「摂食障害かも…」「治療を受けたほうがいいかなあ…」と思ったときの読書案内
「病院に行ってみる」という選択
これだけネット上に情報があふれ、芸能人でも摂食障害であることを告白している方も少なからずいるような時代です。
かなりやせてきたのとはうらはらに、食べることへの不安がますます強くなってきたときには、周りから言われなくても、自分で「私、摂食障害かも…」と気づく人は多いように思います。
とはいえ、そこですぐに病院の受診まで考える人は少ないでしょう。
まず、どんな病気であれ、「病気かもしれない…」といった話を人に相談するのは勇気のいることです。この病気になる人は、自分だけで抱え込み、なんとか対処しようと頑張り過ぎてしまうタイプの人も少なくないので、なおさらです。
そして、相談したとしても、きっと「もっと食べないと…」「体重増やさないと…」「吐くのはやめないと…」といったことを言われるに違いない、と思い、なおのこと相談をためらう人は多いと思います。それぐらい摂食障害という病気を”手放す”というのは難しいものです。
また、受診が思い浮かんでも、病院でどんな治療をするのか、治療でほんとに治るのか、といったことが全然分からないと、「そうまでして受診する意味があるんだろうか…」などと考え、さらに先へと踏みせない、といったこともありうるでしょう。
そんなときに参考になるものとしては、『摂食障害ポータルサイト』といったサイトもあり、これはこれでよくまとまっていて有益だと思います。
ただ、それでも「受診した後のことを、もう少し具体的に教えてくれる情報はないかしら…」という人もいるのではないでしょうか。
SNSを開けば、様々な治療経験、入院経験を綴ったポストがいろいろと出てきますし、それを見て「治療を受けてみよう」と思うこともあれば、「やっぱり病院やだなあ…」と思うこともあるでしょう。
書籍にしても、当事者の方の体験記や、かつて当事者だった方が綴ったアドバイスの本などもかなり増えましたので、そういったものを参考に取り組む方もいるでしょう。
でも、そういった自分なりのチャレンジではなかなか辛い状況から抜け出せなさそう…という人には、やはり、「病院での治療を受ける」という選択肢を考えてもらいたいなあ、と思います。
そんな方たち(とご家族ら)に参考になりそうな本も、最近になっていろいろと揃ってきましたので、そんな中でのおすすめ本というか、手にとってもらいやすそうなものを、ちょっとまとめておきました。
① 『摂食障害:見る読むクリニック』鈴木眞理、西園マーハ文、小原千郷(著)
摂食障害の病状や治療の大枠について、具体的なケースなども交えつつ、コンパクトにまとめられています。前半は拒食症、後半は過食症と、両面にもきちんと配慮しつつ。
摂食障害治療の第一人者である鈴木・西園両先生の執筆なので、その内容は安定の信頼感。
付属DVDには、両先生が自ら演じた診察場面の動画も収録されています。
② 『摂食障害がわかる本――思春期の拒食症、過食症に向き合う』 (健康ライブラリーイラスト版) 鈴木 眞理 (監修)
講談社の健康ライブラリーのシリーズは、バランスよい知識・情報のまとめ方でクオリティが高いものが多いですが、摂食障害に関しては、以前にも、切池先生が監修で『拒食症と過食症の治し方』とのタイトルで出版されています。この鈴木先生が監修のものは、そのタイトル通り、より現代的なタイプにフォーカスしてアップデートされたような内容になっています。
病状、治療、家族らの対応といったことに関して①よりも詳しく書かれているので、ある程度、摂食障害についての知識も深めておきたいという方々には良いかと。
③ 『10代のための もしかして摂食障害?と思った時に読む本』
おちゃずけ (著、イラスト)、作田亮一 (監修、解説)
マンガというかたちで、女の子が摂食障害になっていく過程や、実際にどんな治療を受けるか(入院も含め)といったことが分かりやすく描かれています。作田先生のワンポイント解説もついているので、基本的な知識も得られるかと思います。
作者のおちゃずけさんもまた元当事者さんだったとのことですが、本書には当事者の方たちからの顔出しでの経験談・メッセージも織り込まれていて、そういった点でも”近づきやすい”本になっているのではないでしょうか。
④ダイエット・摂食障害 (10代からのヘルスリテラシー)
松本俊彦 (監修)
ハードカバーで、絵本のようなサイズ感。50ページ弱でこの価格設定に面食らったのですが、どうやら学校の図書館などに置いてもらうことを前提とした編集、装丁のよう。全部ふりがな入りですし。
ということもあってか、摂食障害という病気についての解説と同じぐらいの分量を、正しいダイエット・食生活と危険なダイエットについて割いているのが特徴的です。
学校で"予備軍”的な子に対して早めに食生活の指導をしていく、といったイメージでしょうか。
というわけで、この本のことは、学校の先生方(特に養護教諭の先生方)にもっと知ってもらえるとよいのでしょう。
監修の松本俊彦先生は依存症臨床や若者のメンタルヘルスに関する第一人者。本書の内容自体には松本色はあまり感じないですが、松本先生による前書きにはこのようなメッセージが綴られています――
⑤『摂食障害と寄りそって回復をめざす本』 切池信夫 (監修)
他の本は摂食障害になって間もない人(とその親)を主な読者と想定しているのに対し(と言っても、長期化した人にも参考にはなると思いますが)、この本はもっと幅広い年齢層、様々な経過の人たちのことも思い浮かべつつ書かれています。
他の本に比べると、だいぶページ数も多い”読み物“といった感じですが、いろいろと示唆に富むところもあるのではないかと。
ちなみに、切池先生はこの本を出した経緯について、別のところでこんなふうに述べています。
このように、慢性化した患者さんに対しては、発症間もない人に比べて、目標とする体重なども異なってきますが、ここで大事なのは<治療につながっている>ということです。
ぎりぎりの体重のままであったとしても、定期的な受診をして、身体面のチェックや、生活面でのアドバイス、日頃のストレスについての相談などを継続できているならば、それだけでも危機的な状況(救急車で運ばれるなど)をある程度回避することや、生活全般の質の向上にはつながっています。
ご本人も、ご家族など周りの人たちも、数字だけにとらわれず、「治療は継続しているだけでも十分に意味があるんだ」と考えるのがよいと思います。