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フレームワークを活用したマーケティング戦略の描き方を解説します!

昨今、「マーケティング」という言葉がインフレしていてその実態は一層掴みにくいものになっています。「マーケティング」の知名度が向上するにつれ、取り組みを始めようとする企業も増えています。しかし、もともと抽象的で、定義が多岐にわたるマーケティングが一層わかりにくくなっているのも現実です。
この記事では、私がマーケティング支援を行う中で形成してきたノウハウをまとめてみようと思います。主に、思考を整理するためのフレームワークを思考の順に沿って、その使い方を紹介していきます。
本記事で紹介するステップは、本来は単純な一方通行で行うものではなく、行ったり来たりしながら行うのですが、極力単純化して順番に作業ができるようにしています。そのため、「なんか順番が気持ち悪いな」と思うところがあるかもしれませんが、ご容赦ください。

記事の最後に、実践で使えるワークシート集を配布しています。ぜひ、ご自身のビジネスでご活用ください。

私が何者か、という点については下記参照ください。
一年半前くらいの記事ですが。。。

戦略立案のロードマップ

まず最初に、戦略立案に至るまでの道順を俯瞰してみましょう。思考の順序と利用するフレームワークは下図のようになります。

弊社では全5回のワークショップを通して戦略を考えるというコンサルティングを行なっています。

まずは、現状の整理と目標を設定します。その後自社を取り巻く環境を整理します。
ここからがマーケティング戦略を練るフェーズになります。最初に、誰の、どんなニーズに答えるか(WHO)を検討し、次にどんな価値を提供するか(WHAT)を定め、最後にどう伝えるか(HOW)を考えて行動計画を立てていきます。
以上の流れを全部で15のフレームワークを用いて検討していきます。では、それぞれを細かくみていきましょう。

1.現状の確認と目標設定

ここでは、自分たちの事業の幹となる部分を再確認し、これからどこを目指していくのかという目標を設定していきます。

1-1.MVVの確認

一番最初にするべきは、MVV(Mission・Vision・Value)の確認です。私はこれらを戦略上位概念と呼んでいます。MVVは言い換えると経営理念であり、事業における全ての事柄に通すべき道筋です。というのも、事業における戦略の構造は下図のようになっています。

MVVで事業の目指すべき方向、ドメイン、判断基準を明確にします。それらを実現するために持てるリソース(ヒト・モノ・カネ・情報)をどう配分するかを決めるのが経営戦略。経営戦略の主語を顧客にして売れる仕組みを作るのがマーケティング戦略。そして、マーケティング戦略で打ち出した方針をどうやって顧客に伝えるのかを考えるのがコミュニケーション戦略です。
つまり、全ての戦略における土台であり、出発点になるのがMVVなのです。

Mission
Missionは、その事業を行なっている、あるいはこれからも継続していくことの意義・目的を表現します。「なぜその事業を行うのか」という根源的な問いに対する答えです。創業時の思いや決意などが基になるはずです。ですから、Missionは事業を継続する限り、滅多に変わるものではありません。
また、同時にMissionは戦う土俵=事業ドメインを規定します。自分達がどの土俵で戦っていくのかを明確にすることも重要です。

Vision
Visionは、5年・10年といった中長期的なスパンで目指すものを表現します。事業を行う先に見据えるものであり、到達目標です。自社のなりたい姿や、自社の事業が貢献した社会を描く青写真です。
5年後10年後という、比較的近い将来を描くため、具体的な方が好ましいです。この目標を組織で共有し、事業を遂行していくので、誤解なく全ての人が同じ目標を見据えられるようにすることがポイントです。

Value
Valueでは組織で共有する価値観を掲げます。この価値観はVisionの実現のために「今何をするべきか」を表します。行動基準と言い換えることもできますね。業務上判断に迷う時に立ち返るべきものになります。Valueを積み上げることで、Visionが実現できる。そういった意味合いを持ちます。

ワークシート1「MVV」

1-2.目標の確認

MVVを確認することで、目的が明確になりました。目的が決まれば、次は目標設定です。
ここで言う目的は最終的なゴールであるのに対し、目標は目的達成までのマイルストーンや指標のことを指します。この目標を明確にするために使うのがAs is / To be分析と言うフレームワークです。このワークでは下図に示したワークシートを埋めていきます。

ワークシート2「As is / To be分析」

まず、「目指す姿」を書き込んでいきます。ここでは、事業としてあるべき理想の姿を思い描きます。例えば、売上〇〇万円ですとか、店舗数◯軒、従業員数○人、利益率○%などです。Visionとは違い直近の1〜2年で成したい目標になります。もっというと、この後に設計していくマーケティング戦略で達成したい目標です。
次に、理想に対し、現在の状況を整理していきます。
目指す姿に対する定量的な情報だけでなく、どうしてそうなのかといった定性的な情報も書き込むと、より効果的な現状把握ができます。
現状と目指す姿に書き込んだ内容を見比べて、現在の到達度がどのくらいなのかを把握しておきましょう。

さて、ここで現状の課題と直近で目指したい姿を確認したら、その中で優先的に解決すべき事柄とその評価指標を検討しKGI(Key Goal Indicator)を設定します。Indicatorというくらいなので数字で管理できるものを設定します。

2.環境分析

さぁ、目的と目標を確認することができたらいよいよマーケティングらしくなっていきます。マーケティング戦略全体を俯瞰するフレームワークがAB3C分析です。通常の3C分析に加えて、競合に対するアドバンテージ、顧客へ提供するベネフィットを加えたものです。戦略フェーズではこのフレームワークの完成を目指します。私の場合、3つのCを分析する順番は、顧客(Customer)→競合(Competitor)→自社(Company)です。
このAB3Cで書き込む内容は自社のマーケティング戦略の前提条件になるので、迷った時などはこの分析に立ち帰ってくることで、戦略に一貫性を持たせることができるので、とても重要なフレームワークになります。

ワークシート3「AB3C分析」

2-1.顧客分析

ということで、まずは顧客分析です。細かなターゲット設定は次のステップで行うので、ここでは市場にどんな顧客がいるのかを分析します。主に、どんなニーズがあるのかという視点で考えると後の作業が行いやすいです。
ニーズを考えるときは、現在の製品や状況に対して、顧客はどんな不便・不満・不足・不安を抱えているかを考えるのが有用です。
チョコレート菓子で例えると、「一回で食べ切るには多いのだけど、とっておくには忍びない量が残る」(不便)とかですね。
それと同時に、買いたいけど買わない理由=心理的なハードルも検討します。例えば、商材がチョコレート菓子であれば「ダイエット中だから」「嗜好品に回すお小遣いがないから」と言ったような感じですね。

2-2.競合分析

ここでは、まず競合を定めます。競合は同業種や同種製品だけではありません。同じニーズを満たす=代替品も含まれます。ですので、競合を考える際はニーズやユーザーのリソースをベースに考えるといいと思います。
幾つか例を下記します。

・ニーズを起点に考えた場合
ハーゲンダッツの競合●
ハーゲンダッツの競合を考えてみましょう。同種商品で考えると、バスキン・ロビンス(31アイスクリーム)や、レディー・ボーデンなどが挙げられます。しかし、ハーゲンダッツはこれらを競合とはしていません。彼らが想定する競合は「プレミアムモルツ」なのだそうです。「自宅できるプチ贅沢」というニーズを満たすという点で競合しているからなのだそうです。

●ファストフード店の競合●
例として、マクドナルドの競合を考えてみましょう。モス・バーガー、バーガーキング、ロッテリア、ケンタッキーなど同じようなファストフード店を想像する人が多いと思います。しかし、彼らの競合はそれだけではありません。顧客が「手軽に空腹を満たすこと」を求めているならば、コンビニのおにぎりや吉野家の牛丼が競合するかもしれません。「友達と会話するスペース」を求めているのであれば、スターバックスなどのカフェや、商業施設のフードコートなどが競合に類いするかもしれませんね。

・ユーザーのリソースを起点に考えた場合
●Netflixの競合●
動画配信サービスのNetflixの競合を考えてみましょう。直接競合するのは、HuluやPrimeVideo、YouTubeあたりでしょうか。これを、ユーザーの可処分時間を奪い合うという視点で競合を定めたのが、Netflixの共同創設者であるリード・ヘイスティングス氏です。彼は、「我々の最大のライバルは睡眠だ」と語っています。

●旅行代理店の競合●
では、旅行代理店の場合はどうでしょう。直接競合として考えられるのは、同業他社以外にも、じゃらんやトリバゴなどのネットサービスも考えられますね。ただ、旅行代理店の繁忙期はいつでしょう?まとまった休みが取れる夏季休暇前が想定されますね。ではユーザーは何を旅行代金の原資にするでしょう。そう、賞与(ボーナス)です。それで、そのボーナスを奪い合うという視点で考えると、大型家電やリフォームなどが考えられます。

2-3.自社分析

自社分析では自社の強み・弱みを洗い出しながら、自社だからこそ満たせるユーザーニーズはないか、競合に勝てる部分はないかなどを検討していきます。
同時に、自社の強みを活かせるような外部環境の変化はないか、自社にとってリスクのある外部環境の変化は起きていないかと言ったことも同時に考察していきます。
そのために使うのがSWOT分析というフレームワークです。

ワークシート4「SWOT分析」

機械や脅威という外部環境を整理する上で役に立つのがPEST分析です。世の中の動きを政治・経済・社会・技術という4つの側面で分類する手法です。
PEST分析を行う際に重要なことは、自社に影響がありそうな世の中の動きを把握しているかという点なので、どのカテゴリに振るかはそこまで気にしなくてもいいです。
例えば、「消費税増税」という動きがあったとして、それは政治的要因なのか経済的要因なのか。と言った具合に悩むと思います。結論、どちらでもよいというのが私のスタンスです。ここでカテゴリの正確性にこだわるよりも、それは自社にとって逆風なのか追い風なのかを考察する方が有用です。
PEST分析で見つけた外部環境を、機会・脅威に振り分けて書き込んでいきます。その後、機会・脅威を考慮しながら、強み弱みを書き込みます。

ここで、AB3C分析に立ち帰ります。

ワークシート3「AB3C分析」

基本の3Cが埋まりました。顧客のニーズ、競合の強みと提供価値、自社の強みと弱みが書き込まれた状態になっていると思います。
競合と自社の欄に書き込まれた内容を比較しながら、競合に対して優位性を保てる強みをAdvantegeに書き込みましょう。
Benefitについては後ほど検討するので、とりあえず置いておきます。

3.ターゲット選定

さぁ、ここからいよいよマーケティング戦略の設計に入っていきます。
マーケティング戦略の基本は「誰に(WHO)」「何を(WHAT)」「どうやって(HOW)」届けるかを検討することです。まずは、誰に届けるかを考えていきましょう。

3-1.セグメンテーション

「誰に」を検討する上で、最初に行うのがSTP分析に含まれるセグメンテーションです。セグメンテーションでは、市場に存在するニーズを汲み上げ、MECEに(漏れなく、ダブりなく)切り分ける作業です。
セグメンテーションをする上で、重要な点が二つあります。
まず一つ目は、市場を切り分けることだけ考えて行うことです。どういうことかというと、セグメンテーションを行う際、次のステップの「ターゲティング」を意識しすぎてしまうことがあります。ターゲティングを意識しすぎると、視野狭窄が起こり、本来あるはずのニーズを見落とすことがあります。ですので、ターゲティングのことは考えずに、まずはどんなニーズが市場にあるのかを考えることが先決です。
そして二つ目は、必ずニーズ起点で考えることです。市場を切り分ける際のヒントとしてデモグラフィックデータを用いることはありますが、それのみで市場をセグメントするのはお勧めできません。例えば、20代男性・20代女性・30代男性・30代女性・・・とセグメントした場合、実は男女差でニーズの違いが見られないなんてことが起こり得ます。

例を挙げてみましょう。フォトグラファーを想定して行ったセグメンテーションが下記の通りです。

「何を撮影して欲しいのか」「撮影された写真を何に利用するのか」という2つのディメンションで市場を切り分けてみました。Aの象限は、個人利用する人物写真=証明写真や家族写真を想定しています。同じ人を対象にした場合の商用利用(D象限)では、ビジネス用のプロフィール写真や採用サイト用の社員の活動写真などが想定できます。といったように「何に使いたいか」というニーズ起点で切り分けています。

ワークシート5「セグメンテーション・ターゲティング」

何をディメンションとして扱うのかが重要になりますが、習うより慣れろです。5つ目のワークシートでチャレンジしてみましょう。

3-2.ターゲティング

セグメンテーションが終われば、切り分けたセグメントのうち、どのセグメントをターゲットとするのか=どのニーズに応えるのかを決めなければなりません。
「自社の強みが活かせそうなセグメント」や「需要が見込めるセグメント」をターゲティングするのが定石です。その際に注意すべきが下記の2点です。
一つ目は、利益確保ができるかという点です。それなりの需要希望が見込めなければ、割いたリソースを回収することができなくります。
二つ目は、実際にマーケティング活動が行えるかという点です。選択したセグメントに対して、情報を提供できるか、効果的なマーケティング施策を設計・実行できるか、という視点が必要になります。ターゲティングしたはいいけど、見込み顧客にリーチするのにコストがかかりすぎたり、計測しようがないほど回りくどくなったりしないようにしましょう。

ワークシート5でセグメント分けした中から、一つないし複数のセグメントを抽出し、印をつけておきましょう。
その上で、応えるニーズを明文化しておきましょう。

ワークシート6「応えるニーズ」

3-3.ペルソナ設計

狙うべきセグメント、応えるべきニーズが明確化したら、次は顧客の解像度を上げるフェーズに入ります。想定顧客に人格を持たせ、一人の象徴的な顧客像を作成します。ここで必要になるのは、選択したセグメントを代表するような顧客像を作り上げることです。
想像だけで作り上げることもできなくはないですが、可能であるならばユーザーインタビューを行いたいところです。選択したセグメントに属する、またはそれに近いユーザーにインタビューを行い、共通項を抽出してペルソナ化していきます。何も100人単位で行う必要はなく、2人から多くても5人くらいにインタビューできればある程度共通する項目が見えてきます。
加えて、サイコグラフィックデータを補うために、ソーシャルリスニング(SNS上での言動を調査)することも有効だと思います。ユーザーインタビューだと、どうしても”用意された答え感”が滲み出ることがあります。その点、ソーシャルリスニングでは比較的本音に近いところが見えてきます。

BtoB企業では、ターゲットとする担当者のペルソナに加えて、ターゲット企業の規模(資本金・従業員数)や業種など、法人としてのペルソナも用意すると良いですね。

ワークシート7「ペルソナ設定」

以降のステップは、ここで設定したペルソナを念頭に置いて進めていきましょう。
ペルソナで設定した人物が、どんなことを求めるのか、どんな悩みを抱えているのか、どんなタッチポイントがあるのかなど、このペルソナにとっての最適解を探していくステップになります。

4.ブランド設計

「誰に」が決まれば、次は「何を」を検討してきます。この「何を」を明確にするフェーズを私は「ブランド設計」と呼んでいます。ブランディングする際にも核となる部分なのでそう呼んでいるのですが、他に呼称が思いつかないだけなので異論がある方は好きに呼んでください。(笑)

4-1.ポジショニング

前の章でSTP分析におけるセグメンテーションとターゲティングを行いました。この章で最初に行うのは、残るポジショニングです。ポジショニングとは「顧客からどう思われたいか」を定義すること、すなわち差別化の出発点でもあります。それを可視化したものがポジショニングマップとなるのですが、それを作る前に準備運動をしましょう。

準備運動として行うのが、連想マップづくりです。
自社の取り扱う商品カテゴリを中心において、ターゲット顧客の頭の中でどんな連想が起きるのかを可視化していきます。
セグメンテーションで利用したフォトグラファーを事例に説明してみましょう。

上図はフォトグラファーの商材である「写真」を起点に作成した連想マップです。切り分けたセグメントのうち、「個人利用×人物写真」のセグメントをターゲットとして設定し、32歳女性をペルソナにしています。
とりあえず、実際に連想マップを作ってみましょう。
とにかく反射的に思いつくものを書き込んでいってください。商材と関係のないワードも歓迎です。どんな連想から商材にたどり着くのか、という点を探っていきます。

ワークシート8「連想マップ」

連想マップができたら、キーワードとなりそうなものを「多くの連想が起きたワード」や「結びつきが強そうなワード」といった視点で探します。
上の例でいくと「思い出」や「おしゃれ」「家族」といったワードがキーワードになりそうですね。

キーワードの抽出ができたら、ポジショニングマップの作成に移ります。
ポジショニングマップはさまざまな切り口で作成することが可能なのですが、とりあえずは「機能的価値」と「情緒的価値」という切り口で作成してみましょう。

ワークシート9「ポジショニングマップ」

ポジショニングマップでは縦軸と横軸をとったマトリクス形式で作成します。縦軸と横軸を取った時に、自社が右上の象限に来るように軸を設定します。
この時に重要になるのが、何を軸とするかですよね。そこで登場するのが、先ほど抽出したキーワードです。先の例で言うと、「思い出」とか「家族」とか「おしゃれ」とか。軸にする際は対照語となるワードとセットにする必要があるので、抽出したワードの類語や言い換えなどを検討しながら、対照語も考えていきます。
例えば、「おしゃれ」を例にとると「カジュアル⇆フォーマル」のような感じですね。下図は「おしゃれ」をキーワードに作成したポジショニングマップです。

ポジショニングマップが作成できたら、AB3C分析で挙げた想定競合をマップの中に落とし込んでいきます。自社と同じようなところに分布される場合は差別化ができそうにないことを意味しますので、軸を取り直して再チャレンジしてみましょう。

4-2.買う理由 / 買わない理由の整理

さて、ポジショニングマップでは競合との位置関係を、3C分析では競合と顧客とのそれぞれの関係性を整理してきました。これまでのことを踏まえて、顧客がその商品を買う理由または買わない理由を整理してみましょう。
ここで使うのがPOP(Point of Parity=同質化要素)とPOD(Point of Difference=差別化要素)です。POPとは、競合も備えている要素で「最低限これがないと買うに値しない」基準となる要素です。一方で、PODは競合にはない要素、差別化要素です。「これがあると買うかもしれない」と思ってもらえる要素ですね。
電動髭剃りの例で考えてみましょう。POPは「肌を痛めずに髭がキレイに剃れる」とか「水洗いOK」とかでしょうか。PODは「充電式でも交流式でもOK」とか「全自動洗浄機能」とかでしょうかね。

POPとPODが整理できたら、次は心理的ハードルになる部分を検討します。心理的ハードルとは買わない言い訳です。大体の人は、買う時に何かしら躊躇します。チョコレート菓子などは「太る」「ダイエット中」なんて理由で買うことを躊躇うでしょうし、先の電動髭剃りで言えば「高い」「T字剃刀でなんとかなっている」などが買わない言い訳になります。
これに対して、買う言い訳を提供したいのです。チョレート菓子で言えば、「カカオにはポリフェノールが含まれていて実は健康的」とか、電動カミソリで言えば「◯年使えるので、T字剃刀よりコスパがいい」とかですかね。

下図のワークシートに自社商品におけるPOP、POD、買わない言い訳、買う言い訳を書き込んでいきましょう。

ワークシート10「POP / POD」

4-3.ブランド・アイデンティティ

ここまでで、顧客にどう思われたいのか、何が競合と違うのかを整理してきました。ここでポジショニングの総仕上げとして、言語化を行います。
ポジショニングにおける注意点の一つに、「提供価値を、シンプルに、エッジを効かせて伝達すること」と言うものがあります。せっかく独自性を見つけることができても、ターゲットに伝わらなければ意味がありませんし、伝わっても理解してもらえなければポジショニングは築けません。また、ブランド・アイデンティティは「顧客への約束」とも言われています。顧客に対して何を提供するのかを明確にすることが必要です。次項の提供価値と併せて検討すると良いかもしれませんん。
キャッチコピーではないので奇を衒ったり、カッコつけたりする必要はありませんが、シンプルでなければならないので、凡そ20文字くらいにまとめるといいでしょう。

スターバックスコーヒーは「サードプレイス」、リッツ・カールトンは「第二の我が家」がブランド・アイデンティティです。ブランド・アイデンティティを見てブランド名が思い浮かぶくらい自社ブランドを表現できるのが理想ですね。「早い・安い・美味い」ときたら吉野家!といった具合です。
また、ブランド・アイデンティティは行動に影響を与えるものです。VisionやValueとの整合性が必要です。加えて、ターゲットユーザーが好感を抱ける必要があるためAB3C分析やペルソナに立ち返って一貫性があるかを検証しましょう。

ワークシート11「ブランド・アイデンティティ」

4-4.提供価値の整理

ブランド設計の最後は、提供価値を言語化することです。
提供価値は大きく分けて2つ、ないし3つあります。それが、機能的価値・情緒的価値・(自己実現価値)です。自己実現価値がカッコ付きなのは情緒的価値に含まれるという考え方があるからです。消耗品などでは自己実現価値を提供することが難しい反面、アパレルブランドでは重要視されるものです。
考えるときの参考に、機能的価値とは客観的な判断基準があり、情緒的価値と自己実現価値には客観的判断基準がないという特徴があります。
自動車で例えると、「燃費がいい」というのは数値化することもでき、客観的に良し悪しを判断することができます。一方で、「デザインが格好いい」(情緒的価値)とか「この車に乗ってる父親はイカしている」(自己実現価値)というのは主観的な基準であり、ユーザーによって捉え方が変わります。

MacBookを例に考えてみましょう。
「Appleシリコンを搭載して処理速度が速くなった」は機能的価値です。「洗練されたフォルムに、シンプルなデザイン→オシャレなPCで仕事のモチベーションが上がる」が情緒的価値であり、「MacBookをスターバックスで開くことにステータスを感じる→”オシャレな生活をしている私”」というのは自己実現価値にあたります。

また、ここで検討する価値が本当に提供できるのかという信頼性を担保する根拠をReason to Belive(RTB)と言います。提供価値とRTBがセットになることで、顧客は納得して購入してくれるようになります。つまり、RTBは説得要素となります。
ワークシートにはそれぞれの価値に対応するRTBを書き込んでおきましょう。

ワークシート12「提供価値」

ここで、提供価値が整理できたら、AB3C分析に戻り、Benefitのところにも書き込みましょう。これでAB3C分析のワークシートが完成です。
つまり、戦略(誰に、何を)を組み立てることができたということです。ここからブレないように戦術へと落とし込んでいきましょう。

5.戦術検討と効果測定指標の設定

さて、ここからはマーケティングフレームワークの「どうやって(How)」、すなわち戦術を検討するフェーズになります。戦術を検討する際は、併せてどうやって効果を測るのかという指標も検討するようにしましょう。そうすることで、やりっぱなしになって効果があったのかどうか分からないという状況を避けることができます。また、効果指標の中から特に重要な指標をKPIとして設定することができます。この章では、Howを設定し、それらをどうやって計測するかまで落とし込みます。

5-1. 4C / 4P

まずは、マーケティング・ミックスを検討します。企業視点のマーケティング・ミックスを4P、顧客視点のマーケティング・ミックスを4Cと言います。顧客視点と企業視点双方から整理しながら、戦略を具体的な戦術に落とし込んでいきます。ここで作成する表は、先に設定してきたポジショニングやブランド・アイデンティティが表されたものです。
検討する順番は顧客視点の4C→企業視点の4Pの順です。

Customer Value(顧客価値)
これは、先に設定した提供価値を表すので、そのままコピペしてOKです。

Customer  Cost(顧客の負担)
上記の顧客価値を手に入れるために必要なコストを書き込んでいきます。
金銭的なコスト(いくらなら支払ってもいいと考えるか)だけでなく、購入するための物理的な距離による移動コストや時間的コスト、購入するまでの心理的コスト(不安感・認知的不協和など)も含めて検討しましょう。

Convenience(入手の容易性)
顧客にとっての買いやすさやアクセスのしやすさを検討します。
購入できる店が多いまたは近くにあるかや、ネットで買える・問い合わせができるなどです。

Communication(コミュニケーション)
顧客が企業とコミュニケーションを取れる仕組みを検討します。
重要なのはコミュニケーションであるという点です。コミュニケーションは一方通行では成り立たないので、双方向からやり取りができる方法を検討します。

さて、ここまで書き込むことができたら、次はそれぞれに対応する企業視点での4Pを検討していきましょう。

Product(製品)
提供価値を実現するために販売する、製品またはサービスを規定します。
それを販売することで、結果として顧客が求める価値を提供することができるというのが前提です。

Price(価格)
提供価値に見合った価格を設定します。価格は4Pの中で唯一、売上を確定的に規定する要素です。また、価格は需要数量に影響を及ぼすので、戦略的に設定することが求められます。顧客にとって支払えるコストであることも重要な要素です。

Place(流通)
代理店を挟むのか、直販するのか、店舗数や販売棚のあり方、輸送方法など、製品・サービスが顧客に届くまでの経路を設定します。顧客はどこでどんな消費行動を取るのかを念頭に検討していきましょう。

Promotion(告知)
顧客に対して、どうやって情報を届けるのかを検討していきます。
トリプルメディアの組み合わせや、広告と広報・PRの組み合わせ、流通業者へのインセンティブなど商材に合わせて、考えうるプロモーション手法を一通り挙げてみるのも良いかもしれません。その中から実現可能性を加味しながら絞っていくと良いでしょう。

ワークシート13「マーケティング・ミックス」

5-2.カスタマージャーニマップと計測指標

いよいよ、具体的な行動策を検討するフェーズに入っていきます。ここではカスタマージャーニーマップ(CJM)を作成していきます。
CJMは顧客の行動を旅程に見立てて可視化していくフレームワークです。顧客の行動をフェーズ毎に設定していくのですが、最初はスタート地点とゴール地点を設定します。スタート地点は認知することなのか、あるいはトライアル購入を終えた段階なのか。ゴール地点は初回購入なのか、リピート購入なのか、はたまた他者への推奨行動なのか。この辺りは、事業の特性や事業フェーズに応じて設定しましょう。
スタート地点とゴール地点が決まればその間を埋めるフェーズを検討していきます。例を挙げると、【認知→興味・関心→検討→購入→再購入】のような感じです。

次のステップは、各フェーズ毎の顧客の行動を推測します。商品LPへの初訪問、比較表の閲覧、資料のダウンロード、SNSのハッシュタグ検索といったオンライン上の行動や、店舗へ新規来店、接客を受ける、ポスティングチラシの閲覧などオフライン上の行動まで考えられると思います。
認知フェーズであれば「リスティング広告のクリック」、検討フェーズであれば「資料ダウンロード」などフェーズに対応した行動を設定しましょう。

続いて、顧客の心情や自社商品イメージがどのように変化すれば次のフェーズに移るかを検討します。これが、ステージのゴールとなります。
例えば、認知フェーズで「便利な商品があることを知る」ことができれば関心のフェーズに移行するかもしれません。購入フェーズで「商品の良さを実感し、また使いたいと思う」ことができれば再購入フェーズへ移行しそうですよね。

各ステージ毎にゴールが設定できたら、次はタッチポイントの検討です。オンラインとオフラインでどんなタッチポイントが想定できるでしょうか。SNS?検索エンジン?友人との会話?OOH(屋外広告)?
同時に、タッチポイントへ誘導するストーリーも考えてみましょう。
ストーリーが見えてくると、評価指標を設定することができます。
オンラインのタッチポイントを例に挙げてみましょう。検索エンジンをタッチポイントに設定した場合、ディメンションをチャネル、メトリクスを新規セッション数とすると、オーガニック検索の流入数を測ることができるので、実際にどれだけ検索エンジンから流入してきたかを測ることができます。

さて、CJMとKPIの設定ができればそのまま「じゃあ、やってみようか」と行動することができるのですが、ブランド視点で考えるとまだ足りません。
それが、「ブランド体験」です。先に設定しているブランド・アイデンティティをどのように感じてもらうかを設計します。
ブランド体験設計の例として、よく挙げられるのが東京ディズニーランドです。TDLでは、わざと舞浜駅から距離を取ることで、歩いてエントランスに向かうように設計されているそうですよ。徐々に「夢と魔法の国」に向かって、日常から離れていく体験をしてもらうそうです。

ワークシート14「カスタマージャーニーマップ」

5-3.KPIツリー

さぁ、いよいよ最後のワークシートです。CJMの作成時にさまざまな指標を設定しましたが、全ての指標を管理し、全ての指標に働きかける施策を打つことができれば最高なのですが、実際にはそうはいきません。施策にかかるコスト、管理にかかる人員や時間は有限です。戦略とはリソースの配分を決めることです。すなわち、やらないことを決めることも重要になります。
そこで重要な指標を選定し、具体的な施策を検討していきましょう。

ワークシート15「KPIツリー」

まず、左端の枠にAs is / To be分析の際に設定したKGIを書き込みます。
以下はロジックツリーの要領でKSFとKPIを設定します。
KSFはKGI達成に最も重要だと思われる要素です。例えば、売上をKGIに設定していたとすると、売上を作る要素は単価×顧客数です。なので、平均購入単価の上昇や顧客数の増加といったものがKSFになりうると考えられます。

平均購入単価を上げる要素にはクロスセルやアップセルが考えられます。この時の指標として、一件当たりの購入点数を数値化して知ることができれば、KPIになりそうです。現状が1点/件であれば2点/件にすることができれば、単純に売上は2倍になっていきますね。ということで一件当たりの購入点数=2点がKPIになります。

では購入点数を上げるためには、どんなことが考えられるでしょうか?
ECであれば、カート直前に「この商品を買われた方は、こんな商品も一緒に買っています」のようなメッセージとともに抱き合わせできる商品を紹介するなどが考えられますね。これが、右端の施策欄に当てはまります。
KGIを達成するための要素→どうやって指標化するか→指標達成のための行動という順番でロジックを組み立てていきます。
出来上がったKPIや施策についても、優先順位を決めておくと予算配分などで悩むことを避けることができます。

最後に

ここまでで、抽象的な目的設定から、目標を定めてそれを達成するまでの具体的な施策を立てるところまでを順序立てて解説してきました。冒頭で説明申し上げた通り、本来は一方通行ではなくて行き来しながら検討するものです。また、マーケティング・ブランディングを行なっていく上では、考えなければいけないことが他にもたくさんあります。
それでも、この記事はマーケティングの入り口として十分機能すると思います。特に、マーケティング経験のない小規模事業者にとっては「今何をするべきか(行動案と即効性)」が求められます。その点、本記事で紹介した全てのワークシートを順調に埋めることができれば、今動けることが見えてくると思います。

実は、本記事で紹介したワークショップの元になった事例があります。
その際にご支援したクライアント様では広告をかけずに成果を上げることができています。これは再現性がありそうだということで、本記事の執筆やワークシートの作成に着手したというのが、ことの経緯です。
上手に使えば、きっとみなさんのお役に立つことができるものと確信しています。

この記事を最後まで読んでくださった皆様には、ワークシートをプレゼントいたしますので、ぜひ実践してみてください。
Googleスライドで作っていますので、ファイルをコピーしてご利用ください。
※β版として公開します。内容は予告なく変更することがあります。

https://docs.google.com/presentation/d/1Y5SoNkYLfmGD-27zxip3PUJT-n4Mg_wM50F20sPACxo/edit?usp=sharing

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