#2 ”好きなことを仕事にする”ために青木真也が大事にしていることとは。
カレー活動家・タケナカリーと格闘家・青木真也の対談連載第2回です。
テーマは「遊ぶように仕事するって不安」について。第1回の対談の際に飛び出したこの発言の真意に迫ります。
本日のカレー
2回目のカレーはタケナカリー作。夏野菜とヨーグルトのやさしいカレーです。
オクラ、トマト、じゃがいも、さらには「トロなす」という加熱するととろけるように柔らかいなすを使用。日本では珍しいグンドゥチリで香りづけもしています。
格闘技選手は、生き方。お金が欲しいだけなら、違う職業に就いたほうがいい
タケナカリー:前回「遊ぶように仕事するって不安」というお話が出ました。
青木さんはご自身の法人「株式会社青木ファミリー」の代表でもあるわけですが、マネージメントや試合交渉まで基本は自分一人でこなされている点と、歯に衣着せぬSNSも相まって非常に自由奔放な人というイメージを世間は持っていると思います。
正直、青木さんにしては意外な心象。不安になることがあるってことですよね?
青木:不安は常にありますよね。路頭に迷ったらどうしよう、って。この20年間ありますよ。
タケナカリー:就職してみたいとかって考えたことはあります?
青木:無理だって観念してるかな。9〜17時で働けないんですよね。
それは格闘選手として、成り立ってしまったことが証明してる。そういうことができないから、格闘技を続けるしかない。
もし決められた時間でサラリーマン的な働き方ができるんだったら、もっと早くしてたと思いますよ。
タケナカリー:そうかー。なるべくしてなっちゃってる。格闘技選手は、そういう人が多いかもしれないですね。
青木:格闘技選手を見てると、退屈しないっすよ。みんな楽しそう。めちゃくちゃ楽しいと思う。
タケナカリー:その幸せはあるでしょうね。
作品至上主義なところと、あくまで人生を楽しく生きるっていうのと、近いようで違うじゃないですか。
青木さんて、どっち側なんだろうって。
青木:僕は何か作って格闘技やって、どうだ!っていうものを人前に出して、人から喜んでもらったり面白いって言われたりするのがうれしいんです。
それが豊かな基準。だから世に出る仕事や文章を書く仕事は、それが欲しくてやってるんです。
タケナカリー:名声とは違いますよね。
青木:お金がもらえるかだけを考えたら、他のことをやるし、やったほうがいいと思う。格闘技選手って、生き方だから。生き方を売ってる。
“好きなことを好きなようにやる”にも、コンディショニングが大事
タケナカリー:青木さんは休みをしっかり取るタイプですよね?
青木:最近、プロレスで地方に行くことが増えたから、その前後に上手く休むようになりました。融通が利くようになりましたね。じゃないと、体も追いつかないから。
タケナカリー:それは年齢的なものですか? それとも経験?
青木:年齢的なもの。移動のストレスもあるし、働ける量が全然違う。
タケナカリー:その分、デスクワークに使える時間が長くなってるのかな?と思いました。
青木:と思いきや、デスクワークすらも出てこなくなる。疲れてるときこそ、頭のスタミナがないとダメだね。
タケナカリー:確かにな。僕も年々、集中力が続かなくなってる気がします。そういうときは、無理に続けようとせず一旦止めちゃいますね。
青木:そうなの、もうできないじゃないですか。それを年々感じてるし、練習の量も抜群に減ったね。
タケナカリー:今だと1日どれくらいの練習量なんですか?
青木:1時間とか1時間半くらい。一番やってたときの1/3くらいだと思う。
だって昔はグラップリングのスパーリングを1日5分×25本、プラス打撃とかやってたからね。今は6〜7本。
これはもう概念として明確に言ってるんですけど、練習はコンディショニングなんですよ。
タケナカリー:鍛えるっていう感覚じゃないんだ!
青木:コンディショニング。だから今は、山を作れない。
昔なら試合前にボロボロになるまで追い込んでも、試合当日に戻ってくる自信もあった。今は戻ってくる自信がないから、その博打を打てない。
カール・ゴッチが「レスラーはコンディションだ」って言ってるけど、仰る通り。体をデカくするとか、そういうトレーニングすらしないです。
タケナカリー:その話を聞いて歌手でダンサーの三浦大知さんを思い出しました。三浦さんって、筋トレしないらしいんですよ。
「筋トレしすぎると声が出づらくなる。自分が使う筋肉は歌って踊るときに使う筋肉だから、現場でできる『現場筋』だけ」というようなことをお話されてたんですよね。
青木:なんとなくわかる。筋トレでいうと、トレーナーとかギャアギャア言ってくるけど、最終的にはコンディショニングですよ。
技術って、型みたいになってくる。相手からの型に対して、自分はどうするか。テトリスみたいな。ブロック崩しになってくる。
タケナカリー:練習は年齢と共に変わっていったんですね。
青木:「青木さん真面目ですね、練習よくやってますね」とか言われるけど、それもコンディショニングの一つ。
グッドパフォーマンスでできる本数も決まっちゃってるので、いいセッションする相手は正直よりすぐりたい。だから、それができない練習相手には、僕は感情をあらわにしますよ。「なんで僕の大事な時間をお前は奪うの?」って。
練習って、お互いを高め合うもの。100出して100出してもらう。開き直って、試合前はあえて合わない奴とやることもありますけどね。
タケナカリー:好きを仕事にしているからこそ、考えることかもしれませんね。
青木:“好きを仕事にする”って全然楽なことじゃないからね。
これはYouTubeが2014年頃に出した「好きなことで、生きていく」って広告が悪いですよ。
好きを仕事にするほうが大変。好きなことを好きなようにやってると、社会的にダメな人なんじゃないかって、自戒するし。
“好きを仕事に”って言ってて好きなことをしてる奴はいるけど“好きなことを好きなようにやる”奴はなかなかいないよね。
タケナカリー:本当にその通りだと思います。好きなものが嫌いになっちゃう人って多いですもんね。“好きなことを好きなようにやる”って自分の居場所みたいなものを構造的にメタ認知してないとできない気がする。
青木:だから僕は“好きなことを好きなようにやる”ってことを凄く考えてますよ。
タケナカリー:これは大きなテーマですね。
青木:この前、解説の仕事で計量オーバーした日本人選手に関して「青木さん、こんな感じでフォローのコメントしてね」と言われて「わかりました〜!」って言ったんだけど、指示してきた人の言う通りにはできないよね(笑)。
僕がそこでフォローのコメントをしたら、僕が失うものがある。このことで仕事が減ってもいいから、俺は俺を守った。
ちょっと話が飛ぶんだけど、YouTubeが出てきてPPV(ペイ・パー・ビュー)を売ることや数字を上げることに注力した結果、自分を捨てでても、自分の思想や信念と反してでも、数字を取りにいく傾向が多いなと感じます。
文化を作っていく作業より、文化を燃やして数字を作る作業に注力してる。僕はその流れは否定しないけど、自衛が大事だと思ってるんですよね。じゃないと、食われていく。自らそっちにいかない自衛。WEBもPV至上主義って無くならないじゃん。
タケナカリー:広告モデルがある限りね。
青木:ね。そうなんですよ。それは観念した上で、そこと違う軸を自分は持ってないと。そっちにいきすぎると消費されていって、食われちゃうと思うんですよ。
結局好きなことを仕事にして生きていくこと=自衛していくことですよね。目先の利益に惑わされず、自分の本望を自衛することが大事な気がする。
タケナカリー:自衛っていうのはキーワードですね。青木さんって、どんな風に自衛してるんですか?
青木:最近は“風”を読んでいて。危ないなと思ったら、過去に似たような事例がないかとか調べてる。
朝倉未来VSメイウェザーもみんなワーワー言ってるじゃん。でもあんなのってアメリカで答え出てて。
メイウェザーってYouTuberのジェイク・ポールとかとやって、その後もいろんな人と4回くらいやってるんだけど、どんどん数字が落ちてるんですよ。コンテンツとして、消費がめちゃくちゃ早い。
彼らは火柱あげて集客利益を取りに行ってるけど、僕はそれやっちゃうと、僕がやりたい格闘技ができなくなっちゃうから。すごい露骨に距離を取ってます。
惑わされていくと飽きるんで、人は。
「飽き」との対決だから。
タケナカリー:ということは、つまり、青木さんは“人に飽きられないように”っていう感覚はないんですね?
青木:ですね。消費されないようにということだけ。
例えばカレー屋でも、作るものや提供する量は店側がコントロールする。じゃないと飽きられるじゃないですか。勘違いしていくし。
タケナカリー:“勘違いしていく”は、めちゃくちゃありますね。
青木:めちゃくちゃ怖い。飲食店とか、まさにそうだと思います。客が強いじゃないですか。でも僕は今後、それが逆転していくと思いますけどね。
だからカレー屋は『プンジェ』が好きなんですよ。休むし値段すらも変動するじゃないですか。けど提供しているものが強いから、絶対にお客さんは来る。
タケナカリー:強気っていうのとも違うんですよね。
青木:自分軸をブラさない。
タケナカリー:“自分がこれをやりたいんです”っていうのは感じますよね。食べててもわかるもんな、そういうカレーって。
これは飲食業界の話なんですけど。最近、食べログのレビューが役立たなくなってきたなと感じてて。
平均化している店の点数が妙に高くて、青木さんの言葉でいうと“消費されないことを頑張ってる”そんな人たちの店が、なかなか点数が上がらない現象が起きてるなと。
そうなると、結局、信憑性がないメディアになってしまうなと思ってるんですよね。
青木:それは作る側の多くが、8割を“当てに行ってる”ってことですよね。
例えば、ここにいる全員から美味しいと思ってもらえるようなものを目指してる。だけど本来の作り手ってそうじゃなくて「うま!」 「まず!」とか、振れないとダメ。賛否が分かれるものを時代的に作れなくなってるっていうのは、あると思うけど。
僕が作り手側として何か作るときは、そういう時代的な流れは無視。
振る!たまに思い切り外すこともあるけど。歴史的に見て、格闘技界でも振ってる人が生き残ってますから。
ガリガリ君のナポリタン味、コーンポタージュ味、シチュー味とかもそうですよね。大事なのは、ガリガリ君マインドなんですよ。
タケナカリー:まれにちゃんと外してしまうけど(笑)。
青木:そういう姿勢が大切。堅実にヒットを出し続けたら、信頼は得られないと思うんですよ。
タケナカリー:奇を衒ってるってわけじゃないんですよね。
青木:振ってるんですよ。どうだ!っていうのが大切。当てに行く作業が必要なのは、チェーン店とかですよね。
青木真也として生きていく。それを失うことは最大のリスク
タケナカリー:青木さんて、プライベートと仕事って区別している瞬間あるんですか?
青木:プライベートは、公私混沌としていますね。
タケナカリー:公私混沌(笑)
青木:混ざり合ってはいないんですよ。言われりゃこれも仕事か〜みたいな。
タケナカリー:そういう感じだとスケジュールの組み方が難しかったりしません?予定が入るのが嫌な人っているじゃないですか。青木さんもそんなタイプかな?とか思うときがありんですけど、どうでしょう?
青木:それはないかな。スケジューリングのストレスはめっちゃありますけどね。それでみんなマネージャー入れたりするんだろうし。
タケナカリー:青木さんは昔からマネージャーを入れるつもりが無いですよね。
青木:ないっすね。格闘技業界のマネージメントしてる人を見てて、この人だったら預けようって人があんまりいないかも。みんな癖あるな〜って(笑)。
タケナカリー:癖の強い人が多そう(笑)それにと「忙しい」をちゃんと自分でコントロールできてるのがいいのかもしれませんね。忙しいって疲れるけど、不安は減りますしね。
青木:「忙しい=薬」みたいなもんですからね。
タケナカリー:でも、勝手な印象ですけど、格闘技選手って意外とメンタルやられる人が多い気がします。「忙しさ」と「格闘技」を両立させるの大変ですよね。
青木:そうですね。だから自分は良くも悪くも逃げるのが上手いから、格闘技をやってる人とは絡まない(笑)
それに僕はよく「メンタル強いな」って言ってもらうんですけど、そんな特別なことでもないと思います。大体のことは、なんとかすれば自分で解決できるじゃないですか。殺されるわけじゃないし。
それよりも人間生きてきて、一番面倒なのは人間関係のストレスですよ。みんな気をつけたほうがいいですよ。奥さんや彼女は、旦那や彼氏を無言で追い詰めたりしない方がいい(笑)。そう思いません? いろんな結婚してる選手見てるけど、やっぱり格闘技をやってるときが一番楽しそうだもんね。
タケナカリー:わかる気もします(笑)マジレスですけど、何かに夢中になれてるから、何かを忘れられるってすごく幸せなことですよね。
青木:そういうものはあった方がいいですよね。結婚したときも、これだけは見失っちゃダメだって思ったもん。青木真也で生きてくことを失うことが、一番のリスク。
タケナカリー:青木さんて仲が悪くなっちゃう人がいても、その人のことをずっと嫌いになることってないですよね。あれすごいなって、毎回思うんですよ。
青木:あんまり気にしないですよね。「嫌いだから仕事しない」っていう人がいるけど、好き嫌いで仕事するとおもしろくないから。
タケナカリー:その人の一部分しか見てないわけじゃないんですよね。青木さんて好き嫌いが多そうに見えて、好き嫌いで仕事を選んでないなって。
青木:「青木と喋りたくない」って格闘技選手はいるけど、僕はみんなOK。誰でもきたら「俺が成立させて形にしてやるよ」っていう。嫌いな人と絡むのも学びタイムだし。
「アイツとはおもしろくなんないからやんねーよ」っていうのはありますけどね。「おもしろくなるならやろうよ!」って思う。嫌いでもいいじゃないですか。罵詈雑言をぶつけ合うのもコンテンツとしていいと思いますけどね。
タケナカリー:思想が違うのも、実は大事だったりしますもんね。次回は「嫌いな人との仕事術」について話し合いましょう!
〈文 橋本範子〉