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【歴史本の山を崩せ#038】『日本のいちばん長い日 決定版』半藤一利

≪終戦ドキュメンタリーの定番書≫

オリジナル版の初版は1965年。
当初は営業上の理由からジャーナリスト・大宅壮一の名義で出されたもの。
後に名義を本来の半藤一利に戻し、補訂・改訂を施した決定版が、現在、文春文庫に入っているものです。
この本を原案として1967年と2015年に映画化もされました。

時は太平洋戦争最末期。
聖断によって降伏が決定された1945年8月14日正午から、玉音放送がなされれる翌15日の正午までの24時間を1時間ごとに区切って描いたドキュメンタリーです。
降伏が決定したからといって、即時に戦争を終結させることができるわけではない。
昭和天皇が『昭和天皇独白録』などでも証言しているように徹底抗戦を叫ぶ軍の強硬派がクーデターを起こす危険がつきまとっていた。
この24時間の間に、その危惧が現実のものとなりかけたのです。
一部の陸軍将校が近衛兵団を掌握し、天皇の座する宮城を占拠しかけた…宮城事件の顛末がこの本のクライマックス。
結果として失敗したものの、もしこのクーデターが成功していたら日本は、負けることすらできなくなり、文字通り一億総玉砕に向けて邁進していたかもしれません。

当時の日本は降伏するにも綱渡りな状況にあったことはもっと知られてもよいと思います。
「日本はもっと早く降伏すればよかった」などという意見は、当事者でもない歴史の結果だけを知っている人間だからこそ言える傲慢な態度かもしれません。

この本は史料に基づかない歴史小説の要素が多分に含まれており、純粋な歴史研究書とはいえないですが、長年、昭和史の研究してきた筆者の筆力から描き出される臨場感は、当時の様子を知る上で参考になります。
故に私は歴史書ではなく、終戦ドキュメンタリーと呼びます。
とはいえ、半藤一利の業績は大きいと思っていますし、氏の歴史に対する真摯な姿勢は尊敬しています。
あくまでも歴史の記述・叙述スタイルに対する区別です。
ジャック・バウアーの『24』のように24時間を1時間ごとに追体験していくスタイルは読み物として抜群に面白いです。

2015年の映画化の際に柱となった半藤一利『聖断』、角田房子『一死、大罪を謝す』や、迫水久常『大日本帝国最後の四か月』もあわせて読むのがおすすめです。
本書の主要人物である昭和天皇と鈴木貫太郎首相は『聖断』、阿南惟幾陸相は『一死、大罪を謝す』でより深掘りできます。
迫水久常の『大日本帝国最後の四か月』は書記官長(現在の官房長官に相当)として当時を回顧した一次史料です。
どれも文庫本で読むことができるのはありがたいですね。

『日本のいちばん長い日 決定版』
著者:半藤一利
出版:文藝春秋(文春文庫)
初版:2006年
価格:700円+税

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