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メモ 米軍のナショナル・トレーニング・センターで明らかにされた偵察の重要性

ベトナム戦争の経験を踏まえ、1970年代後半からアメリカ陸軍はさまざまな組織改革に乗り出しましたが、その成果の一つとして1980年10月に活動を開始したナショナル・トレーニング・センター(National Training Center:以下NTC)の設置を挙げることができます。NTCは、現実的な戦闘訓練や機動演習が実施されており、戦術的な教訓の普及を目指して活動してきました。

NTCで研究されてきたテーマの一つには、戦闘を勝利に導くための戦術ドクトリンの開発が含まれています。これまで戦術の研究で基本とされてきたのは、戦史を研究することでしたが、NTCは条件を統制しながら、結果の変化を探る実験的アプローチをとり、その結果をランド研究所と連携して分析してきました。

1987年にランド研究所が発表した研究報告書「ナショナル・トレーニング・センターの実験を適用する(Applying the National Training Center Experience)」では、演習に参加した軍人から作戦後の分析検討(After Action Review)の手続きで収集したデータを分析し、攻撃戦闘での勝利の多くが戦闘前に実施する偵察の成否で説明できることを実証しています。

1986年の夏以降、14個の歩兵大隊または戦車大隊が参加する演習が63回実施されました。いずれの事例でも偵察隊が敵情を解明する度合いに応じて、攻撃戦闘の成功率が大きく左右されることが示されましたが、多くの事例で時間的な制約があり、十分な偵察が実施できないまま攻撃動作に移行することがあることも浮き彫りとされました。また、偵察を成功させることの難しさも指摘されており、偵察任務を達成する能力が不足しがちであることも判明しました。

したがって、NTCの調査から戦闘効率の向上のためには、偵察隊の指揮をとることになる士官には、偵察に必要な知識と技能を付与しておくことが重要であり、徒歩で行動する場合、下車して行動する場合に、どのような戦闘動作をとればよいのかを教えるべきであると提案しています。偵察任務における装軌車両の問題も指摘されており、高機動多用途装輪車両(High Mobility Multipurpose Wheeled Vehicle, HMMWV)のような車両が静穏性の面で偵察任務に適しているとも論じられました。

こうした見解の妥当性は1996年に発表された報告書「ナショナル・トレーニング・センターにおける大隊偵察作戦(Battalion Reconnaissance Operations at the National Training Center)」でも再確認され、偵察任務の重要性が改めて示すされました。ただし、偵察任務に使用する車両として、装甲が乏しいHMMWVを使用することの是非については、議論の余地があります。

1991年に湾岸戦争が終結した後で、HMMWVの防護性能は必ずしも乗員の生存性を確保するには十分ではなかったことが問題として提起されたためです。私は偵察小隊が使用する車両には十分な対弾、対爆性能が必須であると考えていますが、突き詰めれば偵察の方法として、隠密偵察と威力偵察のどちらを重視すべきかという問題になるため、状況によって最適性は変化する可能性があるでしょう。

見出し画像:U.S. DoD. Marine Corps Lance Cpl. Kyle Baskin

参考文献

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