■第16回 不幸な退職者を出さない、むしろ生かすには
1 中小では新卒採用者の2人に1人が3年以内に退職
企業の人事担当者や経営者向けに採用や面接に関するセミナー、講演をしていると、「採用も困っているのですが、入ってもすぐに辞めてしまう社員が多くて困っています」という声をよく聞きます。
「大卒の3割以上(およそ3人に1人)が3年以内に辞めている」という話なら、ずいぶん前から聞いているという方も多いでしょう。
ネタ元は厚生労働省の調査(新規学卒就職者の離職状況(平成27年3月卒業者の状況))です。2018年10月23日の発表によれば、新規学卒者(2015年3月に卒業した新卒者)の就職後3年以内の離職率は大卒31.8%、高卒39.3%とのこと。
事業所規模別では1000人以上では、それぞれ24.2%、25.3%と約4人に1人、規模が小さくなるにつれて割合は増え、5~29人ではそれぞれ49.3%、55.9%と約2人に1人となっています。
中小企業においては、苦労して採用した社員の半分が3年以内に辞めてしまっているのです。
ちなみに3年以内の離職率は年々高まっているのかと思ったら、調査結果が出ている2003(平成15)年と比較して減っています。2003~2005年3月卒までは35%を超えていたのが、その後上下はありながらも30%近くまで漸減しているのです。
労働力不足が少しずつ明らかになってきて、企業側が離職者を減らす努力を重ねてきた結果なのでしょう。とはいえ離職率は高止まりしたままです。
日本企業にとって労働力不足は外国人雇用のテーマでも触れたように喫緊の課題です。同時に頭打ちの国内市場から飛び出して世界で戦う上では、働き方改革に代表される生産性の向上も焦眉の急です。そんな状況で、費用と手間をかけて採用した多くの人材を手放してしまっていていいのでしょうか。
就職情報サイトの調査(2019年)によれば、新卒採用の費用は総額では平均約560万円、入社予定者1人当たりでは平均約50万円。内訳は就職情報サイトへの掲載費用などの広告費、入社案内やホームページ・ダイレクトメール(DM)などのツール制作、DM発送、セミナー運営、アウトソーシング(データ処理・電話オペレーターなど)、資料発送など「採用経費」に含まれる費用の総額とあります。
これとは別に人事担当者の人件費が専任だと1人当たり年間数百万円かかることを含めると少ない金額ではありません。費用と手間をかけて納得の上で採用しておいて、辞めていい人など基本的にはいないはずです。
終身雇用という言葉は平成までだったと語られる時代が来るとしても、日本企業の強みの1つが“長期雇用による社員の育成やチーム力”にあることは、しばらく変わらないでしょう。
3年以内に3分の1、大手企業で4分の1の人材を失うことは損失としても効率の上でも小さいとはいえません。
そこでシリーズ第16回では「不幸な退職者を出さない。むしろ生かすには」と題して、社員の退職問題を取り上げてみたいと思います。単に退職をいかに防ぐかという話だけでなく、後半ではたとえ退職してしまっても、人材として生かしていく方法についても触れていきます。
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