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9月のカレーはフランス風に。

9月の昼下がり、僕は北浜のいつものスパイスカレー屋に足を運んでいた。 外の空気にはまだ夏の名残が漂っていて、湿気が肌にまとわりつく。 道を歩くと、緑が色あせ、木々の葉も少しずつその緑色を手放していくのがわかる。 秋の入り口だ。 店の前に立ち、無意識に少し大きく息を吸い込んでから、僕はドアを押した。小さな店内にドアが開く音が響く。

「いらっしゃいませ」

店主の彼女が僕に気づき、にっこりと笑った。彼女の笑顔にはやはり安心感がある。彼女は僕がここに来る理由のひとつだろう。いや、全部かもしれない。

「今日のカレーはラタトゥイユ・カレーですよ」と、彼女が言った。

「それをいただこうかな」と僕はカウンターの席に腰を下ろした。 店内には僕以外に客はいない。 静かな昼の時間だ。

彼女は手際よくカレーを盛りつけ、色とりどりの野菜が皿の上に美しく並んでいる。 トマト、ズッキーニ、ナス、そしてカレーのスパイスがふんわりと香りを放つ。それは秋の足音を感じさせる。

「ラタトゥイユとカレー、珍しい組み合わせですね」と僕が言うと、彼女はまた微笑んで答えた。 「そうなんです。 フランス料理のラタトゥイユとインドのカレー、ちょっと異文化の出会いですね。」

僕は、それもありだな、と思いつつ、

「フランスではラタトゥイユはどうやって食べるんですか?」と彼女に尋ねた。

「普通はパンとか、白ワインと一緒に楽しむことが多いですね。でも、日本にいるとつい、ご飯に合わせたくなってしまいます」と彼女は答えながら、さりげなくカウンターを拭き始めた。

「確かに。フランスでラタトゥイユカレーなんて、誰も想像しないかも知れませんね。でも、こうして食べてみると、妙にしっくり来ていて、美味しいです。」

「異文化の融合って、どこかのタイミングで自然とできるものなのかもしれないね」と彼女はカウンター越しに僕を見てゆっくりと言った。まるで、季節が夏から秋へゆっくりと変わるかのように

店の外では、風がほんの吹き始めた。 ガラス越しに見える街路樹が、その風に揺れている。 わたしはカレーを食べながら、その風景を眺めた。 ラタトゥイユとカレー、フランスとインド、そして北浜のこの小さなカレー屋の中で、すべてが不思議な調和を奏でている。

「ごちそうさまでした」と言いながら、僕は席を立っていた。

「またお待ちしてますね。次回はもっと秋っぽいメニューにしようっと。」と、にっこり笑いながら彼女は言った。

僕は彼女に軽く微笑んで、外に出た。外の空気は、秋の気配のせいか、店に入った時より少し涼しくなっていた。いつもの川沿いの歩道を歩きながら、ふと、ラタトゥイユとカレーとフランスのことを考えた。秋の気配漂う、セーヌ川のほとりを歩いているかのように。

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