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新世代最恐怪談 ここに登場!『令和怪談集 恐の胎動』(クダマツヒロシ/著)著者コメント+試し読み(収録話「みんな仲良く」全文掲載)

「ネジのぶっ飛んだ大胆な怪異の連続! 最高!」――怪談家ぁみ

あらすじ・内容

新世代最恐怪談 ここに登場!
彗星のごとく現れた新世代が刻むはらわたが軋む恐怖!

・旅の途中で立ち寄った小さな寺での凄惨な体験「御厨子開帳」
・深夜残業中、タバコを吸おうと喫煙室入ろうとすると…「整列!」
・オフィスの椅子が座るたびに妙な音を立てる。そのおぞましい理由とは「豚の椅子」
・久しぶりに会う古い友人が連れていた女の奇妙な行動は…「モルダー先輩」
・親友の住む新しいマンションを訪ねたが、部屋の隅に妙なものを見つけて…「恐の胎動」
――など31話収録。
怪談家ぁみも絶賛、〈怪談マンスリーコンテスト〉にて平山賞・黒木賞のダブル受賞に輝いた書き手が研ぎすました筆を大胆に振るう!

著者コメント

この度有難いことに自身の初単著『令和怪談集 恐の胎動』が発売する運びとなりました。今回の執筆にあたり、何より独自色の強い怪談本になるようにと頭を捻らせ捻くり上がらせてまいりました。その甲斐もあってか極めて自由度の高い理想の形で本書を書き終えることができたのではないかと思います。とはいえ無事に発売まで辿り着けたのは多くの関係者のご尽力があってこそのこと。この場を借りて御礼申し上げます。多くの方の力を借りて産まれたこの子がどうか皆様に愛されますように。

クダマツヒロシより

試し読み

みんな仲良く

 その日、仕事を終えた房山さんが終電間際の駅のホームに降りると〈妙な団体〉を見つけた。
 最初に目についたのは、淡いピンクのシャツを着た小学校低学年くらいの女の子。
 壁を背にしてこちらを向いて立っている。
 その隣にはスーツを着た父親がおり、女の子を挟んで母親が同じく立っている。
 それぞれが女の子と片手をつないでいて、一見するとどこにでもいる普通の家族に見えた。
 しかし妙なことに、両脇に立つ父親と母親の隣にそれぞれもう一人ずついる。初老の白髪の男性と茶髪の女子高生。二人は父親と母親の外側に立ち、手を繋いでいる。なぜか一様に目を閉じて、苦しそうに眉間にシワを寄せているのがわかる。
 真ん中の女の子だけが、ときおり両脇に立つ四人の顔を覗き込んでいるようだった。
「家族にしては変でしょ。親族だとしても、みんなで手を繋いでるってあんまり見ないよ」
 親しい間柄であることには間違いないはずだが、関係性がわからない。
 変な組み合わせだな、と眺めているうちにホームへ到着した電車に遮られて見えなくなってしまった。電車に乗り込み窓からホームを覗いてみたが、そのときにはすでに移動したあとだったのか、いつの間にかいなくなっていた。
 その日以降、時間帯はバラバラだが決まった場所で必ずその〈妙な団体〉を見かけるようになった。
 相変わらず目的はわからない。けれど、いつも女の子を真ん中にしたその団体が目を閉じて手を繋いでいる。
 ある日いつものようにホームへ降り、何気なく視線を上げたとき、思わず「あっ」と声が洩れた。あの団体の中に見知った顔がある。
 金澤だ──。
 同じ会社で働く同僚の姿がそこにあった。
 横並びの端に立ち、女子高生と手を繋ぎ目を閉じて立っている。
「内心『あいつヘンな宗教にでも引っ掛かったんじゃねぇか?』って思ってね。まぁ同僚のよしみもあるし、一応忠告だけでもしてやったほうがいいのかなって」
 翌朝出社すると、既に仕事を始めている金澤の背中が見えたので声をかけた。
「金澤。お前、昨日駅で見かけたけど、何してたの?」
 房山さんを振り返りながら、なんだお前見てたのか、とでもいうように金澤が視線を上げる。
「みんな仲良く死ぬんだよ」
「……は?」
 死ぬ? 誰が?
 唐突に出てきた『死ぬ』という言葉に一瞬頭が追いつかなかった。
 何言ってるんだこいつは。
 無言のまま見つめる房山さんに、苛立ったように金澤がもう一度告げる。
「だからぁ! 仲良く死ぬんだって!」
 その日の夕方、金澤が会社を退職することになったと別の同僚から聞かされた。
 なんでも突然辞表を提出し「俺、明日から来ませんので」と平然と上司に言い放ったのだという。
 いくら理由を聞いても「選ばれたから」という、よくわからない答えしか返ってこなかったらしい。
 次の日宣言通り金澤は出社しなかった。
 正確にいえば、出社できなくなっていた。
 昨夜の最終近くの駅のホームで、通過する貨物列車に飛び込んだそうだ。
 遺書などの類は自宅からも見つからず、詳しい理由はわからずじまいである。
 しかし、今でも房山さんは駅で金澤を見かけることがある。
 あの妙な団体の中で、目を閉じ苦い顔をして手を繋いで立っている。
 女子高生と手を繋ぐ金澤の隣には若い男性がいる。その男性も同じように、苦しそうな顔で目を閉じ手を繋いでいる。
 相変わらず目的も意味もわからない。
 真ん中に立つ女の子だけが、彼らをときおり見上げては嬉しそうに笑うのだ。

―了―


著者紹介

クダマツヒロシ

兵庫県神戸市出身。黒目がち。
2021年から怪談を語る活動を開始。兄の影響でオカルトや怪談に興味を持ち、幼少期から現在に至るまで怪談蒐集をライフワークとしている。2023年、怪談マンスリーコンテスト「瞬殺怪談」企画にて、超短編部門で平山賞・黒木賞をダブル受賞。共著に『投稿 瞬殺怪談』など。