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Photo by
mikitanishi3
ぽつぽつぽつと
1月某日
仕事始め。
月に一度ほどしか会わないHさんとふたりでカウンター当番の日。年末ばたばたと3人がいなくなったので急遽Hさんとふたり当番となった。
館内は朝からぽつぽつぽつと雨がコンクリに水玉模様を作るように埋まっていく。
「あのですねぇ」
囁くようなHさんの声が背中から聞こえる。
「わたし、実はですねぇ、、」
Hさんの小さな囁くようにぼそぼそ話す声をぽつぽつぽつと背中で聞く。カウンターの中だけ結界が張られているみたいに静かな感じがした。頷くことも否定することもできないまま「そうなんだ」と言う。Hさんはものすごく仕事ができる、そしてびっくりするくらい辛辣なことを言える人が、ぽつぽつぽつと小雨が降るように話して、中華丼のあんかけみたいなトロトロとした時間が流れている。
次、Hさんに会ったらお互い全く何にも知らなかった顔をして「久しぶり〜」と言い合うんだろうな。ずーっとずーっと年取って、仕事なんかもう辞めちゃって、お互いおばあさんになった時、Hさんと今日のことを笑って話したいなと思った。
やっぱりHさんは仕事ができる人なんだと本当に思った(が、私には無理だ)
夜 里芋とれんこんと豚肉を白く煮た、チンゲン菜を炒めた
煮物にはにんにくと五香粉(少し)をいれる。食べると遠くからスパイスの香りが追いかけてくる。台湾のフードコートで食べた記憶の中の汁物風。
猫はこたつの中から出てこない。
そっと布団をめくると猫と目が合う。「なんか用?」と言われた気がして、すぐに布団を戻す。
ライナスの毛布になって包ませて 蜜柑色した何くわぬ顔