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論文紹介 指導者の健康状態が悪化すると、権力の維持が難しくなる理由

指導者の健康に関する情報は、歴史上しばしば隠されてきました。これは単に世間体が悪いといった曖昧な理由のためではありません。指導者の健康状態が悪いことが分かると、政権の存続が難しくなるためです。

アメリカの政治学者ブエノ・デ・メスキータスミスが発表した論文「政治的な忠誠と指導者の健康(Political Loyalty and Leader Health)」(2018)は、指導者の健康状態が悪化しているという情報が拡散すると、政権の寿命に重大な影響を及ぼすことを実証しており、特に権威主義の国家では、その傾向が顕著になると結論付けています。

Bruce Bueno de Mesquita and Alastair Smith (2018), Political Loyalty and Leader Health, Quarterly Journal of Political Science: Vol. 13: No. 4, pp 333-361. http://dx.doi.org/10.1561/100.00017123

ある政治体制で指導者が政権を維持するためには、政権を支持する有権者が満足できる程度の報酬を分配し続けることが必要である、と著者らは考えています。その理論的根拠として使われているのが支持基盤理論(selectrate theory)であり、それによると指導者が権力を維持する上で確保しなければならない支持者の人数が、政治体制の形態によって異なります。そのため、指導者が政権維持のために分配すべき報酬の形態にも違いが生じると説明されています。

例えば民主主義国では指導者が政権を維持するには、選挙で当選する必要があります。そのため、不特定多数の支持者を確保できるように、公共事業など公共性が強い財を提供して可能な限り多数の人々を満足させる政策が有利です。しかし、権威主義国の指導者であれば、政権の維持に少数の支持があればよいので、彼らに賄賂や特権を分配できる政策が有利です。民主主義国より権威主義国の政権寿命が長いのは、政治体制として権力の維持に伴う困難が小さいためであると考えられます。

もし指導者の健康状態が悪化し始めると、支持者はこの先も分配を受け取れるかどうか不透明な状況に直面することになると著者らは指摘しています。支持基盤理論によれば、指導者に対する支持者の忠誠は、過去に受け取った分配だけでなく、将来に受け取れると期待される分配の量によって変化する性質のものだと考えられます。つまり、将来的に分配を受け取れなくなる可能性が出てくるのであれば、今の指導者が生きているうちに、追加の分配を受け取りたいと考えるかもしれませんし、あるいは次に権力を握ろうとしている政治家に味方して今の指導者を裏切るかもしれません。

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