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【読書感想】島本理生『ファーストラヴ』

2020/02/13 読了。

島本理生『ファーストラヴ』

父親を殺害した容疑で捕まった女子アナウンサー志望の環菜。 

「動機はそちらで見つけてください」

環菜が逮捕された後の台詞で囚われた。この小説は私にとって特別なものになるという予感が生まれた。そこからはもう貪るように読んだ。 

(ここからは物語の核心に触れる記述あり)

主人公は臨床心理士の真壁由紀。由紀は出版社の依頼で環菜の半生を本に書くことになる。その際、環菜の弁護士で由紀の夫の弟でもある、庵野迦葉と関わることになる。

由紀と迦葉はなにかある、というのはすぐ分かる。由紀と迦葉、環菜の事件、その二つの謎を解きながら物語は進む。ミステリ要素もあるけど、ヒリヒリした恋愛小説の要素も強くて、終始泣きそうという妙な心理状態だった。

島本理生さんの小説は何作か読んだことがあるけど、ファーストラヴは今までの恋愛小説とは違っていた。

読者に、見せたい景色がある。

そう感じた。何を見せたいんだろう。どこに連れて行かれるんだろう。由紀が環菜の本当の気持ちを探るように、島本さんが伝えたいことを私も探りながら読んだ。

環菜は特殊といえば特殊な家庭。だが劣悪とは言えない。環菜本人も性的に虐待されたとか、性を搾取されたという意識がない。だが、由紀は何かあると考える。

それは、視線だった。

少女が受けてきた、性的な視線。

それが果たして性虐待にあたるのか、というものすごく難しいテーマに由紀と迦葉は環菜の裁判を通して突き詰めていく。

いま、物凄く多くの虐待事件が起き、氷山の一角だが報道もされ多くの人がそれを知る。

なんの虐待でもそうなんだけど、残忍で目にするのも耳に入れるのも拒みたいくらいの事件が報道されると、そこまでではない虐待は軽く感じてしまうことがある。環菜が受けた、「視線」による性虐待も、「そこまでではない」虐待だと最初は思った。

でも、それは違う。比較してはいけないのだ。深くても浅くても傷は傷で、傷を負ったという事実に大きいも小さいもない。

読み終わった瞬間に見えた景色が私にはそれだった。

心が揺れに揺れて泣きながら読んだけど、とてもしっかりこの小説を読めた。過去の私と今の私が離れてない、と感じた。作中の言葉を借りると、段階と整理が出来ていることを感じられた。そんな自分に安心と信頼を覚えた。

由紀と迦葉の関係はここでは触れないけれど、相手が一番傷つく言葉を知っていることは、相手を何より深く理解していることと同義なのだと思う。

島本理生は人を傷つける言葉を吐きながら人を言葉で救う。

本当に素晴らしい小説だった。




追記:文庫本には巻末に朝井リョウによる解説があるのだが、その解説がたまらんよかった。

読む人の年齢、性別、体格、地域などによって、主人公がストレスに感じていた事への共感が違う(朝井さんはもっとうまく書いてた)というのは本当にそう。家を施錠するしないも、そこまでストレスを感じるものかなと違和感があった。女の私がそうなので男性はもっと違和感を感じると思う。

共感できないけれど、相手は負担に感じているかもしれないという想像力、それを朝井さんの解説から教えてもらった。

巻末の解説で、ファーストラヴの世界から現実の自分に戻っていったように思う。解説も素晴らしかったので、ここに書いて残しておきます。



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