「ハーフ」ってなんだろう? 読書感想文
「ハーフ」ってなんだろう? あなたと考えたいイメージと現実(著:下地ローレンス吉孝、平凡社、2021)
縁あってこの本を手に取った。
この本を読んで学んだことを一言であらわすと、
・あなたの「常識」を疑いなさい。
・あなたの「違和感」を信用しなさい。
です。
「自分のことは自分しか解決できない」という考えは、自己責任による強い正論に見えて実は危ういものだと思う。なぜなら、
だから。
僕はこの『はじめに』の時点でこの本にガツンとやられた。僕が言いたくてもどう言えばわからなかったことにこういう一文でどうですかと差し出されたからもう僕は嬉しかった。
インタビュー 野本らなさん・野本アブルさん より印象に残った声を。
「人が足りてないてんですかね、小学校って。」
p.9 らなさん
「人間は学ばないのかな、と思って。」
p.9 アブルさん
「差別を受けることに慣れていないし、普通でもないし、かりに自分がそうなったときのことを考えてほしいっていうか。自分にされてイヤなことは人にするなって言うじゃないですか、本当にそうだし。」
p.9 らなさん
「尊重ではないんだよね、もうちょっと理解してほしいっていうか。同じ人間なんだし、外見は違うけど、中身は変わんないんだからさ。自分の中の常識っていうのを信じすぎちゃってるのかな、そうすると、ほかの文化、多文化・多国籍の人を受け入れられないのかなっていう。」
p.9-10 らなさん
「学校ではハーフじゃない人ともめっちゃ仲良いですよ。打ち解けられない部分も、年をとるごとに減ってくと思うんですよ、実際減っていってるし。」
p.10 アブルさん
「ハーフの人が増えているのに、受け入れられないっていうのは……。」
p.10 アブルさん
「でもこれだけはお願いです。もう二度と同じことを繰り返さないで、絶対に差別はしないで。誹謗中傷を受けることはとてもつらいです。何度も何度も言葉のナイフで心を抉られ、もう元には戻りません。一度言われたことは今でもずっと覚えています。」
p.12 らなさんの作文より
……そうなんだよね。そうなんだね。とうなづくばかりでした。ではどうすればいいのだろう?
すごくわかりやすく社会と個人の関係について解説されている……これもまた僕が言葉にできなかったことを代弁してくれている気がします。
ガーン。「何人?」「日本人より日本人らしい」とか「◯◯人らしいね」などと今まで言ってしまっていた。それは精神的にも負担を強いる良くない言葉なのですね。以後慎みます……。
インタビュー記事の抜粋をしていく。実を言うとできることならこの本に載っている全員のインタビューを全文引用してご紹介したい気持ちではあるのですが。
各インタビュー内容で共通しているのは、いまだに教育のシステムがちゃんとなっていないんだということ。生徒も教師すらも問題であることがわかっていないことが多い。この現状をつくづく思い知らされました。
「特別なものとして見るのは、もう終わりにしてほしいなっていうのはすごく思います。」
p.51 インタビュー 川辺ナオミさん より
「カナダっていうことに対して、自分にとっては普通のことなんですけど、みんなうらやましい、って、大人たちもみんな言いますからね。(中略)そういうのすごい、まわりはプラスの意味で言ってるんでしょうけど、自分はすごくイヤでしたね。言われるたびに、ずっと飲み込んでましたね。「うらやましい」っていう言葉は、なんか線を引かれているような感じがしたんでしょうね。」
p.53 インタビュー 加藤圭介さん より
「NIKEのCMが話題になったときに記事を書きました。(中略)そこで、「差別がある/ない」で対立するよりも、体験とかを話して、こちら側の世界も見てもらうみたいな形のほうが建設的なんじゃないかなと思って。それで、自分の経験とか書いてみようと思ったのがきっかけでしたね。」
p.57 インタビュー 紗さん より
「これも差別の要素がありますけど、この前は、「メキシコ人はすぐ辞めるからね!」って言われたんですよ。そのときはキレずにがまんしたんですけど。こっちからしたら、もし辞めた人がいたなら、それはあなたたちに多様性の受け皿がなかっただけだよって言いたくなりますけど。結局、就活ではそういう年功序列のシステムがあるから、最終面接までは行けてもそのあとがっていうのはありますよね。」
p.60 インタビュー 入江晃樹アレハンドロさん より
うーん、よくわかる。反省しなければいけません。
よく考えたらこれって当たり前のことのはずなのに、気づかなかった……いや薄々気づいていたけどやっぱりちゃんとした言動として表現・表明するのはできなかった。
だからこれからはちゃんと考えながらいろんな人と接していこうと思う。
「「台湾いいなー、行きたい!」とポジティブな声もありました。けれど中学生あたりから、車椅子に乗っているなんてーー障害があってかわいそうーー、「ハーフ」ならバイリンガルでしょうーーしゃべれないなんてもったいないーー、台湾は中国の一部だよねーー話している言語は台湾語?ーーなど、主に大人からの(ある意味間違った)認識を耳にして、劣等感が植えつけられていきました。障害のある状態が自分にとっては当たり前で、だれからも教わっていないから中国語をしゃべれないのも当然だったのですが。障害がありモノリンガルであることはマイナスだ、との周囲のまなざしには苦痛を感じました。」
p.78 インタビュー 鈴倉佳代さん より
「小さいころから、いろいろ男女分けられてるのにも違和感あったし、制服も変だなと思ったし、そういう違和感はありましたね。「男らしく」「女らしく」とか。ジェンダーの話も、ハーフのことも、同じ人権の話ですよね。学校のルールも変われば、みんなにとって良くなるから。根本は人権ですよね。」
p.83-84 インタビュー 佐々木リアムさん より
「違うって認識されているのはわかるんですけど、私のアイデンティティは日本のほうが強いので「外人」じゃないよ!って思っていました。そうやって「日本人としての私」をずっと否定されつづけてきたので、もしかしてパキスタン人だからそうやって扱われるのかなって考えていた時期もありました。」
p.84 インタビュー カーン ハリーナさん より
「自分は、自分のことを「日本人」だと思ってて。それこそ日本にルーツがあるアメリカ人じゃなくて、アメリカにルーツがある日本人って思っているんですけど、でもやっぱり違うところにルーツがあるっていうのが、すごくイヤですね……。シンプルに。悪気がないのはもちろんわかってるんですけど……。」
p.88 インタビュー 山内里朱さん より
長めに引用しましたが、忘れてはいけない記憶として残したいと思います。こんな惨いことが、戦後にあったのです。もしK子さんが生きているなら現在70代くらい。
僕はここで先に引用した野本アブルさんの言葉を思い出す。
「人間は学ばないのかな、と思って。」
なんて悲しく悔しい「ハーフ」の戦後史の一篇だろう。
しかし、悲劇はとまらない。
この『記録』がとられた翌々年1957年の『記録』ではなんと今までに「問題はなかった」「今なかったとしても将来はあるかもしれない」と書かれてしまう。
その前年、前々年の『記録』では、小学1年生の子が自殺を考えたり、学校に通えなくなるほどの凄まじいいじめ、差別の実態が調査によって明らかになったのに。
今現在の問題に向き合わなかった政府。
将来いじめられたり差別されようが、自分で解決すべきだという「自己責任論」が見え隠れしているのだ。なんて恐ろしくそして愚かなんだろう……。
「「どこどこから来たか、っていうのと、名前をよろしくね」って言われて。おれはどこから来た人って言うべきなんだろう……って。結局、おれはブラジルって言うんですけど、「おまえ、絶対嘘だろ」って言われて。逆に、嘘でブラジルって言うやついないと思うんですけど(笑)。(中略)「ハーフ」の立場でも、なんていうんですかね、「純粋な◯◯人」と言えない立場でも、偏見持たれないような社会になったらいいなとは思いますね。」
p.129 インタビュー 杉本寛樹さん より
「母親の出身国であるフィリピンのイメージが悪くなっているのがイヤで、それが悩みです。ハーフっていうと、やっぱりみんながイメージするのって欧米の国だったりするじゃないですか。そういうのもムカつくなって子どもながらに思ってて。いろんなハーフがいるのに、なんで欧米のハーフはすごい良いイメージになっているのに、フィリピンとかアジアのハーフはダメなの? なんで悪いイメージになっちゃうんだろう、ってすごく疑問だったし、イラついてましたね。」
p.131 インタビュー 清水沙緒里さん より
「親は「在日です」って言い切れるけど、私ハーフで、お父さんはいないから、なんかその人のことを話したくもないし。でも、在日とも違うし、みたいな。どこに行ってもなんだか肩身
がせまくて。なんかストレスっていうか。だから、どこ行っても、「何人?」扱いだから。嘘つきたくないから、言っちゃったほうが楽なんだけど、そしたら私がその中で外れていくようになっちゃうから。」
p.134 インタビュー 朴知佐さん より
僕は「普通」という「特権」を持っている人なんだ、だからこそ差別に気づきにくかったのかと今更ながら目から鱗の気分だ。
思わずドキッとしてしまう話だ。
自分にもこういう発想はないと言い切れるか、あるいはなかったと言い切れるかと言うと、正直怪しい。社会にいると、いつも冷静にこういう発想はダメだと判断できているかが危うくなってくる自分がいる。
「うらやましい存在」「それでもいい経験もしてるんでしょ?」という言葉に思わずアッとなりました。自分もこういうこと思っていた……。
ここに書かれているような「目の前にいる人の人権を軽視・侵害しない、人権を尊重する、という態度」をとろうと思っても、この社会で否応なく生きる上で現実的にはなかなか難しい、と僕は正直思う。
この本でも書いてあることだが、「偏見が社会のあらゆるところに浸透していて、そこから簡単に逃れられる人はいない」のだから。
でもそういう態度をとることが求められているんだと僕がちゃんと意識していけば、そして周りもそういう意識を持ってくれれば、少しずつでもいい方向に変わっていけるんじゃないか、そう信じたい。
「うちの母親は完全にカラーブラインドネス派(人種を気にしない、人種は関係ないという意識や思想)だったんです。「あんなちゃんは、そのまんまで可愛いし、あなたはあなただし、ハーフとかミックスとかは関係ないし、人種なんて関係ないところでがんばっていけばいいんだよ」っていうのが彼女のメッセージだったんですけど。彼女なりの善意ですよね。
でもそれって結局良くなかったなっていうのを今振り返って思っていて。
(中略)
これって実は、各々が持っているこれまでの違う人生経験とか文化的背景っていうものをリスペクトしない、完全に否定する選択なので。それは聞こえはいいかもしれないけど、実はすごく、尊厳を傷つけている言動なんだよっていうのは思いますね。だって、同じじゃないですから。」
p.174-175 インタビュー あんなさん より
「たとえば学校のときは、自分のことを説明してくれる人がいなかったというか、ぜんぶ自分で説明しなきゃいけなかったので。こういう理由で、こうしてほしいんですってぜんぶ自分で言っていたので。先生に自分が説明して、先生がみんなに説明してくれたりとか、そういう機会があったら良かったんじゃないかなって思います。」
p.179 インタビュー バーヌさん より
「ルーツのどちらの国への帰属とか、アイデンティティって、一生悩むと思うんですよ。海外の人として生きていくと決めている人もいると思うんですけど、ずっとぶれている人もいると思います。ぶれていくと思うんですけど、ゆっくり、自分に似合うものを見つけて。あと、自分の中身を見てくれる人を見つけるのがいちばんだと思います。外見で判断されることがほかの人よりも多いと思うので。」
p.182-183 インタビュー 戸田紗季さん
「気分転換に散歩しようにも、外でも人に見られるからイヤで。過食症が始まったのも高校の中ごろからでした。たくさんお菓子を買っては食べ、それでストレスを解消するみたいな感じ。ひどかったな、今思うと。いちばん大変な時期でしたね。「生きてればいい」っていう言葉で、落ち着いて、いや落ち着いてはいないんですけど、まぁ1日1日をのらりくらりとやり過ごすので精一杯みたいな状態。死ぬ勇気はないけど、消えたいみたいな感じでしたね。黒い髪にして、黒いカラコンを入れたらまわりと馴染むんじゃないかとか、そうなるわけないんですけど、そんなことを考えたりもしましたね。」
p.184-185 インタビュー みちみちるさん より
第5章 メンタルヘルスについてどう向き合うといいの? より
blossom the project 中川ホフマン愛さん インタビュー より
「やっぱり精神疾患になるっていうのはいろいろな理由があると思うんですけど、環境に影響を受ける場合もあるので。たとえばこのレイシズムの問題に関しては、つねに自分のアイデンティティとともに生活しながら差別を受けたり……。(中略)
だから、差別をなくしたいのであればもちろんその差別が生まれる原因を見ないといけないけれど、それとともに、差別を受けている人をどのようにサポートするのかとか、その人たちのメンタルヘルスをどのように理解することができるのかというのがすごく大切だと思ったので。私の目標は、メンタルヘルスについて当たり前に話せるような社会をつくることなんですけど、それと同時に、社会問題とどう向き合うのか、ということもすごく大事なことなので、その両方を見ていくというのが、私の、ブロッサム・ザ・プロジェクトの情報が増えていった背景でもあります。」
p.195
「私が理解できないのは、私が発信していることって、基本的には「人権問題」なんですよ。国、国籍関係なく、これは人権の話なんですよ。でもそこで、まるで私がアメリカ寄りであるかのような反応がくるのが……。私はアメリカ寄りでも、日本寄りでもなく、人間寄りなんですよね。それがなかなかみんなに理解してもらえなくて。」
p.196
African Youth Meetup Japan 三浦アークさん 大塚エレナさん インタビュー より
「今までで、一番中学校がつらかった時期でした。同じ境遇の中学生に伝えたいのは、「自分が経験する違和感はぜんぶ信用してほしい」ということです。とくに、自分がマイノリティである環境にいると、自分が受ける差別の経験はまわりの人はなかなかしていない経験だから、相談に乗ってほしいときに、「センシティブすぎる」とか「そんなことないよ」とか言われてしまうこともあると思うのです。でも、その違和感はたしかにあるから、まわりからはそうやって言われても、自分を信じてほしいです。」
p.207 三浦アークさん
「小学校、中学校のときって、人と出会う場所が家と学校に限定されがちなので、そこに居場所がないと感じちゃうとどうしても疎外感とか孤立感が生まれてくると思うんですよね。やっぱりそういう経験が私たちにもあるし。「探せ」って言われて、探したり見つけられたりするものじゃないとも思うんだけど、どこかにあなたを受け入れてくれる場所は存在するから。そういう存在があるっていうことを信じるのは難しいかもしれないけど、それは頭の片隅に置いておいてほしいかなって、私は思います。」
p.208 大塚エレナさん
心理カウンセラー ラッシュ セリーナ萌さん インタビュー より
「なにかしらのマイノリティとして育った子は自己否定がすごく強くて、自己肯定感も低くて、その要因となっているのは社会の問題でもあって。ありのままの自分でいてはいけないという社会からのプレッシャーも強くて。ありのままの自分を見せると、嫌われたり、なにか言われちゃったり、面白がられたりとか……。まわりの期待に応えようとしたりだとか。ハーフの子だと外国人らしさを求められたり、日本人らしさを求められたりする中で……、私もそうだったんですけど、本当の自分がわかんなくなってきちゃう人も多くて。そのときそのときでカメレオンみたいに態度を買えたりとか、それが心の中で負担になったり悩みになってしまうから。」
p.211
「有名なスポーツ選手が自身のアカウントで発信したときもそのコメント欄には、「差別に負けないでがんばって」っていうコメントが多かったんですけど。でも、変えなきゃいけないのって、傷ついてる人のマインドじゃなくて、差別が起こってる現状なので。そこを変えない限り、何回も何回も、下の世代もどんどん同じ差別を受ける人が増えるので。トキシック・ポジティビティ(有害・有毒なポジティブさ)みたいな感じですかね。傷ついている個人がポジティブになれればそれでよいという話ではないと思うので。」
p.214-215 インタビュー 齊藤 花ジェニファーさん より
「日本国籍になったあとは、講師じゃなくて、教諭になりました。今自分としては、保健室の先生として、外国人の子どもが多いところで、クラスに馴染めなくてつらい思いしている子の話を聞いたりだとか、日本語がうまくできなくてもポルトガル語で相談を聞けるので、拠り所になるし、一つのモデルになるのかなって思っています。」
p.217 インタビュー 田村カエデさん より
この本も終わりに近くなってきた。
この読書感想文は、自分の意見よりも引用だらけだったけど、それだけ重要なことがたくさん書かれていた。
ただ、自分が大事だと思ったところを全ては引用しきれてはいない。そこはご容赦願いたい(というか全てを引用したらまるごと一冊引用しなければいけなくなってしまう。それぐらいの良書だった)。
著者は『おわりに』に伝えたい10の権利をまとめている。すごく重要だから是非最後まで一つ一つ読んでほしい。