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【読書感想】森絵都『みかづき』

2019/03/31 読了。

森絵都『みかづき』

昭和36年、小学校の用務員だった吾郎は、放課後に「勉強がわからない」子どもたちに勉強を教えていた。そこに1人の聡明な女の子、蕗子が現れる。蕗子は教員免許を持った母・千明によって送り込まれた「偵察」で、吾郎は千明と共に学習塾を開くことになっていく。

冒頭からぐいぐい引き込まれた。長編小説は、一気読みは難しいから日をまたぐことも多くなるけど、みかづきは昨晩読んだとこを鮮明に覚えていた。寝落ちする隙を与えられなかった。 

【ここからは物語の核心に触れる記述あり】

公教育である学校と、私教育である学習塾。このふたつは、千明の言葉を借りるなら、太陽と月。ふたつの学舎は、子どもを照らし続ける光である。昭和30年代から平成までの50年の間、公教育と私教育がどのように変転してきたのか。双方は本当に子どもを照らして来られたのか。子どもたちの真の学びとは何なのか。そういった学術的な部分を、実感と共に得られるように森絵都さんが易しく書いてくれた。

印象的だったのは、学校の教員になった蕗子の「公教育にしかできない子どもの守り方もある」という言葉。

私も塾に行かせてもらえない子どもだった。貧しさ故ではなく、親の拘り。学校でわからないからといって塾に行くなんて以ての外。分からないのはお前の努力が足りないからだ。結局分からないまま、学校の勉強についていけずに落第生。

生活困窮者は勿論のこと、日々の生活にいっぱいいっぱいで子どもの勉強にまで意識を向けられない親もいると思う。みかづきの素晴らしいのは、そういう視点もしっかり描いているところだ。

公教育だからこそできることがあるという視点を持つ蕗子の長男である一郎が、塾に行きたくてもいけない子どもたちの支援をしていく流れには感動しっぱなしだった。吾郎と千明の最も大切にしていたものを、教えずとも見つけた一郎。その着眼点に感動した。

この小説の面白いところは、普通なら丹念に描くであろう色や恋を、かなりバッサリ削いでいるところだ。ただこの引き算の効果は絶妙で、後々何倍にも膨らんで返ってくる。

あと、どの登場人物も人間味があった。吾郎も女には滅法弱かったりと、聖人ではないところも親近感が持てた。

久しぶりに鳥肌の立つような読書体験をした。
満たされた。






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