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メモ WEI/WUVで陸上戦闘力を定量的に把握することの難しさ

軍事学では、戦闘において任務を達成する部隊の能力を指して戦闘力といいます。戦闘力は相対的なものですから、我の戦闘力だけでなく、敵の戦闘力と比較しなければ、その実質的な大きさを判断することはできません。しかし、比較には定量的な尺度を設けて分析するという作業が必要です。しかし、これは簡単なことではありません。

戦闘力を定量的に分析することの難しさは、戦闘力を構成する要素が実に多岐にわたっているためです。戦闘は兵員だけで遂行されるわけではなく、多種多様な武器や装備が使用されます。指揮統制、情報通信、教育訓練、組織構造、士気・規律・団結など、直接的に観察することが難しい要因も戦闘力の発揮に大きく影響します。そのため、戦闘力の定量的分析ではWEI/WUVのように単純化された戦闘力の指数を使用することがあります。

WEI/WUVは、1974年にアメリカ陸軍の構想分析局が図上演習で利用に適した戦闘力を指数化するために考案されたものであり、個別の武器の価値を表す武器効率指数(Weapons Effectiveness Indicator, WEI)と、アメリカ陸軍の師団1個の戦闘力を基準にして算出する加重部隊価値(Weighted Unit Value, WUV)という二つの用語をまとめて表しています。WEIは、陸上戦で使用する武器のカテゴリー別に割り当てられた係数であり、具体的には小火器、装甲兵員輸送車、戦車、偵察車両、対戦車火器、火砲・ロケット弾、迫撃砲、ヘリコプター、地対空火器の9種類のカテゴリーが置かれ、それぞれの武器の性能に応じた係数が設けられています。例えば、1988年に行われた研究でアメリカ陸軍が保有する主力戦車M1のWEIは1.11、攻撃ヘリコプターのAH-64のWEIは1.77と見積られています。

WUVは、WEIを使って定量的に表現された部隊の戦闘力です。単純化のために、戦車だけで編成された部隊を想定しましょう。WUVでは戦車というカテゴリーに加重値として94というパラメーターが設定されています。つまり、WEIが1の150両の戦車が配備されているならば、WUVは14,100となります(150×1×94=14,100)。もし戦車の種類がM1である場合は、WEIは1.11に向上するので、WUVも上昇し、15,651となります(150×1.11×94=15,651)。本来、師団の編制は戦車だけで完結するものではなく、歩兵部隊が運用する小火器、迫撃砲、装甲兵員輸送車、砲兵部隊が運用する火砲・ロケット弾も考慮しなければなりません。詳細は省略しますが、アメリカの師団のWUVはおよそ122,312と見積られています。このような考え方でソ連の師団との相対戦闘力が評価されていました。

このような考え方は理論的にそれほど難しいものではなく、特にウォーゲームで利用する際に応用しやすいといえます。それだけに、軍事学では早くから理論的な欠陥があるモデルであることも認識されていました。先ほどWEI/WUVを使った研究が1988年に行われていると紹介しましたが、そこでもWEI/WUVは教育訓練、後方支援能力、あるいは武器相互の関連性など、戦闘の結果を決める可能性がある要因を無視していると指摘されています(詳細はU.S. Congressional Budget Office 1988: 16-18を参照)。実際、WEI/WUVの方法論を過去の戦史の分析にそのまま適用できないことが指摘されたこともあります。

さらに付け加えるならば、WEIの計算で使用する個別の武器に割り当てられた係数と、WUVの計算で使用するカテゴリー別の加重値は、ある時点において専門的判断に基づいて推計されたパラメーターであるという限界も認識されなければなりません。例えば、科学技術が進歩したことによって、これまでには見られなかった新しい種類の装備が陸上戦で重要性を増した場合、過去に妥当だったカテゴリー別の加重値が現実から著しく乖離する恐れがあります。今でもWEI/WUVの使用が途絶えたわけではなく、一部の研究者はWEI/WUVにどのような修正を加えれば妥当性を保証することができるのか検討を続けています。

参考文献

U.S. Congressional Budget Office. (1988). U.S. Ground Forces and the Conventional Balance in Europe, Washington, D.C.: U.S. Government Printing Office.

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