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消耗戦と機動戦では、戦闘力の運用にどのような違いが生じるのか?

部隊の戦闘力を構成する要素には、人員、武器、装備などの物質的要素と、指揮統率、編成や態勢、士気、規律、団結などの非物質的要素があります(戦闘力とは何か? クラウゼヴィッツの分析で学ぶ軍事学を参照)。この二面性を踏まえると、敵の戦闘力を破壊する戦い方を二通りに分けて考えることができます。

一つ目は敵の戦闘力を構成する物質的要素、つまり人員や装備を殺傷、破壊する消耗のメカニズムに沿って戦う方法です。このようなメカニズムに基づく戦い方は消耗戦(attrition warfare)と呼ばれています。この消耗戦を徹底すると、敵の兵力を完全に殺傷する殲滅(annihilation)が究極的な目標となります。

二つ目は敵の戦闘力を構成する非物質的要素、つまり指揮統制、規律、士気、団結などを損なう機動のメカニズムに沿って戦う方法です。このメカニズムに基づく戦い方は機動戦(maneuver warfare)と呼ばれています。機動の目的は単に部隊を移動させることではなく、敵が組織として戦闘力を発揮することができない態勢をとり、崩壊(disruption)に追い込むことにあります。

例えば、陣地を占領した敵の部隊に向けて我が方の火力を集中する戦い方は消耗戦であると言えます。戦闘力を発揮する際に、機動より火力の機能に重点を置くことになるためです。大規模な火力を一元的、効率的に運用するためには、分権的な指揮系統より集権的な指揮系統で部隊を編成すると有利です。

反対に、敵の側面に回り込んで攻撃することや、敵の後方に向かって突破する戦い方は機動戦だと言えます。この場合、火力よりも機動の機能が戦闘力の発揮にとって重要です。各級指揮官が上官の意図を踏まえながらも、目の前の状況の推移に機敏に反応することが求められるので、部隊の編成では分権的な指揮系統を重視する必要があります。

研究者エドワード・ルトワックは消耗戦と機動戦との間には無数の中間的な戦い方があると指摘しているのですが、基本的に消耗戦になるほど戦闘の結果の予測可能性が高まる傾向にあると説明していました。

つまり、消耗戦では戦闘に投入した兵力に比例して戦果も増加していくことが予想されています。機動戦は戦闘に投入した兵力に比例して戦果が増加するとは限りません。敵に対する機動の効果は各級指揮官が適切に状況を判断し、部隊を運用し、有利な態勢を確立する能力によって左右されるためです。消耗戦に比べて機動戦はよりリスクが高い戦い方であるとも言えます。

ルトワックの分析で興味深いのは、部隊運用において消耗戦よりも機動戦に依拠する割合が高くなるほど、戦略と戦術との間をつなぐ作戦の重要性が高まると述べていることです。ここでは戦いの三要素の一つである時間の影響が深く関係しています。消耗戦では戦闘の状況はそれほど流動的ではなく、部隊行動のテンポがゆっくりであるため、司令官は最前線から報告を受け取り、それから作戦命令を下達することもできます。

ところが、機動戦では前線の部隊から司令部に報告が届く頃には、もはや部隊はその位置にはおらず、敵情も変化しています。この傾向は戦域が大きくなるほど強まります。司令部と最前線を結ぶ各級指揮官がどのように作戦を指導するかが肝心です。もし機動戦を遂行する部隊が分権的な指揮系統を持っていなければ、最前線で戦う部隊は状況の変化に即座に応答できず、戦闘力の発揮に大きな支障を来すことでしょう。

ルトワックの議論に沿って消耗戦と機動戦を理解すると、それらが単に異なるメカニズムに依拠した異なる戦い方であるだけでなく、戦い方に応じた時間の管理が必要であることも分かると思います。

見出し画像:U.S. Department of Defense

参考文献

エドワード・ルトワック『エドワード・ルトワックの戦略論』武田康弘、塚本勝也訳、毎日出版社、2014年、第7章

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