文のみか縄目だけになる。
大木9式土器(宮畑遺跡)区画文+∩字(沈線)
文様が縦方向に結合・整理され、渦巻は姿を消し区画文が
文様の主体となる。波状文は縦方向の区画沈線と結合する
ことで∩字文となり、その内側に楕円形の区画文が配される。
文様が完全に縦方向を基調とするものに変化している。

大木9式の特徴
①渦巻文様の展開〔継続〕
②土器の全体に連結する唐草文様は縦長の区画文との組み合わせになり、縦方向の文様構成となる。〔変化〕
③大木8b式では横方向に連結されていた文様が縦方向基調に整理され、区画文が文様構成の主体となる。〔新規〕
④全体を一周していた文様は縦方向に整理され、同じ文様の組み合わせ(単位文様)の繰り返しになる土器が現れる。〔新規〕

大木10式土器

大木9式では土器全体に配置されていた縦長の区画文が、大木10式では胴部中ほどに区画を設けることで、その施文の範囲が胴部上半に限定されるようになります。
文様を描く範囲が狭められたことで、S字形やC字形の区画文は横方向の展開を意識するようになり、入り組み状になる文様が出現します。やがて区画文の余白である無文部分が複雑化し、大木10式の後半では文様の主体が縄目のある部分から縄目の無い余白の部分に逆転します。

大木10式(前半)土器(宮畑遺跡)区画文+波状文
文様の主体は沈線や隆帯で縄文を囲う区画文となり、
大木9式段階で見られた単純な楕円形ではなく、
U字型やC字型、S字型の区画文などが見られるようになる。
唐草文は波状文と渦巻文に分離し、胴部上半に配置された
渦巻と区画文の間を縫うように波状文が配置される。
渦巻文が残るものの、胴部の文様帯が上下に区画されている
ことから大木9式末期~10式初頭に位置づけられる。
大木10式(前半)土器(宮畑遺跡)区画文(変形雁股文)
それぞれ単独で描かれていた区画文はやがて横方向に延び、入組み状になる。
大木10式(後半)土器(宮畑遺跡)
大木10式の前半段階の区画文は沈線区画の中に縄目が施されるが、
後半段階で文様が複雑化すると、縄文部分と無文部分の文様効果
が反転し、無文部分で文様を描くようになる。

大木10式(前半)の特徴
①同じ文様の反復になる。〔継続〕
②文様はすべて区画文となり、隆帯や沈線で描かれていた渦巻文は姿を消す。〔変化〕
③胴部を上下に二分する区画が設けられ、文様が胴部の状半に限定されるようになる。〔新規〕

大木10式(後半)の特徴
①同じ文様の反復になる。〔継続〕
②上下の区画。〔継続〕
③大木10式前半では沈線で区画された中に縄文が施されるが、後半になるとそれまで区画文の余白であった縄文部分が文様の主体となり、縄文の施された部分はその背景に逆転する。〔変化〕

余談ですが、じょーもぴあ宮畑の常設展示には、和台遺跡で出土した大木10式の人体文土器(複製)があります。背景の部分と同じ大木10式の文様の付け方が人体文にも適用され、隆帯でふちどられた磨り消しの区画文で身体が平面的に描かれています。

人体文土器(複製)(和台遺跡)

人体文が描かれた縄文土器としては、山梨県 鋳物師屋遺跡や一の沢遺跡の勝坂式土器、群馬県 道訓前遺跡の焼町式土器がよく知られています。それぞれ勝坂式、焼町式の流儀の隆帯文で人体が描かれます。同じ人体文土器でも、各々の土器型式で得意な施文方法を使って人体を表現しているのは面白いことだと思いました。

人体文が描かれた土器
左:鋳物師屋遺跡(左手は復元)  中:一の沢遺跡  右:道訓前遺跡

まとめ

大木7a式から大木10式までの大木式土器の変遷について、じょーもぴあ宮畑の企画展のパネル解説をご紹介しました。この時期での各段階の切り替わりは、まったく違う土器に変化するのではないことが分かります。前の段階の特徴を少しずつ残しながら、どちらかというと連続的に変化していきます。関東の阿玉台式から加曽利E式への変化のように、見た目がまったく異なる土器に一気に変化するのではないようです。
次回は応用編として、これらを参考に、福島県立博物館の企画展「縄文DXー会津・法正尻遺跡と交流の千年紀ー」に出展された大木式土器を観察したいと思います。

解説を掲示頂いた、じょーもぴあ宮畑の皆様に深く感謝いたします。
最後までお読み頂き、どうもありがとうございました。

じょーもぴあ宮畑(国史跡宮畑遺跡)
〒960-8201 福島市岡島字宮田78
定休日:火曜日・年末年始(12月29日から1月3日まで)
開園時間:9:00〜17:00
展示室観覧料:一般200円 小学生~高校生100円

モモッと大好きふくしま ももりんが行く! Vol.5 じょーもぴあ宮畑編(福島市公式ユーチューブ)

#縄文 #土器 #考古学 #大木式土器 #福島


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?