そこそこ優秀な人の為のメンタル強化書
「なんで自分のところばっかり仕事が集まって来るんだ!?」
もしあなたがタイトルのように優秀と呼ばれる人間であれば、一度は考えたことがあるのではないでしょうか?
誰よりも努力して仕事を覚え、日々自己研鑽に勤しみ、得たスキルで圧倒的な早さで仕事ができる。
その結果「優秀」「デキるやつ」の称号を得たのと引き換えに、押し寄せてくるありえない量の仕事。
「軽く普通の人の倍はあるんじゃないか?」
あなたはそう心中で一人ごち、溜め息をつく。
こんな大変な目に遭うために私(俺)は頑張ってきたんだろうか? と──。
このコラムは、そんな一般的に見て優秀とされる人がハマりがちな罠について、「こう考えてはいかがだろうか?」と身勝手にも提言する、そんな記事です。
なぜあなたのところに仕事が集まるのか?
さて、あなたの元に集まった仕事の種類を思い出してみましょう。
「他にできる人がいないから」
「もう納期が差し迫っていて君じゃないと間に合わせられない」
「あいつの仕事だったけど、やっぱり無理だったから」
「考える時間がないから、代わりに考えてくれ!」
ええ、全部そんなの知らんがなって仕事ですね。
しかしながらあなたの元へはありえない量の仕事はやってくる。なぜならあなたに頼んだらきっちり仕上げてくれて、頼んだ方は楽ができるからです。
では一体なぜそんなことが起こるかというと、人を育てる仕組みができていないからです。
仕事が多すぎてもう無理! と言い出すと、必ずと言っていいぐらいこんな言葉が返ってきます。
「そんなに仕事が多いなら周りに振ったりしたらいいじゃないか」
「それができたら苦労していませんよ。他にできる人がいないから自分に仕事がまわってくるんです」
「それは君が下を育ててこなかったから悪いんだよ」
けっこう身に覚えがあるんじゃないでしょうか?
この指摘は往々にして的外れです。頼みやすい人を使い倒して育てる時間さえ与えないまま、教育システムの問題から目を逸しているのです。
しかしこの状況はチャンスでもあります。
そんな組織の中であなたは優秀という評価を受け続けることは容易ですし、能力を伸ばし続けていれば別の部署からオファーがかかることだってあるでしょう。
しかし、あまりに業務を抱えていたり、その仕事が属人化しすぎていると組織はそれがあなたのステップアップに繋がろうと、手放すことをしたがりません。
ああ、なんて不平等でしょうか。
あなたの感じている不公平感について、少しずつ紐解いていきましょう。
あなたから見た他者の存在
あなたから見た仕事ができない人はどんな人たちでしょうか。
効率の悪い仕事をし、難しい仕事から逃げ、「君ぐらい優秀だったらよかったんだけど」と皮肉めいたことを言う、努力の足りない人たち。
そんな人たちが、あなたの周りにもいると思います。
このコラムがミートするあなたは困難に直面してもどうすればいいかを考え、勉学に励み、時に人を頼り、その難関を突破してきたのでしょう。
そんなあなたから見れば、自分の仕事を増やす原因になっている能力不足の他者というのは、時には恨めしい存在に感じるかも知れません。
しかしよくスキルアップ系のビジネス書籍を読んでいると、出てくるキーワードがあります。
「みんな能力があるのに、それを伸ばそうとしていない」
私はその言葉に酷い違和感を覚えました。
能力を伸ばそうとしていない人が多いのは、理解できます。事実、読書習慣や勉強のある人は少数派で、みんな大なり小なりSNSやゲームに時間を吸い取られ続けています。
しかし本当に「みんな能力がある」なんて言えるのだろうか?
私はメンターを務めてくれている年上の親友に問いかけました。
「能力開発系の本を読んでいると、必ずと言っていいぐらい『みんな能力がある』前提で話が進められるんだ。本当にそうだと思うかい?」
「うーん、努力すればある一定のレベルまで行けるのは間違いないと思うけど、『みんな能力がある』とは言えないんじゃないかな」
「そうだよね。厳しい見方だけど、そんなものだよね」
「けど僕からしたら『みんな能力がある』って言ってしまう方が厳しいよ。だって本当に能力のない人に『これぐらいできるだろ?』って強要しているようなものじゃないか。僕は優しいから言うよ。『君はバカだから無理だよ』って」
なるほどなと思いました。確かに厳しく、彼の考え方は優しいのかも知れない。
能力はありそうなのにそれを伸ばそうとしない怠惰さには後で言及するとして、やはり誰もが優秀と呼ばれる人材になれるわけでもないのです。
この項で何を言いたいかと言うと、他人に期待するのは止めましょうという話です。
伸びしろのある若手に成長を期待するのはもちろんいいです。しかし明らかに能力のない人に期待してしまうのは、心の健全を保つ上でもよくないでしょう。
他者から見たあなたの存在
さて、では他者からあなたはどんな存在に映っているでしょうか。
大別すれば次のようになります。
あなたに注目し、重宝してくれる人
例えばあなたを正当に評価し、仕事のやりとりでは誠意と感謝の心を忘れずに対応する人たちです。
こういう人たちとはギブ・アンド・テイクができるし、互いに高め合うこともできるでしょう。
注意をしなければならないの次の人たちです。
あなたに助けてもらったり、利用することを考える人
もちろん常にこの状態にある人だけでないと思いますが、何か問題があると途端にそんな存在になるのが人間というものです。
私にだってそういう時はあります。例えば全く新しい仕事でいくら独学しても対処しきれないものには人を頼ることも選択肢として取るからです。
しかし常にこの状態になっている人たちがいます。
ふだん普通に仕事はしています。しかし自分の能力を越えたと思った瞬間、すぐに仕事を放り出すのです。
自ら学ぶことすら選択肢になく、思考放棄を始め、結果として優秀な人たちの重荷になっていきます。
前述のように、本当に能力のない人たちはもうどうしようもありません。
しかし一見能力はあるのにそれを発揮したり開発したりしようとしない人たちには、しかるべき成長が必要なのです。
では具体的にどうしていけばいいのかは、次の項で言及しましょう。
現状を変えるにはあなたが変わるしかない
いつも仕事ばかり押し寄せてきて、ちっとも周りもよくなっていかないのだとしたら、それはあなたが取った選択肢が間違っている可能性があります。
いつかみんな能力が上がってきて自分も楽できるはず⋯⋯なんて楽観はもう止めましょう。そうなるには、あなたの行動を変えていくしかないのです。
同じ問題が押し寄せる時、あなたは同じ答え──頼まれた仕事を期待された通りに仕上げることをしていませんか?
もしそうだとしたら、変化を嫌い、あるいは恐れている自分に気付かなくてはいけません。
断ったら相手が困るから、業務に支障が出るから、嫌な顔をされたくないから、後々関係性がこじれてもいやだから──答えを変えない理由はいくらでも出てきます。
いつまでも同じ問題に取り憑かれたままで良ければ、周りに求められる自分の像を壊したくなければ、どうぞその答えを取り続けて下さい。
しかしあなたが本当に苦しんでいて、憤っていて、もう嫌だ! と思っているのなら、答えを変えるべきなのです。
私のメンターは人生にくり返し訪れる問題のことを『人生の宿題』と呼びます。
形を変えながら何度も何度も襲いかかってくる、ともすれば一生続く問題集のようなもの。それをクリアするには、あなた自身が変わり、その結果として取る行動を変えていく必要があります。
さあ答えを変えていこう
さて、ではどのようにして答えを変えていけばいいのでしょうか。
答え、つまりあなたの行動を変えるには考え方を変える必要があります。そして考え方(思考パターンや間違った信念)を変えるには、確固とした覚悟が必要です。
ここで言う覚悟というのは「もう絶対余計な仕事を受けないように変わるんだ!」とかそう言うものじゃありません。仕事をする上で余計と思える仕事はどうしたってついて回ります。
ここで言う覚悟というのは、一つの事実を認めることです。
それだけで、もうこれ私(俺)じゃなくてもいいよね? って仕事は激減します。それはもう、圧倒的に。
あなたは変化を恐れている。
だから今まで答えを変えられなかったのです。人間の持つ恒常性、現状維持バイアス。それゆえに、こんなことを言ったらああなるし⋯⋯と言い訳を考え出しては答えを、信念を変えずに来たのです。
それを認めることは勇気のいることです。
しかしその勇気があれば、もう覚悟は決まったようなものです。
そして次に認めるべきなのは、あなたがもしこれが優しさだと思って仕事を引き受けていたなら、それは逆だったということです。
あなたが仕事を引き受けすぎるせいで、相手の成長の機会を奪ってしまっていたのです。
必要以上に仕事を肩代わりすることの弊害はそれだけではありません。
短期的に事業への影響を最小限にできるかも知れませんが、長期的には組織を弱くします。一部の優秀な人間でなんとか回している組織は、その人を引き抜かれれば途端に瓦解するでしょう。いわゆる属人化した組織の典型例です。
ではどのように答えを変えていくかというと、能力の伸びしろがあるのに伸ばそうとしない人には毅然として接することです。
どうでもよさそうな仕事は、断ってしまいましょう。
「君しかできないんだよ」
そう言えば引き受けてくれるだろういう魂胆が見えみえの、使い古されたキーワードですね。しかしそれは本当でしょうか?
必要とされることに喜びを感じ、引き受けてしまいそうになる心に気付いて下さい。よく考えて見れば、実はあの人もこの人もできる。私に頼むのが一番頼みやすいからなんだろうなというのが見えてきます。
さあ、答えを変えてみましょう。
「あいにくその手の仕事で手一杯なんですよ。○○さんならできそうなので、成長のチャンスにしてみたらどうですか? メインでは動けませんが、アドバイスならできますよ」
さあ、次は何と言うでしょうか?
「もう納期が迫ってるんだ。頼む!」
「では先方に事情を話して、納期を延ばしてもらいましょう」
そんなことできるはずがない。いやいや調整する前からそう言うのはおかしいですよ。そんなやりとりの後に、結局その仕事を受ける羽目になるかも知れません。
しかしもう変化は始まっています。相手は自らの管理不足や、部下、あるいは同僚の能力不足への問題へと目を向けたからです。
そのまま考え方も変わってくれたら楽なのですが、そう簡単にはいかないでしょう。
またあなたのところにおかしな仕事が舞い込んできた時、あなたはもう一度答えを変える必要があります。
「なぜ今なのか」
「本当にこの仕事をやろうとしているのか」
「どうしてできる人がいないのか」
「いつまでにこの仕事をできるようになるのか」
正直、これでも優しい言い方なのでもっと言及してもいいでしょう。
ここまで言われていい気分でいられる人はまずいません。もうそんな思いをしたくないからとあなたに仕事を持ち込まなくなり、ようやく自分でやろうと動き出します(あるいは別の誰かを頼るかも知れませんが、それはあなたが関与すべき問題ではありません)。
やっているうちに心が痛むかも知れません。しかし相手の成長の為に自ら痛みを伴いながら苦言を呈することができるあなたは優しいのです。
相手には何様なんだと思われているかも知れません。
しかし覚悟の決めたあなたは、もうそんなことを気にしていないでしょう。相手の問題を相手に返しただけで、あなたは何一つ悪いことをしていないのですから。
このように行動を変えていくと、必ず揺り戻しが来ます。
「あなたは厳しい」
「冷たくなった」
「困っているのに、酷い」
こう言った罪悪感でコントロールしてくる人には、特に注意して下さい。自分がどれだけ周りに迷惑をかけているのか冷静に見られず、自分だけが可愛い人にありがちなコントロール術です。
もうそんな稚拙な操作に惑わされるのはやめましょう。何故ならあなたは本当の意味で優しくなったのですから。
他にもいやみたらしく慇懃無礼な態度を取ってくる人も出てくるでしょうが、どちらのパターンにも毅然と接してください。
人間関係がこじれるのが嫌だと思うなら、天秤にかけてみるのです。本当にこの人は、私にとって重要な人物なのだろうかと。
そんな稚拙な手段であなたをコントロールしようとしている人に、果たして本当に重要な人物がいるのでしょうか?
最後に
さて、行動を変えていくと、どんな世界が広がっているでしょうか。
煩雑でどうでもいい仕事から開放され、本当にやるべき仕事に集中できている自分。
あるいは能力を認められ、更に高度で重要な仕事についている自分。
タイトルの「そこそこ優秀」から「優秀」に脱皮した時、見える世界は変わってきます。
エキスパートの集まる組織やプロジェクトにスカウトされ、周りのことで困ることはなくなっているかも知れません。周囲に有能な人が増え、切磋琢磨が始まり、あなたの能力はより研ぎ澄まされていきます。
少なくとも今の私は、周りの人の能力について不満を抱くことはありません。いくら忙しくてもそれはイライラするような忙しさではなく、ワクワクするような忙しさです。
やりがいのある仕事につけるというのは、人生を有意義に過ごす上で大事なファクターです。
末筆ながら、あなたがそんな日々を過ごせるよう、私は祈っています。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。