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「なあお前、俺みたいな教師になんてなってくれるな」


「ねえ先生、私、先生みたいな教師になるよ」



塾講時代の教え子と久しぶりに再会した。2年ぶりの、会話だった。



「良いじゃん。君の生徒になる子は幸せだろうな」


「ほんと先生、変わんないね」



そう言われた僕には、なぜか返す言葉がない。



毒親の元で育ったという彼女は最初、お世辞にも愛想が良いとは言えなくて、どこかキツく、そしてどこか寂しそうだった。そして初めて君と会った時、僕はその不完全さをとても綺麗だと思った。


強く、でも儚い君が泣きながら「人生変えたい」と言った時、僕は全力で、君の力になるって決めたのを今でも強く覚えてる。



彼女とは本当に、本当に少しずつ仲良くなった。


教師と生徒とは言っても、僕たちは2歳しか離れていなかった。生徒というよりは後輩のような感じだったし、少し男勝りな彼女も、僕のことを "お前”などと呼んでいた。嫌な気はしなかった。


入試1ヶ月前、いつものように授業を終えると、彼女から一通のLINEが来る。


「教え子が受かるか不安なバカ教師、不安なら家で続き教えよ?今日明日、お父さんいないの」


今までも空いている時は休憩室で教えたり、休日カフェで教えたりなどはしていたけど、家に呼ばれたのは初めてだった。


担当し始めて10ヶ月経とうとしていたその時の僕らは完全に友達のそれ。でも彼女といる時間が楽しかったものだから、女性としてかなり意識し始めていたのを覚えてる。

恋人みたいにいじったり、いじられたり。そんな他愛もないやり取りでさえする仲になっていた。


いけないことはわかってた。でも行くだけなら、と。

そう自分に言い聞かせて、その日の夜は彼女の家に向かった。


意識しなかったと言えば嘘になる。それでも彼女はいつも通り遅くまで頑張った。僕もいつも通り、彼女の教師として教えた。


その日の課題が全て終わり、シャワーも済ませた僕らは軽く談笑して、そして、寝た。


何時だっただろう。もう、あんまり覚えていない。

たぶん君はベットから降りてきて、そのまま僕の布団に入ってきた。普段からじゃ考えられない程か細い声で言った。


「ねえ先生。今日だけ」


普段はあんなに強気で健気に努力する君からは想像もつかない言葉だった。けど同時に、そんな君を少し愛おしく思った。

曖昧で不確かで、でも確かにそこにいる、「君」

でも応えられなかった。だって、僕たちは所詮、教師と生徒だから。


「先生気づいてんのに "先生" だからってちょっとからかって逃げる。周りの "イケナイ" に怯えてわたしから逃げるのウザい。」


ごめんね。


「なに言ってんの」

なんてかわした僕は、最低な教師だ。


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彼女は無事に志望大に合格した。


試験当日までも、そしてその後も、僕たちはあの日の夜のことを決して口には出さなかった。


「先生ありがとう」


「君が頑張ったからだよ」


「そうだよね。わたし頑張った。わたし強い」


「うん。君は本当に強かった。最後まで諦めなかったし」


「それ本当に言ってる?」

「ん、なんで?」

「なんでもないよ。ばかだね」


俺もほんと、ばかだと思った。


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なあ、俺お前のこと大好きだったよ。


なんど挫けても諦めないで夢を叶えてく。強いけど強がってるだけ。そんなお前が毎日愛おしかった。拒みたくなかった。あの時受け入れてたら、君はどうしてただろう。


時を得て初めて認めた自分の本音。



「ねえ先生、私、お前みたいな教師になるよ」


「バーカ。なに言ってんの」


なにを言ってるのかわからない。




「なあお前、俺みたいな教師になんてなってくれるな」

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