子どもから大人まで、もっとスポーツを心から楽しんで欲しい
こんにちは。早川琢也です。
現在は大学研究員として、スポーツ練習環境、指導方法、主体性をテーマに研究しています。
研究と並行して、あらゆる年代のスポーツ選手のパフォーマンスに関する心理面の課題を、スポーツ心理学や教育心理学の知見からサポートする活動もしています。
私自身、小さい頃から現在まで何かしらの形でスポーツに関わっています。
どちらかと言うと色々なスポーツをやっていて、これまでサッカー、水泳、バスケ、卓球、剣道をやりました。
こうして書き出してみると、文字通り色々なスポーツをやっていると改めて実感しました(笑)。
スポーツが持つ価値や魅力は、人によって様々だと思います。そして、それぞれの価値が本物であり、人と違うからと言って間違っている物でもないと思っています。
その上で、私が思うスポーツの価値や魅力は、
一緒にプレーする仲間と同じように喜びや楽しさを共有できる事であり
上手い下手関係なく誰であっても楽しめるもの
だと思っています。
チームスポーツで仲間と協力していいプレーが出来た時や試合に勝てた時の喜びは格別でした。個人種目の団体戦でも同じで、それぞれのメンバーが自分の試合での役割を果たして勝ちに結びついた時の達成感も忘れられません。
他にも、単純に気心知れた仲間と一緒にスポーツを楽しむ時間は、日常を忘れて楽しめる時間でした。練習の中でも一緒に切磋琢磨して技を磨き合っていた時期は、夢中になってスポーツに取り組んでいました。
人によっては、逆上がりが初めて出来た瞬間の達成感を今でも覚えていたり、友達と一緒に公園でボールを蹴って遊んだ時間が楽しかったなど、色々な形でスポーツの楽しさや面白さを感じたのではないでしょうか?
ですが、近年では様々な要因が重なって、本来楽しいはずのスポーツが楽しく感じられない人も多いように見受けられます。
そんな様子を見かけると、
「スポーツって楽しんだよ」
「スポーツをすると、こんなにいいことがあるんだよ」
と伝えたい気持ちになります。
そこでこの記事を通して、私なりに思うスポーツを楽しめなくなっている理由や、どうすればもっと多くの人がスポーツを楽しめるようになれるのかを考えていきたいと思います。
私らしさを出すために、スポーツ心理学などの学術背景と照らし合わせながらまとめてみます。少しでも今までと違ったスポーツの見え方になればと思っています。
基本的には、スポーツその物はいい物という前提で話を進めていきますが、決して私の考えを押し付けるつもりはありません。あくまで読んで下さったみなさんが何かを思うきっかけになればと思い書き進めていきます。
今のスポーツは限られた人だけが楽しめる物?
「どうして体育が嫌いなの?」
「運動するのが下手だから」
朝の情報番組でコメンテーターと小学生の男の子がこのようなやりとりをしていて、いたたまれない気持ちになりました。
まだ小学生なのに、下手だからという理由で体育をやりたくないと思ってしまう。彼は体育の時間に一体どんな経験をしたのだろうか。。。
この小学生の男の子の例以外にも、友人が教鞭をとっている授業で取ったアンケートでは、スポーツ嫌いになった原因に「下手で周りに迷惑をかけてしまうから」、「上手くいかなかった時に周りから厳しく責められた」といった理由を挙げている生徒が多かったと聞きました。
本来は上手い下手関係なく、自分が出来る範囲で楽しめるのがスポーツの良さだと思っています。
しかし、下手なプレーをして周りに迷惑をかけちゃいけないと思ったり、上手く出来なかった時に恥ずかしい気持ちになってしまった経験は、私自身もあるので、そう感じてしまう気持ちもすごく分かります。
もしかしたらこれを読んで下さってるみなさんの中にも、似たような経験をした人はいるかもしれません。そんな苦い思いをしたら、そのスポーツから距離を取ってしまうのは当然です。
ですが、何がこのようなスポーツを楽しめない環境を作っているのでしょうか?
ネガティブなスポーツ経験を生んでいるのは何が原因?
もしミスをしたり下手なプレーをしてしまった時に、周りから非難されたり責められたりしたら、誰だってプレーするのが嫌になってしまいます。
もし先生やコーチから「お前下手だなぁ」とか「ヘタクソ!」と言われたら、その先生やコーチの下でスポーツなんてしたくなくなるのは当然です。
1つ言えるのは、周りから受ける影響が原因でスポーツ嫌いになることが多いという事です。
実は、スポーツ心理学の研究でも選手に関わる人(保護者やコーチ)が選手のスポーツに対するモチベーションに与える影響に注目した研究が数多くあります。
例えば、コーチや周りの選手が普段パフォーマンスの結果を気にした声を掛け合っているのか、努力や成長に関する声かけを頻繁にしているかの違いも、長期的にスポーツを続けるモチベーションに影響を与えています。
これは「動機づけ雰囲気」と呼ばれており、周囲の人の関わり方がモチベーションの「雰囲気」を作っている、という見方をしています(伊藤ら, 2008; Selfriz et al., 1992)。
もしプレーの成功やミスなどの「結果」にばかり声がかかると、次第に上手くいったかどうかが気になり、プレーする時に緊張しやすくなってしまいます。その結果、スポーツから離れてしまう傾向が強くなります。
反対に努力やチャレンジした姿勢のようなプレーの「プロセス」に対する声がかかると、今やっているプレーに集中しやすくなり、ミスしたり上手くいかなかった時も、次のプレーを良くする事に意識を向けやすくなります。
実際に、シュートが外れた時に「シュート外れたぞ!」と言われるよりも「ナイスチャレンジ!」と言われた方がプレーを続けやすいと感じるのではないでしょうか?
他にも、
①自分がやっているスポーツに対する自信が持てること
②自分から選んで参加している感覚
③一緒にプレーしている仲間やコーチと良好な関係が築けている
の3つが満たされていると、スポーツを長く楽しく続けるためのモチベーションが高まりすいとされています。
この3つは基本的心理欲求と呼ばれ、それぞれ①有能性、②自律性、③関係性、の欲求と呼ばれています(藤田&松永, 2008; Ryan & Deci, 2000)。
どうすれば、もっとスポーツを楽しめる?
これまでの個人的な経験、周りの人の意見、そしてスポーツ心理学の研究を参考にすると、よりスポーツを楽しめる環境を作るにはスポーツに参加している人をどれだけ尊重できるかにかかっていると思います。
もう少し具体的な言い方をすると、
①結果よりもスポーツを楽しんでいたり成長している様子を支持する
②選手の上手い下手関係なく、関わっているコーチや保護者や周りの人がスポーツしている人の取り組みや意思を尊重する
③一緒にスポーツをしている仲間やコーチと良好な関係が築けるように、お互いを知る時間や、スポーツしている時間以外にも交流を持てる機会を作ってみる
他にもまだまだ出来る事はあると思いますが、大まかな取り組みとしてこの3つが挙げられると思います。
もう少しだけ、ミスに寛容な社会であって欲しい
その上で私が一番必要だと思うことは、ミスに対して自分も周りも寛容になれることだと思います。
どんなに上手くても、スポーツにミスはつきものです。
プロ野球選手でも10回中7回近くの打席でアウトになっています。
プロバスケ選手でも、フリースローはシーズン通して10回中2、3回は外しています。
サッカー選手でも、試合中に相手に抜かれたり、パスミスしたり、シュートミスしたりしています。
大事なのは、ミスがある前提でプレーしてミスをしたら素早く次のプレーを良くするための準備をすることと言えるのではないでしょうか。
スポーツであれ仕事であれ、ミスに対して厳しい環境では自分のパフォーマンスよりもミスに気が向いてしまいます。「ミスをしてはいけない!」とミスを気にすればする程プレッシャーも大きくなり、結果的にいいパフォーマンスをしにくくなってしまいます。
ミスをしたら次の機会に挽回すればいいし、周りがサポートすれば尚良いと思います。そして、他の人がミスした時にサポートできればお互いに支え合っていけます。
もちろん、ミスは減らしていけた方が好ましいですから、ミスを学びの機会にしてミスから学んで成長していければ長い目で見た時にミスも減ってくるはずです。
今より少しでもミスに対して寛容な社会になれば、スポーツをもっと楽しめる環境にもなると信じています。反対に、スポーツを通して多くの人がミスに対して寛容な姿勢を身につけられたら、社会もミスに対して寛容になれるのではないでしょうか。
「スポーツがくれたもの」について考えていく中で、最後は社会についても考えが広がっていきました。
これからも、スポーツの持つ力や魅力をもっと引き出していけるような研究やサポート活動を実施していきたいと決意を新たにしました。
早川琢也
参考文献
藤田勉, & 松永郁男. (2009). 運動部活動参加者の心理的欲求に影響するコーチ及びチームメイ卜の行動.
伊藤豊彦, 磯貝浩久, 西田保, 佐々木万丈, 杉山佳生, & 渋倉崇行. (2008). 体育・スポーツにおける動機づけ雰囲気研究の現状と展望. 島根大学教育学部紀要 (教育科学), 42, 13-20.
Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). The darker and brighter sides of human existence: Basic psychological needs as a unifying concept. Psychological inquiry, 11(4), 319-338.
Selfriz, J. J., Duda, J. L., & Chi, L. (1992). The relationship of perceived motivational climate to intrinsic motivation and beliefs about success in basketball. Journal of sport and exercise psychology, 14(4), 375-391.