▼哲頭 ⇔ 綴美▲(7枚目とホッブズ)
(哲学を美で表現するとしたら?美を哲学で解釈するとしたら?そんな思いをコラムにしたくなった。自分の作品も含めた、哲学と美の関係を探究する試み。)
今日の1枚は、大学院の修士1年のころに描いた絵である。
絵の中の木は大きく力強い印象であるが、木の根元を見ると、それは地面ではない。フラスコのような入れ物の中から成長して現在のような大木になっているのである。
そしてフラスコの中にあるのは「パンゲア」である。パンゲアとは、ドイツの気象学者であるアルフレート・ロータル・ウェーゲナーが大陸移動説を主張したときに命名した分裂前の巨大な大陸のことである(絵の中の大陸は分裂し始めているので、厳密にはパンゲアの後の状態というべきだが)。
現在、地球は6つの大陸に分かれているが、もともとは一つであった。その「一つ」の大陸が、しだいに分かれていき、気候・植生・文化・言語・価値観は「多様化」していった。そうして「多様」であることが当たり前になった現在の世界は、かつての「一つ」であった時代のことよりも、現時点における個々の優劣や差異を意識して争っている。
現在、その争いの中で注目されているのがウクライナ情勢であるが、アフガニスタンやミャンマー、シリアなど、争いが起こっている場所は世界各地にある。どの場所に争いでも、自己を優先し、他者を排除しようとする意識が争いを深刻化・長期化させている。
Currently, the situation in Ukraine is drawing attention in the conflict, but there are places in the world where conflicts are occurring, such as Afghanistan, Myanmar, and Syria. Regardless of where the conflict is, the consciousness of prioritizing oneself and excluding others has exacerbated and prolonged the conflict.
そこにはイングランドの哲学者であるトマス・ホッブズが説いた「自己保存の欲求」が関係している。人間は理性や叡智を有する存在ではあるものの、本能的な部分を完全にコントロールできているわけではない。それゆえ、自己の生命または存在といったものが脅かされていると考えた場合、自己を守るための行動をとるわけであり、相互不信が高まっていればいるほど、その行動は過激化してしまう。そして理性や叡智というものは無力化されてしまう。そこでホッブズは、人々が持っている自由や権利といったものを権力者に譲渡する社会契約を結び、権力者の絶対的な力によって形成される秩序に服することが必要であると主張したわけである。
It involves the "desire of self-preservation" described by the English philosopher Thomas Hobbes. Although human beings have reason and wisdom, they do not have complete control over their instinctive parts. Therefore, if one thinks that one's life or existence is threatened, one takes action to protect oneself, and the higher the mutual distrust, the more radical the action becomes. And reason and wisdom are incapacitated. Hobbes argued that it was necessary to conclude a social contract to transfer the freedoms and rights that people had to those in power, and to submit to the order formed by the absolute power of those in power.
現代の国際社会には絶対的な権力者はいないが、ホッブズでいう「絶対的な力によって形成される秩序」の役割を、人間の理性や叡智に期待し、「世界は多様であるが、地球は1つ」であるという運命共同体の意識に担ってもらうことで、争いのない平和な世界を創ることができると私は考えている。
Although there is no absolute power in the modern international community, Hobbes expects the role of "order formed by absolute power" from human reason and wisdom, and "the world is diverse, but I believe that we can create a peaceful world without conflict by having the consciousness of the fateful community that "the earth is one".
私の絵でいえば、成長した木の枝や葉や花の部分には差異が見られるが、どの部分が優れているということではなく、一つとして欠かすことができない大切な部分として木を構成しているし、そもそも全ての部分は「一つ」のパンゲアから始まっているのである。
In my painting, there are differences in the branches, leaves and flowers of the grown tree, but it does not mean which part is superior, but the tree is an important part that is indispensable as one. It is composed, and all parts start with "one" Pangea in the first place.
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