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Books, Life, Diversity #5

「新刊本」#5

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ジェイミー・バートレット『ラディカルズ―世界を塗り替える〈過激な人たち〉』中村雅子訳、双葉社、2019年

未来を予測するのは、現実的には不可能です。いま、私たちが当然と思っていることが完全に廃れてしまうかもしれませんし、逆にまさかと思っているような極一部の過激な運動が当たりまえのものになるかもしれません。この本の著者は、そういった過激で突拍子もないように見えるものごとを信じてそれに突き進む人びとのところへ、直に赴き取材をしていきます。確かにそこにはとんでもない(と思える)人びとがいるのですが、けれども、それがいま私たちを強固に捉えている様ざまな思い込みや既成概念をいつか破壊しないと誰に断言できるでしょうか。文章も構成も読みやすく、「どうせこの社会状況を変えることはできないんだ」と疲れてしまったときに読むと、ふっと(悪い意味ではなく)笑って、肩の力が抜けるかもしれません。

「表紙の美しい本」#5

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『安部公房全集029 1990.01-1993.01』新潮社、2000年

一応哲学を研究しているにもかかわらず、私はいわゆる全集というものが好きではありません。偏見なのですが、何だか重々しくずらっと並んだ全集を見ると権力の象徴のように見えてしまうのです。もちろん、資料的な意味では大切でしょうし、繰り返しますが単なる偏見です。そんな私が唯一持っている全集です。といってもこの一冊のみなので、果たして全集を持っていると言えるのかどうか。あれはいつだったかな……正社員を辞めたときか、「飛ぶ男」を読みたかったので買った本です。けれども、この本についてはいろいろ葛藤があり、実はまだ一切目を通していません(安部公房自体はもっとも好きな作家のひとりなので、生前に出版されたものはほぼ読んでいます)。まあそんなことはどうでも良いですね。装丁は近藤一弥氏によるものです。本それ自体が一つの芸術作品であるかのように美しい。重量もありしっかり作られたそれは、正確に切り出された砂岩のようです。彼の『砂漠の思想』からの連想かもしれませんが、誰もいない荒涼とした砂漠のなか、その一部を静かに覗かせている遥か古代の遺物のようです。箱の表は一部が刳り貫かれており、本体表紙に埋め込まれている英文タイトルの刻まれた金属製のプレートが見えています。安部公房の写真は好きなので写真集も持っているのですが、裏表紙裏に印刷されているカラスの写真も素晴らしい。物悲しくも乾いた死を表象しているようです。あ、これ「表紙が美しい」というよりも、すべてが美しい本ですね。

「読んでほしい本」#5

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アルカジイ・ストルガツキー、ボリス・ストルガツキー『ストーカー』深見弾訳、ハヤカワ文庫、2008年(9刷)

以下、小説の内容に触れています。ネタバレを気にする方はここでおやめください。一読の価値は必ずある本ということだけお伝えします。

あるとき地球に来訪し、けれど何の接触もないまま去っていった異星の文明が残した「ゾーン」。そこには地球の科学では理解できない様々な物や現象が遺されていました。そこへ違法侵入し、人間の利益となるような何かしらを持ち出してくるのが、ストーカーと呼ばれる人びとです。けれどもゾーンには人知の及ばない危険が満ちており、多くのストーカーが命を落とすか、あるいはよりひどい運命に見舞われます。それを知りつついったい何が彼らを駆り立てるのか。そんな彼らの間にひとつの伝説があります。ゾーンのある場所に黄金の玉と呼ばれる物があり、それは人間のあらゆる願いを叶えてくれるというのです(ただしそれは本当の願いでなければなりません)。主人公は物語を通して多くのものを失い、奪われながら、それでも遂にその玉のもとへ辿り着きます。そこで放たれる彼の叫びが胸を打つのです。

おれは動物だ、このとおりおれは動物だ。おれは喋ることができん。ことばを教えてくれなかった。おれは考えることができん。やつらはおれに考えることを教えてくれなかったからだ。だが、もしおまえが、本当に全能で……全知で……なんでもわかっているんだったら……自分で解いてみろ! おれの魂を覗いてみるんだ。おまえに必要なものが全部そこにあるはずだ、おれにはわかっている。必ずそうだ! おれは一度だって誰にもこの魂を売り渡したことはないんだぞ! これはおれの魂だ、人間の魂なんだ! さ、そっちで勝手におれが望んでいるものをおれから引きだしてみろ、おれが悪を望んでいるわけがないんだ!……そんなことはどうだっていい、おれはなにも考えることができんのだ、やつの言ったあのガキっぽいことばしか……すべてのものに幸福をわけてやるぞ、無料で。だから、だれも不幸なままで帰しゃしないぞ!(p.272-273)

玉が彼の願いを叶えてくれるのか、何も起きないのか、あるいはまた、まったく想像もつかない何かが起きるのか。しかしそんなことはどうでも良いのです。すでに奇跡は起こっている。その奇跡が与えるのは喜びではなく、恐らく人間として可能である限界を超えた悲しみかもしれませんが、それでも、まさにこの瞬間、奇跡が起きているのです。

なお、原題は「路傍のピクニック」だそうです。これは登場人物の一人が語る言葉にあるのですが、とても恐ろしい。異星人とのコンタクトなどと思って騒ぎ足掻いているのは人間側だけで、そこに残されたものは、私たちが路傍のピクニックをして立ち去った後に残されたゴミのようなものでしかない。それでも、欲望に支配された私たちはそのゴミに右往左往し人生を破壊されていく。そこには人間の悲しみと、そして他者とのコンタクトが根源的に抱えている断絶が鋭く描かれています。

そんなこんなで、また次回。

この一連の記事では、出版支援として以下のプロジェクト/情報へのリンクを毎回貼らせていただきます


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