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貧困、格差問題に迫れるか――山崎亮『コミュニティデザインの源流 イギリス篇』(太田出版、2016年)評

「コミュニティデザイン」を提唱し、各地で実践する著者が、その源流を求めて、産業革命後の19世紀イギリスの実践家たちの思想をたどる思索の旅の記録、それが本書だ。著者は東北芸術工科大学(山形市)教授、コミュニティデザイン学科長である。

とりあげられているのは、美術批評家=社会改良家として活躍したジョン・ラスキン(1819~1900)をはじめ、彼を中心とする知的なネットワークに属する九人の実践家たち。「生活に美しさを」をコンセプトとするアーツ・アンド・クラフツ運動の基礎をつくったウィリアム・モリス(1834~1896)、貧困地域に知識人が居住し問題解決を支援するセツルメント運動を牽引したアーノルド・トインビー(1852~1883)、「田園都市」を構想し近代都市計画に大きな影響を与えたエベネザー・ハワード(1850~1928)、そして理想社会の建設を夢見て協同組合運動や労働運動にとりくんだ社会主義の先駆者ロバート・オウエン(1771~1858)などが、一人ずつていねいに紹介されている。どの人も、それぞれの専門分野でかなり有名な人びとである。

本書がユニークなのは、そんな彼らをもとの歴史的文脈へと連れ戻し、彼らが共通して属していた知的なサークルとその雰囲気を描き出している点だ。そこから改めて見えてくるのは、上記のどの運動・理論も、産業革命後のイギリス社会が苦しんでいた貧困や格差の問題に対する市民活動という側面を共通してもち、そこから派生してうみだされた多様な方法であったという事実である。

こうした一群の人びとこそが「コミュニティデザインの源流」と著者は書く。それまでも各地で行われてきた地域づくりや地域学を「コミュニティデザイン」と名づけ直し、新たにパッケージして商品化し成功をおさめた著者が、今度はその射程に社会主義をも捉えたかたちだ。貧困や格差の問題に、果たしてそれはどこまで迫ることができるだろうか。「コミュニティデザイン」の真価、真贋が問われている。(了)

※『山形新聞』2016年09月11日 掲載

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