エンターテインメント性ある採用にするポイント&テクニック~信頼できる柱が欲しい経営者のための『プロパーCHRO』の育て方Vol:14~
こんにちは。株式会社シンシア・ハート代表の堀内猛志(takenoko1220)です。
このシリーズでは、「信頼できる柱が欲しい経営者のための『プロパーCHRO』の育て方」と題して、50名から4000名まで成長した企業で、各ステージの人事組織戦略の遂行に人事役員として奔走した自身の経験をもとに、
▼人事トップになるために実行したこと
▼意識していたマインド
▼経営や現場とのコミュニケーションのtips
などをお伝えしていきます。私の経歴詳細は、以下の記事からご確認ください。
前回の記事は、本当に欲しい人材を採用するためにはどうしたらいいのか?という視点から、採用をマーケティング的に捉えてみました。採用活動全体に広くフォーカスした概論に近い話だったので、今回は、もう少し焦点を絞り、テクニック的な部分をお伝えしていこうと思っています。
採用と結婚の相似性~前回の振り返り~
前回のお話の中で、面接と恋愛のプロセスは似ていることをお話しました。少しずつお互いのことを知って、気持ちが動き、一緒にいるためにいろんなことのすり合わせを行っていく……という点で、面接と恋愛には共通点があります。
そして、最終的に「お互いのことを理解しあって、一緒に人生を過ごしましょう」というゴールを目指すという点で、採用と結婚も共通しているといえます。極論、個人と個人なのか、会社とか個人なのか、という差があるだけで、ストーリー展開としては一緒なわけです。
ところが、現実には、お互いを分かり合うための大切なプロセスをすっ飛ばして、自分本位で話を進めていってしまう企業が多くあります。自社にとって“本当に欲しい人材”を採用したいなら、まずは、求職者を第一に考えることに取り組んでみてほしい、というのが前回のまとめでした。
ドラマは1話じゃ終わらない
では、実際に「どうやって採用活動を進めればいいのか」ということを掘り下げてみましょう。ここでは、テレビドラマを例に挙げて考えてみます。
テレビドラマはおよそ10話で構成されており、毎週1回放送されます。当たり前の話ですが、1話目で物語のクライマックスまで話が進むことなんてあり得ませんよね。そこまでいかなくとも、1話目に内容を盛り込み過ぎてしまえば「よくある展開じゃん」「なんかオチまで読めちゃった」と、視聴者は離脱してしまいます。
あくまで、テレビドラマでは、最後まで見てもらうことが大事です。その目的を達成するために、1話目に求められるのは「2話目も見たい」と思ってもらうこと。のめり込むほど夢中になる状態まで持っていけなくとも「なんか続き気になるな」「他のドラマとはちょっと違うかも?」という程度の“掴み”ができれば十分です。
恋愛も同じで、初対面なら「まだこの人のことが好きかどうかわかんないけど、次も会いたいな」と思ってもらえることが重要。1回目のデートで結婚が決まることなんて、ほぼあり得ませんからね(笑)
採用というストーリー作りに必要なこと
人間は、感情が揺さぶられることが好きなので、ドラマと同じように、恋愛も採用も、ドキドキやハラハラ、ワクワクを感じられるようなエンターテインメントとして、演出していくことが大切です。
採用を一発で終わるつまらないストーリーにしないために、僕が意識してほしいと思っていることは、2つあります。順番を大切にすることと、飽きさせずに次へとつなげることです。
1.順番を大切に
面接のプロセスにおいては、お互いの理解を深めるために、双方の間にあるギャップを徐々に埋めていくことが必要になります。重ねてになりますが、一気にゴールを目指してはダメなので、次の5つのステップを意識してみてください。
STEP1:バイブスのギャップを埋める
ドラマや恋愛のたとえ話でもお伝えしたとおり、初回の面接の目標は「なんか合うな」と思ってもらうことです。そのために埋めるべきギャップは、バイブス。いわゆる「ノリ」です。
最近では、いきなり面接ではなく、カジュアル面談から始まる企業も多いですが、残念なことに、相手を見極める立場から、虎視眈々と厳しい目で見ている面接官もいます。そうではなく、自分から相手に歩み寄り、スピード感や空気感、話すトーンなどを相手に合わせることが大切です。ここに、カジュアル面談が上手い人と、下手な人の大きな差が表れます。
ちなみに、ノリが違うことを面白く感じる人もいますが、それだけでは長く関係性を続けることはできません。「友達どまり」ではなく「付き合う可能性アリ」な存在になることを意識してみてください。
STEP2:ビジョンのギャップを埋める
ビジョンとは、会社が目指す目的地のことで、パーパスやミッション/ビジョンともいいます。その目的地に向かって同じ船に乗り、オールを漕いでいくのが社員です。
ノリも合っていない人と、同じ目標に向かって一緒に頑張っていくのは厳しいので、最初にバイブスのギャップを埋めておきました。
でも、どんなにノリが合っていても、目指す場所が違ったら上手くいきませんよね。友達の時はうまくいったのに、、ってやつです。なので、事前に目的地を確認して、一緒にその場所までたどり着ける相手かどうかをお互いに見極めておくプロセスが必要です。
STEP3:戦略のギャップを埋める
目的地が一緒であっても、そこに行くための手段は複数あります。先ほどは船を例に出しましたが、もしかしたら電車やバスかもしれないし、飛行機かもしれないし、歩きたい人もいるかもしれません。
さらに、目的地は一緒でも、経由する場所が違う可能性もあります。目的地に直行したいのか、それとも、いろいろ経由してからたどり着きたいのか……。
一緒に目指したい場所に向かえるのか、そして、進み方も一致しているのかを確かめるのが、戦略のギャップを埋めることの意義です。
STEP4:役割のギャップを埋める
目的地と手段が合っていることが確認できたら、次は役割です。ある企業に入社するということは、単なるお客様として乗り物に乗るのではなく、乗組員の一人になることを指します。
乗組員は、それぞれ役割を担う必要があるので、会社としては何を任せたいのか、入社する人は何を任せてもらいたいと思っているのかを事前に確認し、ギャップがないようにしておきましょう。
STEP5:報酬のギャップを埋める
最後に残るのは報酬です。乗組員として役割を担うからには、成果に対する報酬が必要なので、頑張りに見合った報酬なのかどうかを確認し、お互いの間にあるギャップを埋めます。
なお、報酬には、金銭的なものだけでなく、経験、やりがい、成長、人脈作りといった非金銭的ものも含みます。仮に役割が厳しくても、金銭面・非金銭面を総合した報酬が見合っていればよいので、これを念頭に置いてギャップを埋めるようにしてください。
これらの5つのプロセスを順番に踏んでいくことで、両者の間にあったギャップが一つひとつクリアになり、整理されていくわけです。
TIPS:焦りは禁物
正直、1時間の面接で全部一気に確認することもできないわけではありません。チェックリストみたいなものを作って、お互いに記入して見せ合えば、簡単に確認することもできます。合理的に考えたらそうなるのかもしれませんが、そのやり方だと、お互い楽しくないですよね。
合理的かどうかよりも、楽しいかどうかという感情が先に来るのが人間なので、相手をドキドキワクワクさせられるような採用活動を意識してみてください。
2.飽きさせない工夫
記事の前半では、ドラマの1話目の目的は「次も見たい」と感じさせること、デートの1回目の目標は「次も会いたい」と思ってもらうことだとお伝えしました。
1回目の面接も、次を楽しみにしてもらうことが目標になるわけですが、ゴールにたどり着くまで、その目標は2回目、3回目……と続いていきます。面接と面接の間にはどうしても期間が空くので、いかに相手を飽きさせず、次につなげるかが重要です。
そのためのテクニックを3つお伝えしますので、ぜひ採用プロセスの中に取り入れてみてください。
前提:ツァイガニック効果を意識する
テクニックの前に、前提となる人間の心理についてお話しておきます。
実は、人間には、完結したものよりも、未完結のものの方が印象に残りやすいという心理があり、実験者の名前から「ツァイガルニク効果」や「ザイガルニック効果」と呼ばれています。
子どもに絵本を読み聞かせたとき、最後まで読み終わったグループよりも、途中で止めたグループの方がストーリーを覚えている、という実験結果がわかりやすい例です。「めでたしめでたし」で終わると忘れちゃうことも、続きが気になると、自分で続きを想像して、頭に残りやすくなるんですね。
求職者側は、並行して複数の企業の面接を受けることがほとんどです。当初は「この会社いいな」と思っていても、その3日後に他の会社で面接を受けて「めっちゃ良かった!」と上書きされてしまえば、負けてしまいます。自社が生き残るために、ツァイガルニク効果を前提にしつつ、次のテクニックを実践してみてください。
POINT1:「中途半端」で終わらせる
ドラマでもマンガでも、いいところで終わって「次回をお楽しみに!」という流れになることはよくあります。もちろん、視聴者や読者は「早く見たい!」となるわけですが、これは、面接でも使えるテクニックです。
たとえば、面接を受けている方から、「御社に入社した場合、キャリアはどうなるでしょうか」「もし内定をいただいた場合、私はどんな役割を任せていただけますか」など、気になっていることを質問されたとします。
ここで、親切に全部答えるのではなく、ある程度の回答は出しつつも「次の選考に進んだら、もっと具体的な話をできる者が面接するので、今日はここまでにしておきますね」と、詳細を先送りにしてみましょう。中途半端に止めるのは勇気がいりますが、相手に「気になる」と思ってもらえる可能性が高まります。
また、「次回面接を担当するのは、あなたと同じように未経験で入社した先輩ですよ」「あのプロジェクトに携わったときの話とかしてくれると思うから、楽しみにしていてください」という予告編を出すのも効果的です。
「もういいや」と、離脱することをいかに防ぐかが課題なので、中途半端な終わり方&楽しみな予告編で、相手の期待を高めることに取り組んでみましょう。
POINT2:すぐに内定を出さない
通常、面接は複数回行ないますが、まだプロセスが残っているのに、いいなと思った時点で「内定です!」とか「僕は一緒に働きたいと思ってるよ」と言ってしまう方は、結構います。
でも、それを言われた瞬間、相手はどうなるでしょうか。ドキドキのエクスペリエンスが失われて、結末がわかっているドラマのようになってしまうんです。「ほぼ確実に内定」という安心感はあるかもしれませんが、やっぱりつまらないですよね。
内定を出すまではいかなくとも、相手から「いつもフレンドリーでアットホームで、話しやすいです」みたいな言葉ばかり出てきたら、いったん緊張する場面を設けてみるという手法もあります。「内定決定だと思ってたけど違うんだ」と、簡単には越えられない壁を示すことで、相手の意欲をより引き出せることもありますよ。
POINT3:あえて予定調和を乱す
複数回の面接を行う場合、最初は人事担当者、次は部長、最後は役員・社長……という流れが一般的になっています。面接を受ける側もそれをわかっているので、「今回は部長だったから次は役員かな」と、予定調和的に進んでしまいがちです。
でも、展開が見え切っているストーリーは、やっぱり面白くありません。そこで、いきなり社長を登場させたり、実際は合格でも、不合格になる可能性を伝えてみたりと、相手が驚くようなことをしてみるのも一つのテクニックです。
続きはお楽しみ!
選考は真面目に行われるものという意識があるのは当たり前ですが、誰しも人間なので、楽しみにならないものは、他の楽しいものに負けてしまいます。そうならないためには、選考プロセスにもエンターテイメント性を持たせ、いかに楽しく進んでもらうかを考えることが欠かせません。
もちろん、入社してもらうためには、選考対象の方を楽しませるだけではなく、競合する企業に勝つことも必要です。そのためのテクニックもあるのですが……次回、詳しくお話したいと思います。乞うご期待!
より詳しい内容が知りたい、自社で戦略人事思考を持った人事責任者を採用したい、育てたいがうまくいかない、という経営者の方はご連絡をください。CHRO採用とCHRO開発を承っています。
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