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【読書感想】伊坂幸太郎『火星に住むつもりかい?』

2020/07/23 読了。

伊坂幸太郎『火星に住むつもりかい?』

平和警察なる機関が、住人の監視と密告によって危険人物を見つけては捕らえ、拷問をし、衆人の目前でギロチン刑に処してしまう話。

気持ちのよい話ではなかった。 

拷問シーンが結構リアルであることと、拷問をしている者もそれが職務であるため何の疑問も持っていないこと、これが絶妙に気持ち悪かった。

私は『ゴールデンスランバー』が大好きなのだが、『火星~』は好き勝手する組織に立ち向かえない構造になっているため、スカッとするシーンが大変少ない。伏線も回収もどうでもよくなるくらいに、設定がしんどい。

"悪"に立ち向かう庶民を見たくて、
"正義の味方らしからぬ正義の味方"を見たくて、
そんな彼らから勇気を得たくて、
私は伊坂幸太郎を読んでいるのだ、と気付いた。

作家が自分が読みたいものを書いてくれる訳ではないし、作風だって自由自在に変わればいいと思うし、救われなさから救われることだってあると思うし実際あったけど、『火星~』は本当にキツかった。多分、567禍の日本と重なる部分も多くて、現実も苦しいのに、小説世界も苦しくて、勝手に追いつめられてしまったのだろうね。

巻末の解説で、ぼくのりりっくのぼうよみさんが、サディスティックな警察官エイジの嫌な面だけを延々と見せられ、その後訪れる彼の死に、「正義の味方よくやった!」と思ってしまう読み手の姿と、公開処刑に立ち会う観衆の姿とそう変わらない、と書いている。

そうか、自分の中の正義や悪の定義が揺さぶられそうになることへの畏れが、私を気持ち悪くさせていたんだな。ぼくのりりっくのぼうよみさんのように読めなかったのは、自分が正しい位置にいると信じて疑いたくなかった、自分の弱さ故だ。

苦しみながら読んだことが、後の自分の価値観に何ならの良い変化をもたらすといいなあ、そんなことを願いながらこれを書いてます。





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